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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 碧猫
2章 エレ編 御巫と聖女
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プロローグ ある御巫の話


【彼女は陽緒。科学の力で発展を遂げた都市クルゼンで暮らす一般的な女学生。腰上までの薄紫色の髪を一つに束ね、茶色の制服を着こなしている。

 灰色の地面を共に歩く金髪の少年。彼は和泉。陽緒の同級生で幼馴染。


 二人はいつものように学園に向かっていた。学園まではまだ十分以上かかるであろう場所。そこで二人は神隠しのように姿を消した。

 捜索隊が出されたが、目撃証言が一つもなく未解決の行方不明事件となったのは二人が知る事ではないだろう。


 二人だけが知る事。それは、神隠しに遭う前に紺色のローブを着た老婆に会った事。顔を見せない怪しげな老婆は一言


「本物の御巫様」


 そう言っていた。そしてその言葉を聞いた後、二人は科学都市クルゼンからいなくなった。



 消えた二人が姿を見せた場所——それは別世界。地面は土。石のところもある。クルゼンを見てきた二人から見れば発展途上の場所。小さな村の中。

 そこで二人は御巫と呼ばれた。村で一番豪華な家を贈られた。

 その瞬間から二人は、御巫であらねばならなくなった。


「貴様らが、御巫か……素質はあるが、まだ幼いな。だが、見込みはありそうだ。他の誰かに取られるのは惜しい。どうだ? 俺に選ばれてみないか? 」


 それは二人の御巫の運命を変える青年の言葉。黄金蝶——イールグ・ジュレン・シェリング。


 イールグ・ジュレン・シェリング選名

 聖星の御巫候補——ピュオ・リリシア・キュリフェー

 星月の御巫候補——ノーヴェイズ・コンゼット・シェーンテル

 記述者ユグベーズ、両二名の御巫候補認証。黄金蝶イールグの御巫としての任命に賛同する。


 この任命から二人に御巫としての身分が与えられた。


 二人はこの世界の事を何も知らないため、一年は勉学の時間となった。

 一年後、二人の御巫は村人からある頼みを聞く事になる。

 その頼み事は浄化。魔物が湧き出ていると思われる場所を浄化して欲しいと頼まれた。


 二人は村のためにもその場所へ向かう。


 その道中は整備されている道ばかりを歩いてきた二人には険しいものだろう。村はまだかわいい方だった。そう感じていてもおかしくはない。


 岩が剥き出しになっている道とは言えない場所を歩いている。岩でバランスを崩し転びかける事も多々あった。それでも、二人は諦めて帰る事なくその場所まで向かった。


 村人から聞いた場所。道中も目的地も魔物などいない。それどころか、動物も見かけなかった。


 その場所は二人の元いた世界の噴水によく似ていた。だが、水はない。乾いた噴水、そう呼ぶのがいいだろう。


 乾いた噴水の中央。水が吹き出していたであろう場所。そこに立つ一人の女性。赤髪の女性が背を見せている。

 振り返る赤髪の女性。息を呑むほど美しい。目を奪われる。

 赤髪の女性が陽緒をじっと見つめる。


「……じゃない……じぇと……ずじゃ……ない」


 彼女の視界には陽緒を映しているようで、別の人物を映している。

 その人物を二人が知る事はずっとずっと遠い未来となるだろう。


「……して……返して! ……返して! ……を……絶対……を……ない! 」


 赤髪の女性から真っ黒い霧のようなものが溢れ出す。その異様さは二人も気づいていただろう。だが、まだこの世界を知らなすぎた。多少魔法の心得を持っていれば大丈夫などという慢心があったのだろう。


 御巫の素質を持つ二人はその心得だけで一般人を上回る能力を手に入れたのだから。


 もしくは、親切に対応すれば大丈夫という謎の自信でもあったんだろう。


「あの、どなたかお探しなんですか? 私達が手伝いましょうか? 」


「おれ達、御巫らしいんです。御巫は人のために存在するらしいので、手伝いなら遠慮せず言ってください」


 危険という事は誰でもわかるというのに声をかけた二人。

 赤髪の女性は何も答えない。

 何も言わずに赤髪の女性が消える。真っ黒い霧を残して。


 霧は陽緒にまとわりつき視界から見えなくなる。


「陽緒、大丈夫? 」


「うん。大丈夫だよ」


 霧の影響は何もない。もう見えない。それがなんだったんだろうか。そう疑問に持つ事はあったんだろう。だが、なんの警戒もしていなかった。この後起こる事など想像すらしていなかっただろう。


 その異変——悲劇は二人が村へ戻った後から始まった。

 初めが誰だったのか。それはもう誰にもわからない。それがなぜか——村人がいなくなったから。

 正確に言うならば、二人を残して村人全員が魔物のような姿へと変貌した。


 その事が公になったのは村人の三分の一が変貌した後。陽緒はすぐに対応した。変貌した村人達に浄化魔法をかけ、元の姿へ戻そうと試みた。だが、結果は残酷なものだ。


 一方、和泉の方は村から離れて原因の調査をする事となった。


「大丈夫ですか? 」


「……」


 まだ被害に遭っていない小さな女の子が一人で泣いていた。女の子をほっとく事などできなかったのだろう。陽緒は女の子に声をかけた。

 だが、女の子は何も言わずにどこかへ行ってしまう。


「……なんだったんだろう。大丈夫なのかな? 」


 陽緒は逃げた女の子を探した。どれだけ探してもその女の子を見つけられはしなかった。


 その日を境に、まだ人の姿を保てている村人が変わった。村人は皆、御巫に関するある噂を耳にした。その噂を信じた。自分達があの魔物のような姿へ変貌しないためにと、陽緒を生贄にしようと追いかけた。


 そんな事は知らない陽緒は何も理解できないまま逃げ続けた。何日も、何日も。


 なんの因果なんだろうか。辿り着いた場所は——あの枯れた噴水。


「なんで……なんでみんな追いかけて」


 枯れた噴水に水滴が落ちる。ぽちゃぽちゃと落ちる水滴はすぐに蒸発する。


 どういうわけか村人は村の外へは出ない。そしてここには魔物がいない。唯一の安全の場所と言ってもいいのだろう。

 ずっと逃げ続けて疲れた身体を枯れた噴水に預ける。重い瞼を閉じるといつの間にか眠っている。


「……いや! ……はっ⁉︎ ……朝……じゃない……昼? ……和泉」


 思い浮かべるのは学園卒業後に結婚の話までしていた幼馴染。一人で暮らす陽緒は隣の家だった和泉一家に世話になっていた。自然と結婚するものと疑わなくなっていた。実際、あのままあそこで暮らしていれば今頃は二人は結婚していたんだろう。和泉は研究者になり、陽緒は和泉を支えていたんだろう。


 そんな想像は虚しいものだ。全て叶いはしないのだから。


「……和泉」


 ずっと和泉の事を考えながら、夜になると眠りにつく。次に目覚めるのは——



 何も知らない和泉が帰ってきたのは一年後。村の中で陽緒を探すが見つかるわけがない。


 くぃくぃっと小さな手が和泉の服を引っ張る。


「……誰か探してるの? 」


 愛らしい声。ここにいるはずなのにここにはいないような女の子。


「えっと、聖星の御巫? を探してるんだ。君は、どうしてこんな場所に? 」


 すでに村人は皆魔物のような姿をしている。だが、この女の子はなぜか無事だ。


「きれいなお水がありそうな場所だよ」


 そう言って小さな手が離れる。女の子は走ってどこかへ行ってしまう。なぜ知っているのか。疑問に思うより先に足が動いていた。

 あの枯れた噴水へ向かう。そこで和泉が見たのは、眠っている陽緒の姿。


「陽緒! ……陽緒! 」


 外傷はないが、目を覚さない。その理由がわからず、とにかく起こそうとしていた。その時、和泉の頭上に落ちてきた一枚の紙。それは、未完成の魔法機械の設計図。


「これなら、陽緒を守れる。それに……平和な……あそこのような景色を見せられる」 


 和泉はこの魔法機械を作る事を決心した。だが、これは巨大な領土が必要だ。何年かかるかもわからない。理論的には作れなくはないが、作るには相当な技術が必要だ。


 まずは国づくり。そして、国の基盤を築いた後から設計図の完成を目指す。


 国の名は——アスティディア。世界最高峰の魔法機械——世界管理システムに守られし国。


 アスティディア建国省略記

 国王承認の元、世界管理システム内に全文保存


 ——ユグベーズ手記より】

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