8話 聖女の頼まれごと
フィルに連絡魔法具を修理してもらって、転移魔法で家に帰る。先に帰っていたエルとティアが、ソファに座っている。
ティアは誰かと連絡しているみたい。終わるまでは黙っておいた方がいいかな。
「はい、はい。わかりました。神和の聖女の名にかけて、必ず救います」
ああ、連絡相手は神官長か。神話の聖女は神殿になくてはならない存在。その理由の一つが特殊な浄化依頼。魔物の湧きやすい場所の浄化とか諸々。
休暇をもらっているとは言っても、そういう依頼は対処が遅いと被害が拡大する。
通話はもう終わったのかな。僕がティアに声をかけようとすると向こうから話しかけられた。
「えっと、かけら探し中の中大変申し訳ないんだけど、少し付き合ってもらえるかな? 神殿から浄化の依頼がきて。魔物が大量に出現しているみたいだから、私一人だと」
あったりー。何戦か知らないけど、かけら探し始めてから全戦全勝。もはや勘じゃなくて、予知能力疑われそう。僕のこれは未来視に近いから否定できないんだけど。
「いいよ。ていうか、そんな断られるかもみたいな言い方しなくても。僕だって付き合ってもらってんだから。お互い助け合い、だよ」
元々かけら探しなんて、僕のわがままから始まってるんだ。ティアの困り事に手を貸さないなんて選択肢は、僕らの中にないよ。
場所に関しては、ティアが連絡魔法具のメッセージ機能で地図を送ってくれる。確認確認。
海に面している小国ギンギモート。今ではどこの国も設置されている、転移魔法での位置ずれ防止の補助ゲートが存在しない国。
地図で座標を確認して、転移魔法を使う。エルならいいんだけど、ティアも補助ゲートを作るきっかけを、くれたお姫様よりましでもたまぁぁに位置ズレるから。
青色の街並み。僕ここすきかも。街ゆく人の服装は薄着。ここは王都なんだけど、ここでは魔物の被害はないみたい。
今は安全ってだけだろうけどね。このまま近隣の被害をほっといたら、いずれはここも被害に遭う。
一般市民は知らなくても、王国騎士なら魔物の被害がある場所も知っているんじゃないかな。
噂をすれば。ここの国の紋章が付いた鎧をきている騎士発見。巡回みたい。周辺の魔物騒ぎで警戒しているのかな。
「あっ、いた。あの、もしかしてこの国の騎士様ですか? 」
僕は騎士に声をかける。騎士は僕じゃなくて、そばにいたティアを見る。
「こ、これは⁉︎ 神和の聖女ミティアーネル様ではないですか⁉︎ お勤め感謝いたします」
こういう時の聖女はほんとに便利な称号。騎士がティアに敬礼している。これはティアに全部任せた方がいいかな。
「えっと、神殿からこの国で魔物が大量に出現しているという話を伺いました。その辺で出ているのか知っていますか? 」
「王都では現在出現しておりませんが、周辺では出現を確認しております。はじめに出た場所はキョアットという村でして、そこからどんどん増えていきました」
ティアが説明したからかすんなりと情報入手。キョアットは普通にいけばここから二、三日くらいかかるかな。
魔物が湧く原因となっているものは、そこにある可能性が高い。僕はティアに「もう大丈夫。」って教える。欲しい情報は手に入ったから。
「ありがとうございます。これ以上の被害が出ないよう最善を尽くします」
ティアが対応してる間に、どこか人の目につかない場所を探す。近くにちょうどいい場所発見。店が並んでいる。その間にある隙間じゃなくて裏路地。
ティアが騎士の対応を終えている。僕らは裏路地へ向かう。
一目につかないように、裏路地から転移魔法を使う。騎士が言ってたキョアットって場所。小さな村みたいで家が少ない。人は外にはいない。
「……ここにはいなさそうだね」
周囲を確認するけど、魔物なんていないんだ。僕が別の場所を探そうと提案しようとすると
「……向こうの方から何か感じる。村を出たところかな」
ティアが何かを感じ取ったみたい。右手を動かすティア。指さす場所は岩が集まる足場の悪い場所。僕はエルとティアを見る。具体的には二人の服装。
「あの辺りって岩が多い場所だよね? 二人ともその格好で大丈夫? 歩きにくくない? 」
聖衣って運動に向かないよ。見るからに動きづらそう。エルの心配はしていないけどさ。
「大丈夫だよ。この格好で動くのは慣れているから」
ティアがそう言うなら。大丈夫って信じようかな。
「そっか。なら夜にならないうちに解決したいから走るよ」
二人ともほんとに大丈夫そう。動きにくそうな聖衣でぴょんぴょんと岩を渡る。
長い事その衣装で過ごして慣れたのかな。
これならティアが探知した場所に、暗くなる前に行ける。ちなみに今は少しずつ暗くなっているとこ。
岩の次は森林。こっちの方が僕的には走りやすいかな。
二人がどうなのかわからないけど。
走っていると魔物発見。黒いのは当然として、狼みたいな姿に猪みたいな姿。二メートルくらいの比較小さな龍の姿まで多種多様。魔物の姿は能力に関わるから結構重要なんだ。
僕が浄化魔法使って魔物を浄化するけど、増援が来た。
「……近いのかな? 気配感じる? 」
ここまで増援が来るのは、通常だとあり得ない。魔物を生み出し続ける、魔星の塊がある証拠。
「うん……もう見えてもおかしくないくらい近い気がする……木々で隠れて見えないのかな」
小さければ十分あり得る。ティアに言われて立ち止まっていると死角になる部分を探してみる。魔物がずっと沸いているから浄化魔法を使いながら。
ここかなって適当に選んだ木の反対に回ると、小さな黒い穴みたいなのがある。これが魔物を生み出す原因。あの時かけらの力を借りてすぐに浄化したから起きなかった現象。
「ティア、これじゃない? 」
僕はティアを呼んだ。ティアが確認して頷く。
「うん。そうそう。ありがとう。浄化するね」
ティアが収納魔法から錫杖を取り出す。両手で握られた錫杖の先端にピンクの光。
「神魔の星の音色、聖浄を届け」
魔聖にも呪言自体は存在するんだ。ピンクの光が黒い穴を包み込む。光と一緒に穴も消えている。
「……エル、妹とシェフィに全部任せるとかどうなの? 少しは手伝おうと思わない? 」
とうとうそれにつっこんだか。エルはここに来てからずっと浄化魔法すら使わずに突っ立っている。しかも、どうやって見つけたか知らない安全地帯で。
「シェフィの方を手伝ってる。見て、反応がある」
エルが袖の奥から魔星の入った箱を僕に渡す。多分収納袋を仕込んでいる。
穴から見える魔星がぴかぴか光ってる。魔聖の塊はもう消えているから、それじゃない。そもそもあれにはそこまで反応しないと思う。
ただ、不思議なのが
「あれ以外にこの近くに魔星があるって事? へぇ、珍しい事もあるもんだね。近くに二つもあるなんて」
属性。そういう認識でいいのかな。魔聖はおんなじ属性で近くに集まる。でも、今回は違う。
「それがかけらかどうかは、反応だけだとわからないけど。別種の二つの反応は珍しいから可能性は高そう。探してみる価値はあると思う」
僕が箱を返すと、エルがそう言いながら袖の中に箱をしまっている。
「うん……ティア、魔物の反応はない魔星の場所ってわかる? 」
ティアが首を横に振る。魔星の探知。もしかけらなら尚更、ティア以外に思いつくのは一人だけ。僕は左手を胸に当てて彼女に呼びかける。んだけど——
起きているみたい。なのに反応がない。集中して僕に気づいてない。
「……だめだ。元々一度集中しだすと、人の話聞かない子だから」
「あの子ならわかるはずなんだけど……他に方法って」
ティアも彼女ならできるって思ってるんだ。頼れないけど。
「……あの子のようにはいかないけど、候補を出すくらいならできると思う。その後に勘頼れば」
僕だからこそできる方法。僕の中にあるかけらと外にあるかけら。そのつながりの探知。ただ、これ制度がかなり低くて。いくつかの候補地の中に正解がある感じ。
僕が探知した候補地は十ヶ所。全部この辺りではある。その中で一番遠い場所。僕はそこを選んだ。
「こっちに何かあると思う。少し遠いけど行ってみよ」
僕らは走ってそこへ向かう。風が僕らの背中を教えてくれる。
「……すごい。長年聖女としていろんな場所を回ってきたけど、こんな不思議な場所久しぶりよ」
ティアが上を見ている。そこにあるのは青色の葉っぱ。確かに珍しいかも。緑や茶色以外の葉っぱ。
エルがティアの右手を握る。
もし、ここに僕の大切な妹がいれば、あの子もティアみたいに葉っぱを見るのかな。葉っぱを見ながら走るから危なっかしくて、僕があの子の手を握るのかな。
おんなじ双子。ティアとエルに自分達の事を重ねる。あの子はティア以上に危なっかしいから、上を見ていなくても手も目も離せないけど。
走り続けていると森林の終わりが見えた。終わりの先にあるのは桃色の花畑。そして、長い髪を靡かせる少女の後ろ姿。




