8話 聖女の頼まれごと
フィルに連絡魔法具を改造してもらった後、フィルと別れシェフィムは転移魔法を使った。
神官エルと金髪の少女は魔法具技師協会を出てすぐに帰って、ソファに座っている。
以前の古屋とは見違えるほど綺麗な内装。広く白を主色としたリビング。
シェフィムが帰ってくると金髪の少女が誰かと通話している。
「はい、はい。わかりました。神和の聖女の名にかけて、必ず救います」
神和の聖女ミティアーネル。彼女は神殿にとってなくてはならない存在だ。通話の相手は神官長からだろう。内容は聖女としての仕事依頼といったところか。
シェフィムが声をかけようとすると神和の聖女ミティアーネルがシェフィム達の方を向いた。
「えっと、かけら探し中の中大変申し訳ないんだけど、少し付き合ってもらえるかな? 神殿から浄化の依頼がきて。魔物が大量に出現しているみたいだから、私一人だと」
「いいよ。ていうか、そんな断られるかもみたいな言い方しなくても。僕だって付き合ってもらってんだから。お互い助け合い、だよ」
今の所かけらの関連性は低い。だが、神和の聖女ミティアーネルが困っているのであれば手を貸さない理由はない。
シェフィムはすぐに返事をする。
神和の聖女ミティアーネルが連絡魔法具に地図を送ってくれる。そこは海に囲まれた大陸。その大陸にある小国ギンギモート。
現在ではどの国も設置してある転移魔法補助ゲートが存在しない国。
シェフィムは地図で座標を確認して転移魔法を使った。
青色の街並み。街ゆく人々は薄い服をきている。王都では魔物の被害が出ていないのだろう。
だが、近隣で被害が出ているのであればいつ王都に出てもおかしくはないと王国騎士が巡回しているだろう。
周囲を見渡すと王国の紋章が付いている鎧を着た人物が歩いている。
「あっ、いた。あの、もしかしてこの国の騎士様ですか? 」
シェフィムは鎧を着た男に声をかけた。鎧を着た男が神和の聖女ミティアーネルに視線を向ける。
「こ、これは⁉︎ 神和の聖女ミティアーネル様ではないですか⁉︎ お勤め感謝いたします」
鎧の男が神和の聖女ミティアーネルに敬礼をする。
シェフィムは神和の聖女ミティアーネルを前に出して説明を任せる。
「えっと、神殿からこの国で魔物が大量に出現しているという話を伺いました。その辺で出ているのか知っていますか? 」
「王都では現在出現しておりませんが、周辺では出現を確認しております。はじめに出た場所はギュアットという村でして、そこからどんどん増えていきました」
神和の聖女ミティアーネルから送られてきた地図ではギュアットは王都からそれなりに離れている。歩いて二、三日かかるだろう。
シェフィムは神和の聖女ミティアーネルに「もう大丈夫」と教える。
「ありがとうございます。これ以上の被害が出ないよう最善を尽くします」
神和の聖女ミティアーネルがお辞儀をする。彼女に対応は任せてシェフィムは人通りの少ない場所を探す。
ちょうど良さそうな場所を見つけた。店が並んでいる。その間に暗い路地裏が存在する。
神和の聖女ミティアーネルが鎧の男の対応を終えるとシェフィム達は裏路地へ向かった。
路地裏で転移魔法を使う。転移先は鎧の男が言っていたギュアット。人が少ない村のようだ。外には一人も村人がいない。
「……ここにはいなさそうだね」
「……向こうの方から何か感じる。村を出たところかな」
神和の聖女ミティアーネルが何かを感じ取ったようだ。シェフィムは神和の聖女ミティアーネルの指さす方を見る。
「あの辺りって岩が多い場所だよね? 二人ともその格好で大丈夫? 歩きにくくない? 」
神官と聖女の衣装は運動に適していない。神官エルと神和の聖女ミティアーネルはその適していない衣装を着ている。
「大丈夫だよ。この格好で動くのは慣れているから」
「そっか。なら夜にならないうちに解決したいから走るよ」
二人とも長い間この衣装で過ごして慣れたのだろう。シェフィム達は急いで神和の聖女ミティアーネルの感知した場所へ向かう。
森林の中を走り続けていると魔物の群れと遭遇した。
真っ黒く獣のような姿をする魔物。シェフィムは浄化魔法を使った。浄化され白い光となる魔物達に祈りを捧げる暇もなく魔物の増援がくる。
「……近いのかな? 気配感じる? 」
「うん……もう見えてもおかしくないくらい近い気がする……木々で隠れて見えないのかな」
シェフィムは浄化魔法を使いながら周囲を慎重に調査する。
小さいが宙に浮いている真っ黒い塊が木の影に隠れていた。穴から黒い光が出る。光が集まり魔物に変わる。
「ティア、これじゃない? 」
「うん。そうそう。ありがとう。浄化するね」
神和の聖女ミティアーネルがシェフィムのそばへ来る。収納魔法から魔法杖を取り出すと両手で持った。魔法杖の先端がピンク色の光りで包まれる。
「神魔の星の音色、聖浄を届け」
ピンク色の光りが真っ黒い穴を包み込む。数十秒ほどで光りが収まると真っ黒い穴が消えた。
「……エル、妹とシェフィに全部任せるとかどうなの? 少しは手伝おうと思わない? 」
神官エルがここへきてからずっと浄化もせず、ただ安全地帯で突っ立っている。
「シェフィの方を手伝ってる。見て、反応がある」
神官エルから魔星の入った魔法具を見せてもらう。穴から魔星を覗くとぴかぴかと光っている。穴があった場所に視線を移すが消えている。再び魔法具に視線を移す。光っている。
数回繰り返したのち、シェフィムは顔を上げて神官エルを見る。
「あれ以外にこの近くに魔星があるって事? へぇ、珍しい事もあるもんだね。近くに二つもあるなんて」
「それがかけらかどうかは反応だけだとわからないけど。別種の二つの反応は珍しいから可能性は高そう。探してみる価値はあると思う」
「うん……ティア、魔物の反応はない魔星の場所ってわかる? 」
神和の聖女ミティアーネルが首を横に振る。魔星の感知において他に頼れる人物となると一人しか思いつかない。シェフィムは左手を胸に当てた。
起きてはいるようだが、かけらの少女からの反応はない。どうやら情報収集に忙しく気づいていないようだ。
「……だめだ。元々一度集中しだすと人の話聞かない子だから」
「あの子ならわかるはずなんだけど……他に方法って」
「……あの子のようにはいかないけど、候補を出すくらいならできると思う。その後に勘頼れば」
シェフィムはかけらとのつながりを頼りに、探知魔法を使う。わずかなつながりでは正確な位置まではわからない。だが、言葉通りいくつかの候補地を出す事には成功した。
候補地は全部で十ヶ所。その中で最も遠い場所をシェフィムは選んだ。
「こっちに何かあると思う。少し遠いけど行ってみよ」
シェフィム達は森林の奥へ進む。足音に混ざり風の音が聞こえる。冷えた風が三人の背中を押す。
「……すごい。長年聖女としていろんな場所を回ってきたけど、こんな不思議な場所久しぶりよ」
神和の聖女ミティアーネルが上を見ている。上に見えるのは青色の葉っぱ。この辺の木々は青い葉を生やすようだ。
揺れる青い葉を見ている神和の聖女ミティアーネルの右手を神官エルが握った。
ここに少女がいれば、少女は彼女のように前を見ないんだろうか。危なっかしいから自分は彼のように少女の手を握り離さないんだろうか。
双子の二人に自分達を重ねてシェフィムは目を細めた。
走っていると森林の終わりが見える。その先に広がるのは桃色の花畑。少女の後ろ姿がシェフィムの視界に映った。




