7話 職人の姫
改築後の家は快適。広くて自分の部屋もあって、家具も全て高級品。僕らはかけら探しのために、ソファに座って情報収集をする事にした。
まずは、何か仕事の依頼がきていないか確認する。連絡魔法具を右腕から外して起動させる。画面が出てこない。もう一度——
「……故障かな。動かない」
やっぱ画面が出てこない。ここには直せるような道具がない。壊れれば買い直すしかない。僕がしている仕事は危険を伴う分、報酬が多いから余裕で買う金は持ってる。でも
「……いやなんだよな。これ買い直すの。フィルに送れば直してくれないかな」
これだけはどうしても、買い直したくないんだ。これ、かなり古い魔法具なんだ。だから壊れるのは仕方ない。買い直す方が早い。全部わかっているけど。
「シェフィ、職人街にかけらの反応があった。ぼくは会えなかったけど、シェフィがいれば会えるかもしれない。そのついでに協会で直すのはどう? 」
ああ、家の改築手伝いたくないからって、改築中エルは逃げてたんだった。その時に職人街に行ってたんだ。それにしてもさっすが、僕の信頼するパートナー。逃げたくせに、僕の欲しい情報を持ってきてくれるなんて。
僕が飛びつこうとしたら、エルが避けた。
「なんで避けるの」
拗ねた感じで言ってみる。この前だって、エルは避けてきたから。
「なんで飛びつこうとするの? それがそんなに大事なの? 」
飛びつこうとするのは、愛情表現的なもの?
「うん。これ、エレとフィルから貰ったんだ。僕が使いやすいようにって考えて作ってくれたんだって。初めて作った魔法具を、僕にくれるなんて、ほんとにかわいい妹だよね」
僕のこの連絡魔法具は、市販品じゃない。僕のためだけに作られたもの。初めて二人が作った魔法具。エレが設計して、フィルが製作。僕の宝物なんだ。
だから、どうしても直したい。かけらの件もあるから、ちょうどいいって事で転移魔法を使う。
見た目は普通のレンガ道。でも、レンガの硬さはないんだ。足が疲れないように追求されている。僕の中で眠っているこの子が歩いていて、足が痛くなりづらそう。
並んでいる建物のほとんどは、職人の集う協会。職人が使う宿舎もある。
頑丈さは当然として、さすがは職人達が集う職人街。芸術性がすばらしい。そう思わせる遊び心がある。
魔法具技師協会。そう書かれた看板の建物に入る。
「あの子に会いたくないんじゃ」
「大丈夫だよ。あの子はこの街にいないから」
僕が堂々としているから、ティアが心配になったみたい。僕は笑顔で返した。
エレもフォルも、この建物に来る事が多いけど、今はいない。
建物の中。棚に珍しい素材と、魔法具が置かれている。
「お久しぶりです。シェフィム様」
受付嬢が僕に声をかける。僕も一応、ここ魔法具技師協会所属の魔法具技師としての資格を持っているんだ。それに、魔法具が入り用になるたびにきている。だから、ここの人達の多くと顔馴染み。
受付で魔法具技師免許を見せる。
「うん。久しぶり。一応見せておくよ。既定らしいから。えっと、作業室って空いてるのかな? 」
「ええ。001号室でお願いします。それと、シェフィム様は資格提示しなくてよろしいですよ。ここで知らない者などおりませんから」
受付の机に置かれた、001号室とシールが貼られた鍵。ついでにもう一つの用事も
「あっ、そういえば最近何かおかしな事ない? 今日はその調査も兼ねてきてるんだ」
「お疲れ様です。おかしな事、ですか……最近、森へ素材採取へ向かった技師様方で、様子がおかしくなる方がいます。その、魔法具の製作に熱中しているらしくて。寝る間も惜しんで。完成すると満足したからでしょうか? 元へ戻るんです。戻った方は皆様、最高傑作ができたと喜んでいるようです」
ここで森っていうのは一箇所。職人試験会場や素材採取に使われる特殊な森。基本的に協会の許可なしに入る事ができない。
許可書は受付に置いてある。一枚もらって目的欄は素材採取で記入。連絡魔法具の修理のために素材は必要だから。
「ところで、現在002号室に特級魔法具技師様がいらっしゃいますが、お忙しいのでしたら修理を頼んでみましょうか? 」
受付は基本的に利用者の個人情報を教えないんだ。でも、修理とかの依頼に誰がいるかわからないから、試験結果とかでつけられた階級呼び。特級は数えるほどしかいない。
「えっと、匿名で、その魔法具技師と僕が話さなくれいいなら。金も事前に渡して」
会わない方がいい。そんな気がする。急いで金の用意をしていると、奥から足音が聞こえてきた。
「何の魔法具を修理したい? 見せて。費用はいらないから」
その声を聞いただけで身体が反応した。どうして毎回いやな予感があたるんだろう。覚悟を決めて声の主の顔を見る。
その紺色の髪と黄金の瞳を見ると、僕は笑顔で後ずさった。
「……はじめまして。おれはフィル。特級魔法具技師」
「えっ⁉︎ ……あっ……う、うん。ぼ、僕はシェフィム」
僕に気を遣ってくれた? まるでというか、完全に初対面の挨拶。エレが思い出したのが原因で、記憶は戻りつつあるはず。まだ顔や声を思い出してはいない?
とりあえず連絡魔法具を渡す。
じっくりと見つめてからフィルが僕を見る。
「……これ……ありがとう。大事に使ってくれていて。これなら直せる。森で素材採取するから一緒に行く? 」
違う。覚えてる。わずかだとしても。
「……うん」
「……黙ってるから安心して」
フィルが鍵を返している。フィルの顔を覗くと無表情に見えるけど、いつもよりも口角が上がっている。
黙ってくれる理由はただのお人好しなのか、別の理由があるのか。わかんないけど、それならそれでいいんだ。
僕は受付嬢に会釈をしてから森へ向かった。
多くの素材。木も岩も、ここにあるものは全て素材となるもの。この環境が破壊されないように、様々な工夫がされている。成長魔法具で植物の成長を促しているとか。
僕は右手を動かしてフィルの左手を握る。フィルが握り返す。
エルとティアは僕らの空気を察してか、黙ってついてきている。
「あっ、あれってフィルが必要な素材じゃない? 」
黄色い鉱石が落ちていた。連絡魔法具の修理に必要な。
「……ついでにシェフィの愛しの相手も」
鉱石の隣に、かけらの子が浮いている。
「あなたも、とびっきりの魔法具を作りたいの? それとも」
彼女は僕を認識している。正常な状態。そんな中のそれともは、もしかして僕とすきらぶってしてくれるとかなのかな。
期待して目を輝かせて続きを待つ。
「にゃんさん? 」
彼女が両手で持つ、どっかで見た事のあるピンク色の子猫。そのぬいぐるみの鼻が、僕の唇に当たった。
彼女は悪戯を楽しむ子供みたいな笑顔をしている。
「両方違う。僕が欲しいのは、かわいくて愛らしくて愛おしいお姫様」
なんか期待を裏切られたみたい。でも、それも僕のかわいいお姫様らしい。
「えー、わたしみんなに魔法具の設計図を渡してる方がいいー……でも、なんかみんな設計図渡して少し教えてあげると寝るのを忘れて作るから、シェフィについてってあげる」
やっぱそういう事か。技師達は彼女の設計図をもらえて熱中してただけだ。これはもはや魔星の影響とか関係ない。彼女の設計師としての技術が、そうしてしまったんだ。
ピンクの光になって僕の中に入る間際「魔法具大事にしてくれたお礼。」なんて言っていた。そのお礼は、彼女がいた場所に置かれる設計図と素材。
僕の持つ連絡魔法具の改造の設計図。フィルが設計図を手に取る。
「……一時間あれば作れる……久々にあの子の設計図で作れる。時間、大丈夫? あの子探さないとじゃない? 」
「うん。改めてお願いするよ。連絡魔法具を改造して欲しい。お代は……あの子に術の影響はもうないよ。ギュリエンの件もあの子は僕で逃げようとした……互いのために会わない方がいいんだ」
改めてフィルに依頼をする。本来であれば大金を払わないといけないのに、いらないというから、代わりをあげる。僕がフォルと会いたくない理由。
サァァァ——草同士が擦られる音が聞こえる。風が冷たい。
「依頼、受けた。そういう事なら何も言わない。シェフィが会おうと思うまで待ってる」
フィルが修理を引き受けてくれる。僕らは手を繋いで、魔法具技師協会に戻った。




