7話 職人の姫
創造魔法を駆使して家を改築したシェフィムは神官エルに買ってきてもらったベッドに少女を寝かせた。
ベッドの質がいいからだろうか。少女が心なしか嬉しそうな表情に感じる。
「かけら探ししよっか」
何か仕事の依頼でもきていないかとシェフィムは右腕につけている連絡魔法具を外した。連絡魔法具を起動するが画面が出てこない。
もう一度連絡魔法具を起動するがやはり画面が出てこない。
「……故障かな。動かない」
ここには魔法具を修理するような道具はない。壊れれば買い直すしかないだろう。幸いにも買えるだけの金は存在する。だが
「……いやなんだよな。これ買い直すの。フィルに送れば直してくれないかな」
シェフィムはこの魔法具だけは買い替えたくない。かなり古くもう買い替えないといけないんだろうかとじっと連絡魔法具を見つめている。
「シェフィ、職人街にかけらの反応があった。ボクは会えなかったけど、シェフィがいれば会えるかもしれない。そのついでに協会で直すのはどう? 」
さすがはシェフィムの信頼する神官エル。ベッドだけでなくかけらの情報まで持ってきてくれた。シェフィムは連絡魔法具を腰につけている収納袋にしまうと神官エルに飛びつこうとした。そして避けられた。
「なんで避けるの」
「なんで飛びつこうとするの? それがそんなに大事なの? 」
「うん。これ、エレとフィルから貰ったんだ。僕が使いやすいようにって考えて作ってくれたんだって。初めて作った魔法具を僕にくれるなんて、ほんとにかわいい妹だよね」
シェフィムの持っている連絡魔法具は初めての魔法具。初めてを貰ったシェフィムの宝物。
シェフィムは転移魔法を使い職人街へ向かった。
レンガを使って綺麗に整備されている道。そのレンガは普通のレンガとは思えないほど柔らかい。今はシェフィムの中にいる少女が歩いていてもすぐに足が疲れる事はないだろう。
建物は頑丈であり遊び心があるものばかり。職人街という場所に集まる職人達の技術の結晶がこの街だろう。
シェフィムは迷わずに魔法具技師協会と書かれている看板の建物に入る。
「あの子に会いたくないんじゃ」
「大丈夫だよ。あの子はこの街にいないから」
エレシェフィールとフォルはよく職人街に行く。特にこの魔法具技師協会を訪れる事が多い。だが、今は職人街にきてはいない。何の躊躇もなく入る事ができるのはそれを知っているから。
ここでしか手に入らないような職人手作りの魔法具が売られている。素材もかなり珍しいものばかりだ。
「お久しぶりです。シェフィム様」
受付嬢に声をかけられる。シェフィムも一応魔法具技師協会所属の技師として免許を持っている。受付でその免許を見せる。
「うん。久しぶり。一応見せておくよ。既定らしいから。えっと、作業室って空いてるのかな? 」
「ええ。001号室でお願いします。それと、シェフィム様は資格提示しなくてよろしいですよ。ここで知らない者などおりませんから」
受付嬢が鍵を出す。
「あっ、そういえば最近何かおかしな事ない? 今日はその調査も兼ねてきてるんだ」
「お疲れ様です。おかしな事、ですか……最近、森へ素材採取へ向かった技師様方で様子がおかしくなる方がいます。その、魔法具の製作に熱中しているらしくて。寝る間も惜しんで。完成すると満足したからでしょうか? 元へ戻るんです。戻った方は皆様最高傑作ができたと喜んでいるようです」
職人街で森というのは一箇所だけ。様々な試験で使う会場でもあり、素材採取をするための場所。基本的に許可なくそこへ入る事はできない。
シェフィムは受付にある許可申請書を取り出して記入する。
ついでに修理のための素材採取もするため目的欄は素材採取。
「ところで、現在002号室に特級魔法具技師様がいらっしゃいますが、お忙しいのでしたら修理を頼んでみましょうか? 」
「えっと、匿名で、その魔法具技師と僕が話さなくれいいなら。金も事前に渡して」
なぜだろうか。会わない方がいいとシェフィムの勘が言っている。
シェフィムは金の入った袋を取り出そうとすると奥から足音が聞こえてきた。
「何の魔法具を修理したい? 見せて。費用はいらないから」
ピクッと身体が反応する。冷や汗が出る。シェフィムは顔を上げてゆっくりとその声の主を見る。
勘はいまだにハズレ知らず。紺色の髪の少年が目に映る。シェフィムは張り付いた笑顔を見せて後ずさる。
「……はじめまして。おれはフィル。特級魔法具技師」
「えっ⁉︎ ……あっ……う、うん。ぼ、僕はシェフィム」
初対面のような挨拶をするフィルと名乗る少年。シェフィムは戸惑いながらもフィルに故障した連絡魔法具を渡した。
じっくりと連絡魔法具を見つめるフィル。シェフィムはフィルが言葉を発するのを大人しく待っている。連絡魔法具と真剣に向き合うフィルを観察しながら。
「……これ……ありがとう。大事に使ってくれていて。これなら直せる。森で素材採取するから一緒に行く? 」
「……うん」
「……黙ってるから安心して」
フィルが受付に鍵を返している。シェフィムは連絡魔法具を見るフィルの顔を覗く。無表情だが、わずかに口角が上がっている。
シェフィムはこくりと頷くと受付嬢に会釈して外へ出た。
多くの素材が育つ森の中。シェフィムは無言で右手を動かした。フィルの左手を握る。フィルがシェフィムの右手を握り返した。
後ろからついてきている神官エル達が黙っていてくれている。
「あっ、あれってフィルが必要な素材じゃない? 」
「……ついでにシェフィの愛しの相手も」
フィルの欲しい黄色い鉱石が落ちている。フィルは黄色い鉱石を採っている。その隣に少女がふわりと浮いている。
シェフィムは少女のそばへ寄る。
笑みを浮かべシェフィムを見る少女。シェフィムは左手で少女の頬に触れた。
少女はゆっくりと口を開けると
「あなたも、とびっきりの魔法具を作りたいの? それとも」
何か期待させるような言い方。シェフィムは続きを続きを目をきらきらさせている。
「にゃんさん? 」
どこかで見た事がありそうなピンク色の小さな猫がシェフィムの唇にキスをする。悪戯を楽しむ子供のような笑顔をで両手で猫のぬいぐるみを持つ少女。
「両方違う。僕が欲しいのは、かわいくて愛らしくて愛おしいお姫様」
期待を裏切られたシェフィムは少女に不貞腐れ顔を見せる。
「えー、わたしみんなに魔法具の設計図を渡してる方がいいー……でも、なんかみんな設計図渡して少し教えてあげると寝るのを忘れて作るから、シェフィについてってあげる」
少女が光となりシェフィムに吸収される。吸収間際「魔法具大事にしてくれたお礼」と言っているのが聞こえた。
少女がいた場所に設計図と素材が置かれている。シェフィムの持つ連絡魔法具の改造するための設計図。
フィルが設計図を手に取る。それは他の技師達に渡していたものとは違うだろう。フィルだからこそ作れるものだ。
「……一時間あれば作れる……久々にあの子の設計図で作れる。時間、大丈夫? あの子探さないとじゃない? 」
「うん。改めてお願いするよ。連絡魔法具を改造して欲しい。お代は……あの子に術の影響はもうないよ。ギュリエンの件もあの子は僕で逃げようとした……互いのために会わない方がいいんだ」
改めてフィルに依頼する。依頼料を求めないフィルに代わりのものを与える。
静かな時間にすぅっと冷たい風が吹く。サァァァ——植物が音を鳴らす。
「依頼、受けた。そういう事なら何も言わない。シェフィが会おうと思うまで待ってる」
フィルは依頼を受理してくれる。連絡魔法具を改造するため魔法具技師協会へ戻った。




