番外 その頃のエル
シェフィが彼女のかけらの精神安定を計っている途中、突然煙が上がった。煙が消えると、目の前にいた二人がいなくなっている。
とりあえず連絡。左腕に装着していた連絡魔法具を外す。シェフィとは以前からやり取りがあるから、連絡先は持っている。シェフィの連絡先を選択して通話するけど、繋がらない。
こういう時のために契約がある。神聖と魔聖の契約は、互いのつながりを強固にするもの。指輪に互いの情報を与えるもの。
指輪に魔力を与える。魔力に反応して光が現れる。柱の場所は遠くない。走れば十分から十五——七分くらいで行ける。
ぼくは光を頼りに走る。
プルルルルー
こんな時に連絡魔法具が鳴る。確認すると相手はぼくの妹。
「ティア、何の用? 」
足を止めている暇はない。シェフィは心配しなくていいけど、かけらの彼女が心配だから。
ティアは神殿から連絡している。よく目にしていた白い柱に花畑。
『やっと仕事終わったよ。しばらくは神殿にいなくても大丈夫みたい。今どこにいる? 』
本来は一緒にシェフィと合流する予定だったけど、ティアは別の仕事が入っていた。それがようやく終わったそう。やり切ったって顔をしている。
「なら地図送るからそこにきて。ぼくもそこへ向かってるから」
ぼくはティアに、シェフィがいるはずの場所を送る。
『わかった。星の神魔の導きを』
確認したティアが、右手の薬指にある指輪を画面に見せた。
「星の神魔の導きを」
ぼくも指輪を見せる。魔力により、互いの指輪がピンク色に光る。その光を確認してから通話を切る。そんな事はほとんどないんだけど、偽物とか操られているとか。そんな状態だと指輪は反応しない。
そうじゃない。自分は正常な本物だ、と示すための行動。
転移魔法を使う方が速いと思う。でも、何かあった時のために、あまり魔法を使いたくない。体力の消耗も考えないといけないんだろうけど、散々シェフィにおいか——連れ回されて体力なら自信があるから。
走りながらも、シェフィに連絡しようとしているけど繋がらない。ここは魔法石の魔力を遮断するような領域じゃないはず。何かに巻き込まれて、連絡すらできない?
「……魔物」
二十メートルかな? 犬に似ている黒い魔物。十三匹。急いでる時に限って。
収納魔法から魔法杖を取り出す。右手で握った魔法杖で浄化魔法を使う。
「悪いけど、今は急いでいるんだ」
浄化魔法に愛魔法を混ぜる。本来であればゆっくりと祈りを捧げたいけど、今は彼女のためにそんな時間を割けられない。
愛魔法と簡単な祈りで許してほしい。
魔物を浄化してから走っていると、巨大な建造物を見つける。灰色のその建造物の周囲には、結界が張られている。魔法具によるもの。結構お高めの結界魔法具だと思われる。
魔法具だけでは安心できないのか、人による警備も存在する。
普通なら侵入はむずかしいんだろう。普通なら。
ぼくには簡単。こういう時のための身分だから。堂々と正面玄関へ行く。
「何者だ! 」
当然鎧を着た警備兵に呼び止められる。想定済み。ここで物おじする事なく、堂々としているのが重要。いくら身分があっても、態度で怪しまれる可能性がないわけではないから。
「フォーエフィード神殿所属、神和の聖女ミティアーネルの補佐を務める神官エル。聖女に変わり浄化の光を捧げにきた。通していただけるか? 」
神殿で発行された身分証。フォーエフィード神殿は、最初の世界の頃から存在している。知らない者は存在しないというくらい有名。
光で文字が黒から青に変わる、神殿以外では使われない特殊なインクが使われている。神殿以外では生成できないため偽装不可。
しかも大神官。無視できるはずない。
「ご苦労。浄化石の場所まで案内しよう」
以前より神殿が関わりを持っているおかげか、すんなりと通してくれる。無機質な場所。
以前ここと思われる建造物の資料を見た事あるけど、浄化魔法の研究施設なんてわけわかんない事が書かれていた。実際にそんな研究をしているようには見えない。
そもそも浄化魔法研究っていうのは? する必要性が感じられないんだけど。
「ところでいつもの神官とは違うな。聖女補佐というのは本当なのか? 」
突然話しかけてくる。
「……」
「まあいい。こんな大物を送ってこられるとは。だが、これも研究のためだ! 」
監視兵が武器を持つ。斧型の武器って久々に見た。動きが遅いから簡単に避けられる。一度振り下ろしたらキィィン! と甲高い音が鳴る。床にヒビが入っている。
こんな重い武器を、重い鎧着ている上で使うから。持ち上げるのに時間がかかっている。
「研究……そんなふうには見えないけど。後で調べればいいか。少し眠っていて」
天井に監視魔法具が設置されている。できるだけ穏便に済ませたい。だから睡眠魔法を選んだ。
監視兵を眠らせる。一人でシェフィを探そうとしていた時
「エル! 」
ティアの声が聞こえた。振り返るとティアが走ってきている。
「シェフィは? 」
「まだ見つかってない。監視魔法具があるからどこかに映像を見る部屋があるはず。わかる? 」
ティアが頷く。収納魔法から取り出した錫杖を両手で握る。ティアの周りにピンク色の光が溢れる。
五分ほど待っていると光が収まった。ティアが錫杖を収納魔法にしまう。
「見つけた。こっちだよ」
探知系の魔法はぼくよりティアの方が得意。ティアに案内してもらって監視室へ急ぐ。
画面が大量にある監視室。この建造物全体を監視しているみたい。その中にはシェフィもいる。それに彼女も。
「な、なんだ貴様⁉︎ 」
椅子に座る白衣を着た男。何かされる前にティアが束縛魔法を使う。ピンク色の光で縛られている白衣の男をティアに任せる。ぼくは二人を閉じ込めている扉を開けるスイッチを探す。
この部屋にある。それは間違いないはず。神聖にいる天才二人組ほどじゃないけど、ある程度の魔法具や魔法機械の知識は持っているからって、スイッチ探しに役立たない。エレが自分の魔法具じゃないとわからないとか言うのが理解できる。
「何をする⁉︎ やめろ! それに触るんじゃない! 」
大きめの把手に近づいたら、急に白衣の男が騒ぎ出す。自分から正解言ってどうするんだか。
把手を下げると、シェフィ達がいる部屋の扉が開いた。
これであの二人が出て来れる。一安心する暇もない。後ろ上から振り下ろされるものを右手で掴む。睡眠魔法を使って眠らせる。
眠らせた後に確認すると白衣の男。そしてティアがいない。
白衣の男のポケットから、何かが落ちた。紙みたい。拾って確かめる。
【聖星族の特殊能力研究報告書。聖星の特殊能力には星の声を聞くというものが存在する。星に好かれ星を好いている。それが聖星というものである。聖星は最古の種族。最も尊ぶべき存在。ヴィンジェグァとは比にならない歴史を有している。我々が真に従うべき相手のはずだ。それらの情報の裏付けとなる能力が存在するはずだ。しかし、その能力はまだ発見できていない。聖星が信仰している神聖という者達を調べれば何かわかるかもしれない】
どこからその情報を知ったのか。他にも何かないのか。監視室の中や白衣の男の衣類を調べるけど、何もない。
一度調査をしてもらった方が良さそう。連絡魔法具を使ってメッセージを送る。内容は、この施設の調査を頼むもの。相手は神官長。
すぐにメッセージが返ってくる。調査を引き受けるって。普段散々こき使ってくるから、このくらいは当然だと思ってる。
この前のシェフィから聞いた啓示の件といい、今回の件といい。めんどうごとが増えるばかり。とりあえず、ぼくは神聖が知らない、もう一つの役割の方も進めた方が良さそう。
「……無事だよ。二人とも。キミは自分の役割を果たして。あの人にも連絡よろしく。これ以上被害が酷くなる前にぼく達も動くよ」
右耳につけている通信魔法具に触れて、そう告げる。相手は重要な役割を担っている魔聖。
『了解。全ては星の命のために』
「うん。星の命を助けるために」
神聖が知らない以上、ぼく達が守るしかない。ぼく達魔聖のため、シェフィ達神聖のため。それに、星の命を愛する人のために。




