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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 星実月 希蝶
1章 シェフィ編 かけら探し
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6話 余裕の勝利


 なぜ? そんな疑問よりも先に、僕は彼女を抱き寄せた。すぐ後にゴォォォォっと音を立てて炎の柱が出きる。

 反応するのが少しでも遅ければ、この子は巻き込まれていた。


「あっぶな。怪我してない? 」


「うん」


 僕は両手で彼女のほっぺに触れる。体温を感じる。元々体温が高めな子だから、少し熱いくらい。彼女の温もりに触れてふぅっと息を吐く。もっと触れたいから、彼女を抱きしめる。


「……シェフィ、恥ずかしいよ。そんなに触られると」


 彼女が頬を赤くしている。


「恥ずかしい? 君が? 君にそんな恥ずかしいなんて感情あるんだ。いつも僕の目の前で着替えて、紋章気になるってスカート捲り上げて足見せてきて、自然と一緒に風呂入っていた君に」


 そういえば、集落の時にしれっと君の事恋人扱いしてたんだけど、覚えてないかな。

 僕が笑っていると、彼女は頬を膨らめせる。これは抗議の意かな。


『おやおや、随分と余裕ですね。そんな余裕がおありですか? 』


 今は僕とこの子の大事な時間。なのにどこからか聞こえる声が邪魔してくる。


 邪魔をしてくるのはそれだけじゃない。僕は彼女を抱き抱える。後方へ移動する。炎の次は氷だ。氷柱が床に突き刺さっている。

 僕らを狙っている、というわけでもなさそう。関係ない場所で、雷を纏った矢が飛んでいるから。制御できていないだけなのかもしれないけど。


 まぁ、無差別であろうと狙っていようと関係ないんだけど。狙っていれば動き続ければいい。無差別だとしても、僕と彼女という標的がいるという認識はしているみたい。

 それなら、あの子の術を避けるよりも、何百倍も楽だよ。


 僕は彼女を抱えたまま魔法を避ける。


「……エル、まだ? 僕はいいけど僕のお姫様は繊細なんだよ」


 繊細なんだよ。すごくかわいくて、ちょっとした事ですぐに熱を出すほど、繊細なんだよ。僕が一緒にいた時だって、ちょっと勉強させすぎただけで知恵熱出したんだから。


「……シェフィにとってのわたしが気になるところなんだけど、あと十分ここにこないよ。わたし、少しなら魔法使えるよ? 」


 手伝えるからいつでも言って。そういう事なんだろうけど、あんまり頼りたくはないんだよね。まだかけらも三つ。この前の白い空間の時、だって少し歩いていただけで息を切らしていた。

 魔法や神聖術も、まだほとんど使えないはず。


 だから、あんまり使わせたくない。どうしようもない時は頼らせてもらうけど。


「ありがと。使って欲しい時は頼むよ」


「うん……シェフィなら十分、二十分くらい余裕だと思うけど、いつでも頼って」


 そのくらいエルが来るのにかかるのか。というか、僕なら余裕ってまさかあれを思い出して——

 なわけないか。いけないいけない。それとは関係ないのに勘違いして、動揺を見せて疑われる。なんて事になったらどうするんだよ。


 あれは絶対に隠し通さないといけないのに。フォルと一緒にいるエレにも。たとえ一緒にいられるようになっても、記憶を取り戻しても、絶対に気づかれちゃだめだから。


『ククク。誰も上から来るとは言ってませんよ』


 別に上からなんて思ってないよ。今までのは全て上からだったけど。


 あっ、壁から矢が飛んできた。遅いから避けるのも容易。


『なぜ、なぜだ⁉︎ 何度も何度も、こんな偶然があってたまるもんか! 』


 焦ってる焦ってる。それも当然か。向こうからしてみれば、いつくるかわからない事前察知不可の無差別攻撃を、全て涼しい顔して避けられているから。しかも、僕と十センチくらいしか違わない少女一人抱えるハンデ付き。

 

 それにしてもこれを偶然と思うなんて。外から見るだけのタイプなのかな。戦闘経験が多いベテランだったら、これが偶然じゃないって事くらい理解できるはずなんだけど。

 少なくとも僕の周りはそうだった。


 でも、そうじゃなければ偶然にしか見えないんだろうね。


「シェフィ、大丈夫? 疲れてない? 」


「ありがと。でも大丈夫だよ。仕事で一日中走り回る事だってあるんだ。このくらいで疲れてたらあんな仕事できないよ」


 それに、君の声聞けば、疲れなんて吹き飛ぶよ。なんて言えなかった。咄嗟に思いつかなかった。

 

「そうじゃなくて、目。わたし疲れちゃった。ぴかぴかぴかぴかずっとしていて」


 彼女が両手で目を擦ってる。魔法の光って思ったより強かったって事多いんだよね。夜に使うと辺りを見渡すのに十分な光があるから。

 その光を直視し続けていて疲れちゃったのか。


「見なきゃいいじゃん。目、閉じてれば? 」


 僕がそう言うと、うれしい言葉が返ってきた。


「やだ。そんな事したらシェフィのかっこいい姿見れないじゃん」


「それは仕方ないね。我慢してみてて」


 その理由なら仕方ないよ。でも、それだと動き回っているのもキツくなってくるかな。いくら白一色とはいっても床の線とか。変わるものはあるから。


 結界魔法で、僕ら二人だけの世界を創る。僕は彼女を僕の隣に座らせた。確認したい事もあるんだ。この前できなかったから。


「シェフィ? 」


 彼女がきょとんとしてる。


「今は僕だけのお姫様だから」


 左手で彼女の髪に触れながら言う。


「えっ⁉︎ えっ⁉︎ あの、シェフィおにぃちゃん⁉︎ 何言ってんの⁉︎ わたし達はきょうだい何だよ? 双子なんだよ? そ、そんな事できるわけないから! シェフィはただの、とは言わないけど、とっても仲の良いきょうだいなんだよ? きょうだいのままでいたいから。それにシェフィ、フォルを弟にしたいって。そのためにわたしとフォルが結婚すればって……えっと……わたし達、きょうだい、だよ? 」


 真っ赤な顔で慌てている。ちゃんと未来を見ようとしているんだね。フォルとの結婚という、大事な未来を。


 でも、やっぱまだ理解してないんだ。僕もだけどこの子も。僕らにとって大事な事を。自分の愛の形、とでも言えばいいのかな。


「焦りすぎでしょ。何考えてたの? 僕らは君のいう通りただの兄妹だよ」


 確認し終えて笑顔を見せる。


「そっちが勘違いするような事を言ったんでしょ! あれ絶対わざと! そうじゃないなら、あんな言い方しない! 」


 彼女が怒る。否定はしないけど、よくわかったね。


『おい! 魔法機械を出せ! そんな余裕ぶっこいていられるのは今のうちだ! この出る事のできない空間で、我が最高傑作の自立式人形魔法機械に敵うはずなかろう』


 天井から人のような形をした十体くらい魔法機械が落ちてくる。一体が僕らに向けて、右腕から光線を放つ。


「きゃっ⁉︎ 」


 結界魔法が耐えられない。僕は彼女を抱えて、地面を蹴る。空中に回避する。


「びっくりしたぁ。魔法機械の兵器実用化……あれほんとにされていたんだ」


 噂では聞いていたけど。僕が噂で聞いた時は実験段階。


 避け続けるのは可能だけど、そろそろいいか。あんまり動きすぎて疑われるのも避けたいからね。


 床に着地する。彼女は床に立たせておく。僕が止まっているから、絶好のチャンスと思ったんだろうね。魔法機械達が一斉に光線を僕らに放とうとする。でも、その光線は地面に落ちる。魔法機械が地べたに這いつくばる。


『な、何をしたんだ! なに……な、何だ貴様⁉︎ 何をする⁉︎ やめろ! それに触るんじゃない! 』


 やっときたか。もう安全かな。僕は彼女と顔を見合わせる。


「ずっと守るから」


「うん。信じてる」


 兄としてではなく、彼女を想う一人として。僕は彼女と両手を重ねる。


 彼女がピンクの光となって僕の中に入る。左手を胸に当てて確認すると、疲れたのかぐっすり眠ってる。


「シェフィ、大丈夫! 」


 澄んだ美声が響いた。聖衣を着た癖っ毛金髪の美女。エルの妹。今は神和の聖女ミティアーネルだっけかな。この双子は神殿で暮らすために偽名使ってるから、ほんと慣れない。


 ティアは何かを探してガックリと肩を落としている。


「あの子ならもう眠ったよ」


 絶対に僕のだいすきな人を探してた。だから答えてあげる。


「そうなんだ。久々に会えると思ったのに。でも、二人とも無事ならそれで良いかな。えっと、とりあえずここからでてどこかで話さない? 良い場所ある? 」


 こんな場所にいたくないのはおんなじか。


「僕の隠れ家は狭いからな……これを機に改築するかな。あの人から許可は得ているから、みんなで一緒に暮らせるくらい広い家に改築しよう」


 あの人に借りている家。あの人から許可をもらっている。心の広い主を持てて幸せです。とでも言っておいた方がいいのかな。


「私も手伝うよ。家具は任せて。神殿で使ってるの配達して……無理かな? 」


 僕が誰とも関わりたくないと勘違いしているみたい。少し残念そうにしてるティアに笑いかける。

 

「大丈夫だよ。あの子に必要以上に会いたくないだけだから。今は、互いに会わない方がいい。じゃないと、僕らは互いに甘えてしまう」


 僕が一番会いたくない相手。それはエレじゃない。ゼロでも。僕が一番会いたくないのはフォル。

 僕は、最後の一言だけ視線を落として答えた。

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