6話 余裕の勝利
何かを察知したシェフィムは少女を抱き寄せた。その直後、ゴォォォォと音を立てて炎の柱が現れた。
「あっぶな。怪我してない? 」
「うん」
シェフィムが早くに気づいたおかげで少女は無事だった。気づくのがあと一秒でも遅れていたら今頃少女はあの炎の中。
シェフィムは両手で少女の頬を触る。何らかの影響で実態に近くなっているんだろう。少女の体温が感じる。
平均よりわずかに高いその体温を両手で感じる。
ふぅっと息を吐き少女を抱きしめる。
「……シェフィ、恥ずかしいよ。そんなに触られると」
「恥ずかしい? 君が? 君にそんな恥ずかしいなんて感情あるんだ。いつも僕の目の前で着替えて、紋章気になるってスカート捲り上げて足見せてきて、自然と一緒に風呂入っていた君に」
シェフィムはいつも通りの自分を取り繕う。少女の前で柔らかい笑顔を見せる。少女が頬を膨らませて不貞腐れている。
『おやおや、随分と余裕ですね。そんな余裕がおありですか? 』
声を聞くとシェフィムは少女を抱き抱えて後方へ移動した。先ほどしまでシェフィム達のいた場所に氷柱が落ちてきた。シェフィム達を狙っているわけではないんだろう。関係ない場所に雷の矢が飛んでいる。
シェフィムは少女に視線を向けた。
完全ランダムの攻撃。こういう状況はシェフィムは慣れているから避ける事ができる。だが、少女には避ける事などできないだろう。
シェフィムは少女を抱えたままランダム攻撃を全て直前でかわしている。
「……エル、まだ? 僕はいいけど僕のお姫様は繊細なんだよ」
「……シェフィにとってのわたしが気になるところなんだけど、あと十分ここにこないよ。わたし、少しなら魔法使えるよ? 」
いつでも手伝う事ができる。そういう事だろう。かけらであっても少女は少女という事だろう。だが、かけらだ。その威力は本来の状態よりもかなり下がってしまうだろう。
「ありがと。使って欲しい時は頼むよ」
「うん……シェフィなら十分、二十分くらい余裕だと思うけど、いつでも頼って」
少女にすら秘密にしている部分に気づかれたわけではないんだろう。だが、シェフィムは少女に見せる笑顔に動揺が出てしまう。
『ククク。誰も上から来るとは言ってませんよ』
壁から矢が飛んでくる。だが、その矢も全て涼しい顔で避けている。
『なぜ、なぜだ⁉︎ 何度も何度も、こんな偶然があってたまるもんか! 』
事前に察知できるはずもない攻撃を事前に察知して避け続けるシェフィムを監視魔法具越しで見て焦りがでているんだろう。声に感情がでている。
シェフィムは声を無視して避け続ける。少女というハンデがありながらも汗一つ見せず。
「シェフィ、大丈夫? 疲れてない? 」
「ありがと。でも大丈夫だよ。仕事で一日中走り回る事だってあるんだ。このくらいで疲れてたらあんな仕事できないよ」
「そうじゃなくて、目。わたし疲れちゃった。ぴかぴかぴかぴかずっとしていて」
少女が目を擦っている。魔法の光が何度も何度も部屋を照らしている。その光を直視して目に負担がきているようだ。
「見なきゃいいじゃん。目、閉じてれば? 」
「やだ。そんな事したらシェフィのかっこいい姿見れないじゃん」
「それは仕方ないね。我慢してみてて」
本来なら少女の目を優先してあげなければならない。それを理解していながらも、少女の感情を、シェフィムのわがままを優先する。
二人っきりの空間。邪魔するものなどシェフィムにとっては何もない。シェフィムは防御魔法を使うと少女を床に座らせた。その隣にシェフィムも座る。
「シェフィ? 」
きょとんとした顔の少女も愛らしい。シェフィムは左手で少女の髪に触れた。
「今は僕だけのお姫様だから」
「えっ⁉︎ えっ⁉︎ あの、シェフィおにぃちゃん⁉︎ 何言ってんの⁉︎ わたし達はきょうだい何だよ? 双子なんだよ? そ、そんな事できるわけないから! シェフィはただの、とは言わないけど、とっても仲の良いきょうだいなんだよ? きょうだいのままでいたいから。それにシェフィ、フォルを弟にしたいって。そのためにわたしとフォルが結婚すればって……えっと……わたし達、きょうだい、だよ? 」
顔を真っ赤にした少女が早口で言い訳のように言葉を連ねている。兄妹で始まり兄妹で終わっている。
シェフィムはくすりと笑い少女の頭を撫でた。
ぱちくりと瞬きする少女。シェフィムは頭を撫でていた手を離す。少女が撫でられていた頭を両手で触る。
攻撃は収まっていない。矢が飛び魔法が放たれている。防御魔法で二人は守られている。誰にも邪魔されない二人だけの世界が形成されている。
「焦りすぎでしょ。何考えてたの? 僕らは君のいう通りただの兄妹だよ」
「そっちが勘違いするような事を言ったんでしょ! あれ絶対わざと! そうじゃないならあんな言い方しない! 」
頬を膨らませている少女をシェフィムは笑って見ている。
『おい! 魔法機械を出せ! そんな余裕ぶっこいていられるのは今のうちだ! この出る事のできない空間で我が最高傑作の自立式人形魔法機械に叶うはずなかろう』
天井から人の形をした魔法機械が次々と落ちてくる。魔法機械の腕からレーザーが放たれる。
「きゃっ⁉︎ 」
レーザーが放たれると同時にシェフィムは少女を抱えて空中に回避した。
「びっくりしたぁ。魔法機械の兵器実用化……あれほんとにされていたんだ」
少女が魔法杖を創造魔法で創る。魔法杖を両手で握る少女。シェフィムが頼めばいつでも防御魔法を使ってくれるんだろう。
「防御魔法は使わなくて良いよ」
少女がこくりと頷いた。魔法杖は持ったまま。
「……あまり長引かせたくない。結界魔法使える? 」
シェフィムは立ち止まって少女を立たせる。少女が魔法杖を右手に持ち直すとシェフィムの頬に口付けをした。
シェフィムは右手で少女の左手を握る。
的が止まっているこの状況は魔法機械達にとって絶好のチャンスだろう。魔法機械がレーザーを放つ。矢が飛んでくる。上空から魔法が放たれる。
「……」
全ての攻撃がシェフィム達に当たらない。矢は床に落ち、魔法機械は地べたに這いつくばっている。
『な、何をしたんだ! なに……な、何だ貴様⁉︎ 何をする⁉︎ やめろ! それに触るんじゃない! 』
どこからか聞こえてくる声がこれを最後に突如途絶える。シェフィムは少女と顔を見合わせた。
「ありがと。かけら集めこれからもお願い。みんなと一緒にいるために」
「……うん。みんなと一緒にいるために」
シェフィムと少女は両手を重ねる。二人の額が触れ合う。
「ずっと守るから」
「うん。信じてる」
少女が光となる。光がシェフィムに吸収される。
シェフィムは左手を胸に当てた。少女はシェフィムの中で疲れて眠っているようだ。
「シェフィ、大丈夫! 」
澄んだ美声が響く。清潔な衣装を纏った金髪の少女が扉を開けてシェフィムに駆け寄った。
金髪の少女がきょろきょろと何かを探している。探しものはなかったのだろう。金髪の少女がガックリと肩を落とした。
「あの子ならもう眠ったよ」
「そうなんだ。久々に会えると思ったのに。でも、二人とも無事ならそれで良いかな。えっと、とりあえずここからでてどこかで話さない? 良い場所ある? 」
「僕の隠れ家は狭いからな……これを機に改築するかな。あの人から許可は得ているからみんなで一緒に暮らせるくらい広い家に改築しよう」
あの古屋はベッドが一つしかない。今もあの古屋で眠る少女のためだけの場所。四人で生活するなら改築しないとだろう。現時点でもシェフィムは神官エルと一緒に床で寝ている事が多いのだから。
「私も手伝うよ。家具は任せて。神殿で使ってるの配達して……無理かな? 」
「大丈夫だよ。あの子に必要以上に会いたくないだけだから。今は、互いに会わない方がいい。じゃないと、僕らは互いに甘えてしまう」
エレシェフィールとゼーシェリオンとも会わないようにはしている。だが、一番会いたくない相手はフォル。
シェフィムは視線を落とした。




