5話 白銀のかけら
あれから数日。いろんな仕事をしてきたけど、かけらに関係があるものはなかった。簡単に見つけられればいいのに。
今は仕事なくて暇だから、収納袋から魔法機械を取り出す。
魔法機械は魔法具よりも処理能力が高いんだ。この魔法機械の形は連絡魔法具に似ている。違うのはボタンひとつで画面がいくつも出る事。今は二つしか出してないけど。
中々いい情報が見つからない。窓を見ると、外が明るくなってきている。魔法機械を見る前は暗かったのに。
一緒に起きていたエルが、眠たげにあくびをしている。ずっと僕が連れ回して体力つけてやったというのに、最近仕事ばかりで鍛錬足りないんじゃないかな。
それにしてもほんとに何もないな。僕のかわいい部下達が集めた情報でも見るか。
「あったけど……これはあの子に任せた方がいいかな」
二つ見つけた。でも、一つはあの子を関わらせたい。あの人に連絡しておくか。万が一の事があればかけらが全て集まらなくなる。
『こんな時間にかけてくるとは、常識知ってるいるか? 』
右腕の連絡魔法具をとって通話する。あの人も徹夜していたのかな。すぐに出た。
「どこの誰だろうね? こんな時間まで暇がないほど仕事降ってきたの。それよりちょっと急用。呪いの聖女の件なんだけど、あの子に、魔星だから消滅させないでって伝えといて」
何日も寝れてないのかあの人も眠そうだからさ、要件だけを伝えて通話を切る。
ついでにあの子を守るために、守護のネックレスでも送ろうかな。あれなら何かあった時、ある程度は守ってくれるから。絶対安全ではないんだけど。
星があしらわれているネックレスと、プレゼントとわかる手紙を書いて封筒に入れる。神聖樹と星とハートのマークの刻印を押すのも忘れずに。
「これを転送っと」
転送魔法。転移魔法よりも小さいものを運ぶのに便利なんだ。守護のネックレスが入ってる袋を、エレのとこに送る。
「……まさかそれって」
「守護のネックレスだよ。あの子に何かあったら、あたり一体爆発するようなのは怒られそうだから」
かなりの貴重品だから、持っているのがエルには意外だったのかな。それとも——これ以上は言わないでおこうか。
「いつ仕事が来るかわからないから、早速かけら探しに行こっか。今回は寒い場所みたいだから、厚着なんてないからそのまま行こ」
魔法機械は収納袋にしまう。連絡魔法具は右腕装着。その後立ち上がって有無を言わさずに転移魔法を使った。
転移前、エルの顔見れたけどならなんで言ったんだって顔してた。
美しい白銀の景色。周囲の人達は、厚いコートを着てる。明らかに僕らは浮いている。でも、誰も僕らを気にしていない気がするんだ。
「……ねぇ、なんかおかしくない? さっきからなんていうか……機械的なのかな。みんな決められた動きをしているみたい」
道ゆく人の観察は、僕の仕事においては必要な事。歩いている人達は、何かの目的を持っているかのように、別々の行動をしている。ちゃんと意思を持っていると感じる。店だって通業営業。言動だっておかしなとこなんて、どこにもないんだ。
どこからどう見ても、普通の町並み。なのになんでなんだろう。こんなに違和感を覚えるのは。
「……気のせい、なのかな? 」
違和感の正体に気づけず、僕のこの感覚がおかしいだけなにかと疑う。でも
「愛の神聖がそんな気のせい起こす事なんてある? 未来視並の直感力を持っているのに? というか、気のせいなんて一度でもした事ある? 」
「それはあるよ⁉︎ ……まぁ、君がそこまで言うならこの感覚を信じてみようかな」
エルの言葉で疑いを消した。違和感の正体が何か。僕は思いつきで魔法を使った。
簡単な魔法。ただ人が魅入るような、七色の光を出すだけの。
確実に数人はその光に魅入られるはず。だったのに誰も立ち止まらない。
まるでこの光が存在しないみたいに。存在しない?
「……そっか。そういう事か」
答えがわかった。
「見えてない……というより、初めから存在していない? 」
エルも気づいたみたい。僕は頷いた。
「多分、この人達にとっては僕らは存在しない。この人達はみんな、決められた動きをとっているわけじゃない。ただ、おんなじ日常を繰り返しているんだ。毎日毎日」
この町の人々の意識に僕らはいない。僕らは異常が起こる前にいなかったから。それに気づいたらなんかスッキリした。
「一目見ただけで違和感覚えるって何? それだと一日じゃ気づかないでしょ。さすがは愛の神聖って事? 」
「僕じゃなくても気づいてたでしょ。生命の魔聖の兄とかあの子だって。僕は理を求めるのは苦手だけど、あの子らはわずかな情報を繋げて真実に辿り着いてしまう。もしかしたら、エレの事も気づいているかもしれないね」
空を見上げる。どこかの空に存在するエクリシェ。そこにきっとあの子らはいる。僕が信頼するあの子もきっと、いてくれる。
「一人で背負わないで、エレも僕らもついているから」
僕は何もしてやれないけど、ずっと心配してるよ。遠くにいても、つながっているから大丈夫だよ。届くはずなんてない。奇跡が起こらない限り。でもね、その奇跡を起こしちゃうような子を知ってるから、信じるよ。
この想いが、彼に伝わりますように
「……エル、こっち」
どうしてだろう。何かを感じ取ったんだ。僕はエルの左手を掴んで走った。
古い屋敷。ヒビが入っていて今にも崩れそう。人の気配はしない。その屋敷のそばにある一本の巨木。
「神聖な樹には聖なる存在が宿る。昔から言われていたけど、まさかこんなに可愛らしい少女が宿っているんなんてね」
巨木から現れる無表情の少女。かけらの子。彼女はずっと僕を見つめている。反射的に僕は、笑顔を見せた。
彼女が左手を突き出す。何をするかと思えば黄色と紫の光。
僕は後退する。少し前に僕が立っていた場所。そこに光が落ちる。地面が真っ黒焦げ。周囲の雪が溶けている。
「へぇ、攻撃魔法なんて使えるんだ……かけら状態だと本来の能力と変わるのかな」
本来の彼女は、攻撃系は魔法も神聖術も使えない。そんな彼女が、多彩な攻撃魔法を連発している。全部避けながら、珍しい無表情に見惚れてる。
「……星の鎮め。シェフィ、あとは自分でどうにかして」
彼女の動きが止まる。エルが魔星をおとなしくさせる魔法を使ってくれたみたい。
「ごめん、ずっと一人にして。もう大丈夫だから、おにぃちゃんの元へおいで」
僕は神聖力を言葉に込めた。僕の神聖力のおかげで、彼女が本来の自分を取り戻してくれる。双子の愛情は誰にも負けないってね。
「……シェフィ? 」
相変わらずかわいい声。
「うん。シェフィだよ。君が一番だいすきで君を一番だいすきなシェフィだよ」
彼女が安心できるように、ほっぺに口付けの素振り。彼女の精神状態の安定が最優先。だったんだけど
「……っ⁉︎ 」
突然白い煙が湧き上がった。僕は咄嗟に彼女を僕の中に入ってもらう。
「……けほっ……どこここ」
煙が消える。見覚えのない場所にいる。実験場か何かかな。白い壁に床。天井には監視魔法具。この魔法具からどっかで僕の事を見てるのか。
エルはいない。まだあそこにいるのかな。
『ようこそおいでくださいました。星の神聖。それに、星を愛する神聖の姫君』
声を変えている。年齢、性別、声からは色々と情報を得られるというのに。これだと何の情報も得られない。
いやな予感がした。咄嗟に左手を胸に当てる。かけらの反応がない。今まで回収してきた分まで全て。
『神聖の姫のかけらをお求めですかな? ご安心ください。すぐに会えますよ』
「……」
僕の隣に現れる光。光が形を成す。僕のだいすきな人の姿になる。この子が自分で外に出る事なんてできない。外には出ず僕を器にして、あの白い世界で過ごしている。
外に出す方法がなくはないけど、そんな事できる相手なんて百個の世界に一人いればいい方。
あり得ない考えしか浮かばない。勘を頼りにしてもあり得る事なんて思いつかない。
『ほら、会えたでしょう。神聖姫もいなければ意味がございませんからね。欲を言えば本体が欲しかったのですがそれは叶わぬ状況。ですが仮にも神聖姫。たとえ歴代最低値の能力だとしても、実験に支障はないでしょう』




