5話 白銀のかけら
数日間仕事をこなしてきたが、全てかけらとは関係のないもの。簡単に見つけ出せれば苦労はしないのだろう。
最近は仕事ばかりだったが、少し空き時間ができた。その時間でシェフィム達は情報収集をしていた。
魔法機械を使い情報を探すが、かけらと関連がありそうなものは一つもない。
空を見ると明るくなりかけている。神官エルがあくびをしているのを横目にシェフィムは特殊な情報網を使い始めた。
「あったけど……これはあの子に任せた方がいいかな」
シェフィムは右腕から連絡魔法具を取りある人物に連絡する。彼も徹夜しているんだろうか、すぐに出てくれた。
『こんな時間にかけてくるとは常識知ってるいるか? 』
「どこの誰だろうね? こんな時間まで暇がないほど仕事降ってきたの。それよりちょっと急用。呪いの聖女の件なんだけど、あの子に魔星だから消滅させないでって伝えといて」
こんな遅くに連絡しているんだと要件だけを伝えて通話を切る。隣にある魔法機械にはもう一つかけらの可能性がある情報がある。
シェフィムは星をあしらったネックレスを袋に入れて簡単に手紙も書いた。星になる樹——神聖樹と星とハートのマークの刻印を押しておく。
「これを転送っと」
「……まさかそれって」
「守護のネックレスだよ。あの子に何かあったらあたり一体爆発するようなのは怒られそうだから」
シェフィムはそう言って立ち上がった。魔法機械を収納袋にしまう。
「いつ仕事が来るかわからないから早速かけら探しに行こっか。今回は寒い場所みたいだから、厚着なんてないからそのまま行こ」
ならなんで言った。神官エルがそんな事を言いたそうな顔をしている。シェフィムはいつものように転移魔法で目的地へ向かった。
白銀の景色。周囲の人々は厚いコートを着ている。シェフィムと神官エルは浮いているだろう。シェフィムはじっと人々を観察している。
「……ねぇ、なんかおかしくない? さっきからなんていうか……機械的なのかな。みんな決められた動きをしているみたい」
歩いている人々は別の場所に向かっている。楽しく談笑している。みんな動きは違う。意思を持っている。店も普通に営業している。その場に応じて行動も言動も変わっている。
おかしなところなどどこにもない。至って普通の街並み。
その違和感を探そうとしているが、何も違和感などない。
「……気のせい、なのかな? 」
「愛の神聖がそんな気のせい起こす事なんてある? 未来視並の直感力を持っているのに? というか、気のせいなんて一度でもした事ある? 」
「それはあるよ⁉︎ ……まぁ、君がそこまで言うならこの感覚を信じてみようかな」
気のせいだと気にしないようにしようとしていた。だが、神官エルの言葉でその違和感の原因を探る。だが、やはり見た目だけでは何も変わらない。
シェフィムは思いつきで魔法を使う。それが視界に入れば目を奪われるようなきらきらと色とりどりに光る光。数人は確実に視界に入っているはずだ。だが、誰一人として立ち止まらない。まるでそんなものは存在しないかのように日常を過ごしている。
「……そっか。そういう事か」
「見えてない……というより、初めから存在していない? 」
シェフィムはこくりと頷いた。それが初めに感じた違和感の正体だ。
「多分、この人達にとっては僕らは存在しない。この人達はみんな、決められた動きをとっているわけじゃない。ただ、おんなじ日常を繰り返しているんだ。毎日毎日」
正確にはシェフィム達が存在しないというわけではない。ただ、この街の人々の意識化にいないというだけ。それは、その異常が起こる日にシェフィム達がいなかったから。シェフィムはすっきりとした顔をしている。
「一目見ただけで違和感覚えるって何? それだと一日じゃ気づかないでしょ。さすがは愛の神聖って事? 」
「僕じゃなくても気づいてたでしょ。生命の魔星の兄とかあの子だって。僕は理を求めるのは苦手だけど、あの子らはわずかな情報を繋げて真実に辿り着いてしまう。もしかしたら、エレの事も気づいているかもしれないね」
シェフィムは空を見上げた。目には見えない。だが、この空のどこかに天の箱庭エクリシェが存在する。
エクリシェにいる大切な人達の事を想いながら、右手で空を仰ぐ。
「一人で背負わないで、エレも僕らもついているから」
今はきっとエクリシェにいる。大切な人に向かいその言葉を紡いだ。届くはずがない。奇跡でも起きない限りは。
シェフィムはその奇跡を信じて空に祈る。別の形だとしても、その声が、想いが彼に届く事を。
「……エル、こっち」
祈りが何かを感知させてくれたんだろうか。シェフィムは人がいない古く今にも崩れそうな屋敷のそばにある一本の巨木の元へ向かった。
向かっている間、走る二人を人々は避けようともしない。人と当たらないように避けながら走る。
屋敷には誰もいないのだろう。人の気配はしない。
「神聖な樹には聖なる存在が宿る。昔から言われていたけど、まさかこんなに可愛らしい少女が宿っているんなんてね」
巨木から現れたのは無表情の少女。少女がずっとシェフィムを見つめている。反射的にシェフィムは少女に笑いかけた。
無表情の少女が左手を突き出す。少女の左手から光が溢れ出すと同時にシェフィムは後方へ避けた。
当たればタダでは済まないだろう。周囲の雪は溶け、白い地面が真っ黒く焦げている。魔法の系統としては雷が主で炎の要素もあるようだ。
「へぇ、攻撃魔法なんて使えるんだ……かけら状態だと本来の能力と変わるのかな」
無表情の少女が次々と魔法を繰り出す。氷魔法に水魔法に風魔法。基本的な属性の攻撃魔法は全て使えるのだろう。シェフィムは防御魔法を駆使しつつ全てかわしている。かわすだけで反撃はしない。
「……星の鎮め。シェフィ、あとは自分でどうにかして」
無表情の少女の動きが止まる。巨木に魔法陣が浮かんでいる。
シェフィムは無表情の少女に近づいた。
「ごめん、ずっと一人にして。もう大丈夫だから、おにぃちゃんの元へおいで」
言葉に神聖力をわずかに込める。無表情の少女を抱きしめる。
「……シェフィ? 」
少女の両手がシェフィムの背中に触れる。実体ではない少女とシェフィムは完全に触れる事はない。だが、その想いは触れられている。
星のためにと一人で彷徨っていた寂しさがシェフィムにも伝わってくる。
「うん。シェフィだよ。君が一番だいすきで君を一番だいすきなシェフィだよ」
少女を安心させる笑顔を見せる。少女の唇がシェフィムの頬に当たった。戻った少女を安心させるのが優先すべき事だったが
「……っ⁉︎ 」
突然煙が湧き上がる。シェフィムは咄嗟に少女を光に変え吸収する。
「……けほっ……どこここ」
煙が収まると見知らぬ場所にいる。一面が白い部屋。天井にはいくつもの監視魔法具が設置されている。
部屋の中にはシェフィム以外誰もいないようだ。神官エルはまだあの雪の降る街にいるんだろう。
慌てる様子もなく、シェフィムは扉の場所を確認する。
『ようこそおいでくださいました。星の神聖。それに、星を愛するしんせいのひめ神聖の姫君』
どこからか聞こえてくる声。音声変換魔法具を使用しているのだろう。機械音声で声質からはなんの情報も得られない。
嫌な予感がした。シェフィムは、左手を胸に当てる。予感はこれだろう。シェフィムの中にかけらの存在が消えている。今回回収したものだけではない。今まで回収してきたものも含めて。
『神聖の姫のかけらをお求めですかな? ご安心ください。すぐに会えますよ』
「……」
シェフィムの隣に光が集まる。一つにまとまった光が少女へと姿を変えた。少女は自分で出る事はできない。シェフィムは出さない。外部から出す事は不可能に近いが、ある装置があれば可能だ。それを作れる技術者など世界に一人いればいい方だが。
『ほら、会えたでしょう。神聖姫もいなければ意味がございませんからね。欲を言えば本体が欲しかったのですがそれは叶わぬ状況。ですが仮にも神聖姫。たとえ歴代最低値の能力だとしても、実験に支障はないでしょう』




