4話 星の運命
白い空間。空には滅んだ世界が漂っている。ここは夢というのが近いのだろう。現実では神官エルと一緒に寝ている。
シェフィムは滅んだ世界の一つをじっと見つめている。その世界は愛魔法の暴走により滅んだ世界。シェフィム達には最も思い入れがある世界。
「……」
シェフィムの隣に髪の長い少女がいる。少女の右手がシェフィムの左手に触れる。
少女がシェフィムに悲しげな笑顔を見せた。
「珍しいよね。僕ら二人を同時に呼び出すなんて。何かあったのかな。とりあえず啓示が出るまで少し歩かない? 」
シェフィムは左手で少女の右手を握る。少女がこくりと頷いた。
歩けど歩けど白い地面が広がっている。地面は変わらないが空は景色が変わっている。滅んだ世界という部分は変わらないが。氷漬けになった世界。水で覆われた世界。燃え盛る世界。滅んだ理由はそれぞれ違う世界。だが、共通して言える事がある。それは、滅んでいるというのに目を奪われるような美しさを感じられる。
シェフィムは空を見ながら歩いている。
「……はぁ……はぁ……」
「大丈夫? 疲れたなら少し休もう」
少女が息を切らしている。シェフィムは足を止めた。少女が無理に笑顔を作っている。
「ありがと。止めないでくれて。体力ないの知ってるのに、歩かせてくれて」
少女の身体は今、かなり弱っている。少しの運動だけで音をあげてしまうくらい。だが、シェフィムは少女が疲れるまで止めなかった。少女を自分の足で歩かせていた。
シェフィムは少女の頬に口付けをした。
「……えっ⁉︎ 急にどうしたの? 」
「おはよのキスも行ってきますのキスもおかえりのキスも勉強お疲れのキスもおやすみのキスもできてなかったから」
「言葉にされると毎日異常なほどほっぺちゅしてたんだ。今度から減らそうかな」
シェフィムはあからさまに驚いたと言わんばかりのポーズをとった。少女が両手で口を隠してくすくすと笑っている。
「冗談だよ。そんな事したらわたしの方が寂しいってなるよ」
「……うん! 二人とも寂しくなるからやだだよね! なら、お仕事がんばったねのキスも追加で」
少女の言葉に隠されていたものに気づいたシェフィム。シェフィムは声を弾ませた。
「うん。寂しい。だから……だからね。わたし、シェフィと、みんなと一緒がいい。みんなと一緒に、笑っていたい。星の姫の役割より、みんなと笑う方がいいって思っちゃうんだ。おかしい、よね。星の姫が、自分を優先するなんて」
シェフィムは首を横に振った。
俯いている少女をシェフィムは抱きしめた。
「おかしくなんてないよ。僕らには意思があるんだ。星の姫は自分の願いを優先するべきではない。それを気にしているなら、僕のために生きて。僕のために、フォルと結婚して。僕のために、みんなと一緒に笑っていて。君が星の姫としての最後の役割と言ったものができなかった先で起こる事全て、僕の責任にしていいから! 」
星の姫の最後の役割。それはシェフィム達との別れを意味している。少女はそれを望んでいた。そうなる事で平和になるのならと、少女は笑って最後の役割を全うしようとしていた。
「……責任は、私もちゃんと背負うよ。だから……だから……ずっと離さないで。わたしの騎士様」
不安に震える小さな手がシェフィムの背中に当たる。シェフィムは少女の頭を優しく撫でた。
「うん。何があっても離さないよ。だから、もうこんな事しちゃだめ。最後まで、一緒を諦めないで。僕も、諦めないから」
「うん。うん」
シェフィムの服が濡れる。
人前では泣くな。声を出して泣くな。そんな事があろうと人には笑顔を見せろ。それが星の姫であるという事。
星の姫が必ず教わる事だ。
少女は声は出さない。ただ静かにしている。
「いいんだよ。大泣きしたって。星の姫にこだわる事なんてないんだ。泣きたければ泣いて、泣き疲れた後でいいから笑って」
いつも以上に優しい声。シェフィムの言葉で少女が声を出して泣いた。
「ふぇ……ふぇぇぇぇん! あのね、あのね、本当はずっと、星の姫なんてやだった。でも、シェフィ達がいてくれなくなるから、やでもがんばってた。本当は、本当は、すごく悩んでいたんだよ。悩んで、でも、みんなの安全を優先しないといけないからって」
「……」
「ごめん。こんな事、言っても困らせるだけなのに。えっと、そろそろ啓示が出ているんじゃないかな」
少女がシェフィムから離れる。シェフィムは少女の涙を拭った。
啓示は出ている。シェフィムと少女に大きく関わる内容だ。
星の言語で長々と出ている。要約すると、少女とシェフィムの持つ力が星と世界の危機を救う鍵になるというものだ。その力は二人とも知らないもの。それともう一つ。
「……愛の星は特殊ってそういう事か。でも」
「神域結界でも限界があるよ。それに……これって。どうして……」
少女が右手でシェフィムの左手を握る。啓示の内容は、二人にとって嬉しいものではない。
しかも、今のシェフィムですら理解できない内容だ。
「……神聖の書には神聖が星を守るって書いてあるのに。なんで神聖じゃない子がそんな運命でなければいけないの。わけわかんないよ」
シェフィムの疑問に返ってくるものはない。
星は今の二人も見ているはずだ。だが、星は返事をしてはくれない。一方通行だ。
少女が隣でぎゅっと拳を握っている。シェフィムは少女に笑いかけた。
「……大丈夫だよ。星の啓示は絶対の未来じゃないんだ。それに、そもそも星を守りさえすれば止められる事じゃない? そのためにもまずは調べないと。僕らですら知らない星の歴史を」
シェフィムですら知らない星の歴史。それを知るのは困難だろう。だが、不可能ではない。シェフィムはその僅かな希望にかける。
不安そうな表情をしていた少女だが、シェフィムの言葉に両手を胸の前で組み輪とした瞳を見せる。
「わたしはここでできるだけ情報を集める。あなたは外で情報を集めて。それと……わたしのかけらを集めて、また一緒にいさせて。百二代目星の姫として、命じます」
「……はい。我らが神聖の姫君」
シェフィムは少女の前で膝をついた。少女の左手を手に取り、甲に口付けをする。
「必ず、あなた様が笑える未来を掴み取ります。愛の神聖、シェフィム・レディエース・エンシェルトの名にかけて」
「うん。信じています。私の、大切な騎士様」
少女の左手をピンク色の光が包み込む。
「わたしにできる事はこれだけだけど、これが、お守りになるのを願ってる。寂しくなったらいつでもきてね。わたしはずっとシェフィの中にいるんだから。かけらだけど、いつでも一緒だから」
「うん。一緒だよ。だから、寂しくなんてない。期待してて、僕は君のために、あの子のために必ず情報を見つけるから」
シェフィムは少女に笑いかけた。
「そろそろ起きないとだね。君の方こそ寂しかったらいつでも僕を呼んでよ。いつだって僕は君のそばに行くから」
シェフィムの身体から光が漂う。シェフィムは少女の左手首に魔法で創られたブレスレットをつけた。
「……おはよう」
目を開けると神官エルの顔が見える。世界の記録空間から戻ってきたようだ。シェフィムは身体を起こした。隣で眠っている少女を見る。少女の寝顔は僅かに安心しているように見えた。
シェフィムは少女の頭を撫でた。
「エル、絶対にかけらを集めるよ。あの子が正式に僕らに命じてくれた。僕らと一緒に生きたいからかけらを集めて欲しいって。もう何も諦めないために」




