3話 リブイン王国の姫
かけらを感知する魔法具はかなり近くになければ反応しない。その事に気がついたシェフィムは情報待ち中。あまりにも暇すぎて、眠っている少女を愛でながら報告書を書いている。
「エル、仕事ないってさ、暇なんだね。僕普段から仕事かエレの世話かだったから」
「最近は神殿の仕事忙しかったから休みもらえたと思ってる」
「休みか……急に休みってなるとする事なくない? 」
休みをもらったと言っている神官エルも暇だからか椅子に座って神殿に送る用の報告書を書いている。
シェフィムは連絡魔法具を右腕から外した。仕事の話が何かきていないか確認する。
「あーるーじーさーまーしーごーとーちょーうーだーいー」
ぷにゅみにゃん
その念が通じたんだろうか。タイミングよく連絡魔法具が鳴った。
「仕事きた。しかもかけらの可能性がある」
シェフィムは目を輝かせる。連絡魔法具を神官エルに見せつけた。
【旧リブイン王国にて謎の現象発生。旧リブイン王国の貴族達が突然病にふせる。原因不明。感染経路不明。調査不可。
関連性不明事項。別途資料参照。旧リブイン王国婚約発表】
添付資料を開くと、見覚えのある字が連なっている。
【旧リブイン王国に関する報告
養子の姫の部屋にて管理者管轄の書庫保管指定書物発見。全て回収依頼。件の書物もついでに。件の書物に関しては以前エクランダで問題を起こした家の令嬢が所持確認済み。
令嬢含め貴族達は全員会場内に在中。後始末依頼。
ちなみに全く反省しておりません。反省するつもりもございません】
時期と場所を考慮してこの報告書が送られてきたんだろう。真面目に書く気がないのか、何か不都合があるのか、作成者の名前が書いていない。
シェフィムは報告書を読んでくすりと笑った。
「相変わらずだね。あの人もよくこれを何も修正せずに送ってくるよ。相手が僕だからかもしれないけど」
「シェフィじゃなかったらフォルの報告書送られてこない。神殿で合同の仕事だと必ず書き直されてた」
「後始末しないのと、本家に向けた反省する気ないアピールさえなければ……詳細書こうとしない時点で……ところでリブインってどこ? 」
なぜか地図がついていない。シェフィムが持っているこの世界の地図ではリブイン王国は存在していない。数十年前の地図のため存在するのはリブス王国だ。
シェフィムは神官エルの方に視線を向けた。
「リブスがあった場所にできた国」
「リブス……あそこか。じゃあ転移魔法使うよ。あの子はちゃんと結界で守ってあるから」
その返事は聞かず、シェフィムは転移魔法を使った。
豊かな街並みだ。だが、道が所々ひび割れている。ここ最近できたもののようだ。一時はかなり富があり、設備も整えられていたが現在ではその富がなくなってしまっているんだろう。
「……何があったの? 」
リブイン王国の事を知らなければ、その時起きた事も把握していない。
「あの子にむりやり古代書の複製をさせた金で国が潤ってた」
「あの子ってそんな事までできたんだ」
シェフィムは魔法機械を腰につけた収納袋から取り出した。魔法機械でリブイン王宮の設計図を確認している。隅の方にエレシェフィールの写真を映して。
そのエレシェフィールの写真だけしか見ず、設計図は見ていない。
魔法機械をしまってエレシェフィールの事ばかり考えながら歩いているといつの間にか王宮へついている。
「もうついたんだ。ここであの子が……とりあえず解決するのが先かな」
シェフィム達は王宮へ入る。例の病が原因だろう。中には騎士一人すらいない。
シェフィム達は堂々と王宮内を探索する。
煌びやかな王宮には似合わないほど静かな廊下。シェフィムは真っ先に隠し部屋に向かう。
扉を開けると別世界のような空間が広がっている。姫が暮らしていたとは思えないほど狭い部屋。足場がないほど積まれた本。固く座り心地の悪いソファに椅子。ベッドは存在しない。
休む事などできそうにない部屋だ。
ここでエレシェフィールがどんな待遇を受けていたのか想像するに容易い。
「……」
シェフィムは奥の机の方へ向かった。
机には本とペンと薬の入った瓶がいくつも置かれている。エレシェフィールの好きそうなものはない。
ほとんどの薬はエレシェフィールの体質には合わない。それどころか魔力疾患に与える薬ですらない。
本をどかすと一枚の封筒が置かれている。封筒の中身はエレシェフィールに宛てた手紙。
【純粋なる姫君へ
あなた様の無事を祈ります】
エレシェフィールには読めていなかっただろう。だが、その想いだけは届いていたはずだ。おそらくその手紙と共に贈られた薬は唯一エレシェフィールの体質に合うもの。これがあったからこそ発作を和らげられていたんだろう。他の薬はかなり残っているがこの薬は残り一粒しかない。
シェフィムは手紙と薬の入った瓶を収納袋にしまった。
エレシェフィールの使っていたペンに触れる。そのペンは血が染み付いている。何があってもずっとここで写本を作り続けていたんだろう。
ここにはエレシェフィールの辛い思い出だけしか存在しないのだろう。
「……シェフィ、この件から手を引いても誰も責めないよ」
「引くわけないでしょ。なんとしてでも僕の手で助けてやる。あの子の代わりに」
シェフィムは振り返って神官エルと向き合う。
「変だって思っていいよ。でもね、何があっても、人を傷つけるような復讐も見捨てる事も絶対しない。悪人なら更生させてやる。僕は愛の神聖なんだ。一人も見捨てないよ。ほんとに許せないならそれで幸せにさせられたって屈辱を味合わせればいいんだ。それをいい気味だって見ているだけでいい」
悲しみと愛情が混ざっている。決して恨みなどは持たない。
「それが姫の兄であるという事? 」
「そういう事。君だってあるでしょ? そういうの。僕は、あの子に醜い世界を見せたくなんてない。あの子には優しい世界を見せていたい」
「……」
まるで時間になったから来たかのようにふんわりと少女がソファの上に現れた。少女がソファに座る。ぼんやりと本を見つめている。
「……姫」
シェフィムは少女の隣に座った。少女がシェフィムを見て笑みを浮かべる。
「……ありがと」
ごめんではなくありがと。シェフィムがしようとしている事は理解しているはずだ。それは少女の願いと反する事。
「……なんだか、ここの人達に迷惑かけちゃったみたい。ただ、フォルが見ていた本を見たかっただけなのに。触れる事もできなくて……」
シェフィムは少女を抱きしめる。触れられはしない。だが、その温もりだけは伝わっているはずだ。
「……シェフィ、わたしの言葉なんて気にせずにすきにしていいよ。わたしはどちらを選んでも受け入れるから」
「うん……ごめん、身勝手な兄で」
少女が光となってシェフィムに吸収される。初めから敵意などなく、存在するせいで影響を与えていただけのようだ。その影響がなくなったら、貴族達も自然と病が治るだろう。
「これでこの国の人は救われたはずだ。帰ろっか」
「……シェフィ、同じ姫を持つ兄として言わせてもらうけど、姫の無事を祈る事も、姫を消させない事も、身勝手じゃないよ」
「……そう、かな」
シェフィムは転移魔法を使った。
古屋に帰ると、結界魔法で保護した手紙と薬の入った瓶を眠っている少女のそばに置いた。
「エレ……君を想う人はいっぱいいるよ。これは君が気づかなかった優しさ。そばに置いておくから、読んであげてね」
眠っている少女のそばにおいても誰も読みはしないだろう。だが、シェフィムはいつかを信じて彼女に伝える。
「……エレって現代語読めた? 」
「読めない……って……あっ⁉︎ これ重要書類と同等のもんじゃん⁉︎ 消息不明のリブス国王からの手紙って……でも……」
「手紙に居場所書いてないから彼女に直接聞けば? 魔星は存在するだけで睡眠はないから見てたんじゃない? 」
シェフィムは「それだ⁉︎ 」と何か思いついたかのように彼女の眠っているベッドの隣で眠った。




