2話 魔星の神官
集落の一件以降は監視の仕事以外はなかった。シェフィムは眠っている髪の長い少女と一緒に小屋で過ごしていた。起きる事のない髪の長い少女の世話をシェフィムは一人でし続けた。
プープー
シェフィムの連絡魔法具から着信音が聞こえてくる。シェフィムは連絡魔法具を手にとった。
『夜分すまない。さっき報告があった。少し離れているが、村人が全員眠って起きないらしい。調査を頼めないだろうか? 』
連絡魔法具にメッセージが届いた。詳しい報告書を送ってくれたようだ。シェフィムは報告書を開いて状況を確認する。
「格安で受けてあげるよ。お代はこの連絡魔法具にエレとフォルとゼロの写真大量に送っといて」
シェフィムはにこにこと笑って言った。
連絡魔法具に写真が送られてくるのを確認してから、通話を切った。
「行ってくるね。今日も遅くなるかもしれないから」
シェフィムはベッドに結界魔法をかけてから転移魔法を使った。
聞いた通りの小さな村。外には清潔な衣装で身を包んだ少年がいる。
シェフィムは清潔な衣装の少年に近づいた。
「久しぶりだね。今はエルなんだっけ? 由来はエレシェフィールらぶ愛の魔星」
「半分は否定しない……早速だけど、愛の双子魔星の兄として今件。悪いけどあれらは魔力星だから何も知らない」
清潔な衣装の少年がシェフィムに四角い魔法具を渡す。シェフィムは受け取って、魔法具を起動した。
起動しても何も起こらない。何かの事象を起こすタイプの魔法具ではないのだろう。シェフィムは箱の中を除いた。
箱の中にはわずかに光が見える。
「これは? 」
「暴れてる魔星。眠っていて何の情報も得られないけど、お目当てのかけらに共感してる」
箱の中にある魔星自体はかけらではない。だが、なんらかの繋がりがあるのだろう。
今は光が弱い。この近くにはかけらがいないのだろう。
シェフィムは清潔な衣装の少年に箱を返した。
「いいの? 」
「うん。一緒にいてくれるんでしょ? なら僕が持ってる必要ないよ」
清潔な衣装の少年が何かいいたげな表情で箱を受け取った。
「ついでに契約でもしておく? その方が連絡取りやすいから」
清潔な衣装の少年の提案にシェフィムはこくりと頷いた。
シェフィムは右手を曲げる。清潔な衣装の少年の右手とシェフィムの右手が重なる。
「愛の星に生まれし二極。ここに重なりを誓う」
シェフィムと清潔な衣装の少年の足元に魔法陣が浮かぶ。ピンク色の光が二人の足元を照らす。魔法陣から上空へ風が吹く。
「星の意思の元生まれし聖極。愛の神聖、シェフィム・レディエース・エンシェルト。今ここに二極契約を繋ぐ」
「星の意思の元生まれし魔極。愛の魔星、ミードゥジョプ・ワーグ・エーシェフト。今ここに二極契約を交わさん」
光が二人がつけている指輪に吸収される。シェフィムは左手の薬指につけているピンク色の宝石の実をつける植物のような指輪。神官エルは右手の薬指につけているピンク色の宝石があしらわれた紫色の指輪。
「これで契約はできたね。村の事を聞いてもいい? 」
シェフィムは連絡魔法具を手に持った。メッセージできていた報告書を神官エルに見せる。
「……ここに書いてある事以外はほとんどわかっていない。数日前に突然村の人達が眠って起きなくなった。原因は不明。寝ている人達は至って健康体。魔法の影響すら受けていない。人の目で確認できる範囲では」
シェフィムは村を見渡す。一見すると普通の村。だが、異変は存在している。普通には見えないが魔力を視る事に慣れているシェフィムはその異変を見つけられた。
小さな公園に靄のような光が漂っている。
シェフィムはその光に近づこうとする。だが、神官エルに腕を掴まれて止められた。
「近づかないで。あれは魔物の前兆。神聖なら呑まれた魔星の末路を知ってるでしょ」
シェフィムはこくりと頷いた。
自然に漂う魔星は様々なものに呑まれやすい。そして、呑まれた結果どうなるのか。それは神聖に選ばれる前に習う事だ。
「あれが、原因? 魔物が出てくるまで、待つしかないのかな」
「……精神汚染を緩和する方法があっても、魔力だけではそんなもの使えない。この世界では、待つしかない」
神官エルの言葉にシェフィムは拳を握った。苦い顔で漂う光を見つめている。
「普通の人はあれに耐えられないんじゃ」
「気休めにしかならないけど、回復魔法は使っておいた。あの子がいれば、まだ方法はあるかもしれないけど」
「あの子? ……そうだ! 」
シェフィムは魔法杖を取り出した。右手で魔法杖を握る。左手を胸に当てる。
シェフィムの中にいる少女のかけらが反応している。
――少しだけ力を借りるね。
言葉を聞く事はできない。だが、いいよと言っているかのように反応がわずかに強くなる。
「聖なる星の音よ、優しきその音色で我らを包み込め」
シェフィムは呪言を唱える。目には見えないが、優しき音色が人々を守るだろう。これ以上魔星の影響を受けないようにと。
シェフィムの中にある少女のかけらが喜んでいるようだ。
「星にいた頃も何度か見ていたけど、人に心の澱みの具現化が魔物になるんだったよね。あの子には見せられないよ」
靄のような光が収縮している。収縮した光が真っ黒い魔物に変わる。
魔物がシェフィム達に襲いかかる。魔物が口から炎を吐いた。
シェフィムは氷魔法で炎を防いだ。
「グォォォォォ」
魔物が雄叫びを上げる。
「清らかな願いに変わる事を願うよ」
シェフィムは浄化魔法を使った。魔物が浄化される。シェフィムは浄化される魔物に祈りを捧げた。
「神殿勤の神官よりも聖職者向きなんじゃない? 」
「そうかな? 僕はそんなに聖職者向きじゃないと思うよ。妹にガチ恋して周りに恋人だって言いまわるとか、妹だという事を黙ってわざと恋人だと勘違いさせようとするとか、弟が欲しいからって妹に結婚させようとしているとか……聖職者にはなれないよ」
神殿の神官達で魔物討伐に関わっている者達ですら毎回魔物を浄化する度に祈りを捧げてはいない。その点で言えばシェフィムの方が聖職者に向いていると思われるのだろう。
それ以外の面が全く聖職者向きではないのだが。
シェフィムは村を見渡した。今はまだ村の人はいないが、時期に目を覚ますだろう。
「帰らないと。あの子が待ってるから。エル、帰ろ。一緒の方が何かと便利だから、神殿には言っといて」
「もう連絡はしてある。寂しがりのシェフィムならそう言うと思ったから」
シェフィムは笑顔で神官エルに飛びついた。だが、神官エルが華麗に左によけた。
「むぅ、避けないでよ」
「……帰らないの? 」
「帰るよ」
シェフィムはむすっとした表情を見せた。転移魔法を使い、小屋に帰る。
小屋には変わらず髪の長い少女が眠っている。今日も何事もなかったようだ。
「かけら、ない方があの子のためかもしれない」
「うん。そうかもしれないね。でも、必要になった時にないと困るでしょ? それに、かけらには記憶も入っているんだ。かけらの中に残された記憶がきっと、救ってくれる」
シェフィムは髪の長い少女の頭を撫でる。髪の長い少女に反応はない。
「……エレ、僕は何度もいつかを疑ったよ。でもね、それでも諦められなかったんだ。いつか、また一緒にいられるようになるよね? ずっと信じっているから。君も信じていて」
シェフィムは窓の外を見ながら優しい声で言った。近いようで遠くにいる大切な少女に向けて。いつかを信じながら、かけらを探す。




