2話 魔聖の神官
集落の一件以降、欲しい仕事は来ない。書類仕事ばかり。書類仕事って、あんまりすきじゃないんだよな。身体動かすような仕事の方がすきなんだ。
ブーブー
こんな時間になんの用なんだろう。とりあえず出てみるか。どっかのお姫様が、収納魔法にいちいちしまうから一方通行になる。なんて理由で生まれたブレスレット型の連絡魔法具を起動させる。
『夜分遅くにすまない。少し離れているが、村人が全員、眠って起きないらしい。調査を頼めないだろうか? 』
やっと動く系がきた。
ぷにゅみにゃん
メッセージが届いた。報告書が添付されてる。わかっていないからか、内容が薄い。これならないとおんなじな気がするよ。場所がわかるだけ、いいのかな。
「格安で受けてあげる。愛しきエレにゃん隊員の写真大量に送って」
ぬいぐるみとか求めないあたり格安。笑顔で言うと呆れ顔が返ってきた。
『……後で送る。写真撮ってくるからあと三十時間くらいかかる』
なんでそんなに時間かかるんだろう。よりも先に、これは期待できるって思ってしまった。
「わかったよ……行ってくるね、今日も遅くなりそうだけど待ってて」
だいすきな人を守る結界魔法は忘れない。眠くないから転移魔法で早速、報告のあった場所へ向かう。
報告書に書かれてはいたけど、ほんとに小さい村。村の人は見つからない。代わりに見つかったのは、聖衣を着ている僕の幼馴染。
「久しぶり、ミドゥ……今はエルって呼ぶべきなんだっけ? 由来はエレシェフィールらぶ魔聖? 」
僕は彼に声をかける。彼が僕を見る。正直、ミドゥって呼んでる方が慣れてるんだけど。世俗に溶け込むために、仕方ないのかな。
「半分は否定しない……早速だけど、今回の件ぼくたちは何も知らない」
魔聖は関わってない。魔星の命令権だけじゃなく、意思疎通できるのが基本魔聖だけなのに。ていうか、その言い訳って、ほんとに僕にする事? フォルあたりにした方がいいでしょ。今回のって、ギュリエンあたりから関わってきている件でしょ。
スッとエルが僕に、四角い箱みたいなのを渡してくる。穴が空いているから覗いてみる。穴の中で、静かな光がある。
「これは? 」
「暴れていた魔星を眠らせておいた。眠っているから何の情報も得られないけど、お目当てのものに共感している」
僕が聞くとエルは答えてくれる。箱の中の魔星は、僕が求めるものじゃない。でも、おんなじ魔星同士でつながりでもあるんだろうね。
今は光が弱いから、近くにいないんだと思う。僕は箱をエルに返す。
「いいの? 」
「うん。君が一緒にいてくれるんだから、僕が持っておく必要ないよ」
何か言いたそうな目をしている。このために、暇とってきてくれているわけじゃないの? 一緒にいてくれるつもりじゃなかったの?
たまにさ、人恋しくなるんだ。あの子はずっと眠っているから、話す事できないからね。二人でもいいんだけど、話し相手が欲しくなる時があるんだ。
「なら契約しておく? シェフィが逸れた時のために」
「……僕は妹と違って、無自覚迷子癖ないけど? 」
エルがそういう意味で言ったわけじゃないのはわかってたのに、つい。別にエレを方向音痴なんて、思っているよ? じゃなくて、思ってないよ。本音は隠しておかないとなのに。エレの理想のために。
僕はエルと両手を重ねる。僕の神聖力と、エルの魔力が重なる。
「愛の星に生まれし二極、今再びここに重なり、絆を誓う」
僕らの足元に、ピンクの魔法陣が浮かぶ。魔法陣から光が溢れる。
地面から、空に向かって風が吹く。
「星の意思の元生まれし神極。愛の神聖、シェフィム・レディエース・エンシェルト。今ここに二極契約を繋がん」
「星の意思の元生まれし魔極。愛の魔聖、ミードゥジョプ・ワーグ・エーシェフト。今ここに二極契約を交わさん」
互いに契約の言葉を交わす。光が指輪に吸収される。僕ら神聖は、エレらぶの意味で左手の薬指。エル達魔聖は、右手の薬指に指輪をつけているんだ。植物の鶴にような輪に、宝石があしらわれている。僕らはピンク。この指輪が神聖と魔聖の証明なんだ。
「これで契約完了。神官エル、相当優秀みたいじゃん。て事は、僕のお願い聞いてくれる? 」
仕事上聖女と関わる事が多くて。そのついでに情報も聞いてる。聖女の補佐として、優秀なんだって。
「村の現状? 寝ている人は健康体。原因は不明。目に見えるものではないというか、普通の人では、理解できない現象が起きている」
それであそこまで情報がなかったんだ。
ここは子供達が遊ぶ、石の地面の公園。誰もいない公園に、光が集まっている。普通の人には視えない光が。
これをほっといたら、人に害を及ぼす事になる。
僕が光の元へ行こうとすると、エルに止められる。
「近づかないで。あれは魔物の前兆。神聖なら呑まれた魔星の末路を知ってるはず」
知っている。魔星が魔力と違うものは、意思の有無だけじゃない。それは、魔星が人の心の澱みに触れて、魔物を生み出すという事。
集まる黒い光は魔物を生み出す前兆。このままほっとけば次期に、魔物が生まれてしまう。
「……あれが原因? 魔物が出てくるまで、待つしかないのかな」
僕は黒い光が集まっているのを見つめている。この村の異常。この光は、それを引き起こせるんだ。
「……魔星の汚染から身を守る方法なんて限られている。気休め程度に回復魔法をかけているけど、ぼくたちには」
ただ、待っているだけしかできない。このままほっとけば、今でさえ目覚めなくなってる村の人達は、どうなるんだろう。この先、目覚める事がなくなるかもしれない。
自分の無力さがいやになる。
もし、今ここに僕のかわいいエレがいてくれたら、エルの妹がいてくれたら、被害は抑えられたのかな。
「……あっ⁉︎ あの子なら」
一人だけいた。今この場所で、この状況をどうにかしてくれる相手が。僕は左手を胸に当てた。
——少しだけ力借りるね
僕の中にいる、だいすきな人のかけら。まだ一つしかないからなのかな。反応が薄い。でも、いいよって言っている気がする。
かけら一つ分のわずかな力。でも、それで十分。
「聖なる星の音よ、優しきこの音色で我らを包み込め」
あの子が使う呪言。それを唱える。普通の人の耳では聞こえない、穏やかで優しい音色が村を守ってくれる。これでこの村の人達が、これ以上魔星の被害に遭わずに済む。
影響がなくなって、現在の症状も、一日くらいかかるけど回復するはず。
あの子も喜んでいる、気がする。
「……人の心の澱みが具現化する事で、魔物が生まれる。それに魔星が混ざる事で異常が起こる……あの子には、見せたくないな」
集まった黒い光が収縮する。この収縮された時に、光が多いほど、魔物が強力となっていくらしい。僕らはあまり気にした事ないけど。収縮された光から、黒く巨大な狼のような魔物が生まれる。
純粋で愛らしいあの子に見せたくないもの。
今回のように、人の感情の澱みで生まれる魔物は知能がなく、目の前のものを破壊するしか脳がない。魔物が僕らに向かって炎を吐く。炎には水、と言いたいけど、氷の方が有効なんだっけ。
僕は氷魔法で壁を創った。空色の光から生まれる氷の壁が、炎を防いでくれる。
「グォォォォォ! 」
地面を揺らす雄叫び。もし、村の人達が起きてたら、大混乱だろうね。
「清らかな願いに生まれ変わる事を願うよ」
浄化魔法の白い光で、魔物が浄化される。僕はいつも通り胸の前で両手を組んで、魔物に祈りを捧げる。
「お疲れ様。神殿にはしばらく戻れないって伝えてあるから。寂しがり屋のシェフィは、どんな時でも一緒にいたいって言いそうだから」
そういえば契約の話しだして、答え聞いてなかった。そうだよ。一緒にいたいよ。
この想いを伝えるために、笑顔で飛びつこうとしたんだけど、エルに華麗に避けられた。
「むぅ、避けないでよ」
僕はわざとらしくむすって顔する。
「帰らないの? 」
エルは気にしていない。いつもの事くらいにしか思ってないでしょ。
「帰るよ」
飛びつくのは諦めて、転移魔法を使う。
今日も何もなかった。だいすきな人には。
「……かけら、ない方があの子のためなのかもしれない」
エルが僕のだいすきな人を見て言う。迷っているみたいな顔で。
「そうかもしれないね。何も知らずにいた方がいいのかも。でも……これはあの子を守るためなんだ。それでも、全部あの子のためじゃないんだ。あの子の願いは違うから。それでも、僕のわがままに付き合って」
僕は彼女の頭を撫でながら答える。迷ってるのは僕もおんなじ。でも、どうするにしても、集めておいて損はないから。少なくとも、あのお願いを叶える気はないんだけど。
「……エレ、僕は何度も本物を疑ったよ。今だって、それでいいのか迷ってる。でも、諦めきれないから、僕は僕のわがままを突き通すよ。君を巻き込み続けるよ。僕らは……僕は、君が望んだ結末を絶対に許さないから」
それは遠くにいるあの子と、僕の中にいるかけらの子、そして、まだ遠くにいるかけらの子達に向けた言葉。
ぷにゅみにゃん
約束の写真が送られてきた。隠し撮りは一枚もない。律儀に頼んでいるなんて。あの人らしいかな。




