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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 星実月 希蝶
1章 シェフィ編 かけら探し
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1話 集落の夜異常


 古く狭い家。白い壁紙がボロボロになってる。必要最低限のものしか置いていない。こだわりもベッド以外はない。


「……おはよ」


 いつ何があってもいいように、ベッドの上で座って寝ていた。隣には僕のだいすきな人が寝ている。

 僕はだいすきな人の額に、口付けをする。いつか、君が目を覚ませるようにしてあげるね。そんな願いを込めて。


「今日は近くにある集落で物資の調達をしに行くんだ。その後に少し、精霊達の様子も、見ておきたいなって思ってる」


 寝ているだいすきな人が、僕がいない間何事もないようにと結界魔法をかけておく。絶対ではないけど、多少の事では、破壊されないと思うよ。

 開けたら壊れるから、開けられない窓の外を見る。

 森の中だから、木々が生い茂っている。ここは少し変わった場所なんだ。自然に等間隔で並んでいる。


「……まさか、近くに来るなんて。ここにくる心配はなくても、同調の可能性があったんだった。幸いにも、それはなかったけど……気をつけないと、だよね」


 自分からはなるべく会わないようにしている相手が、近くに来ていたんだ。どうにかバレずに済んだみたい。

 ほんとは会って慰めてあげたかったけど、もう必要もないのかな。


 僕はベッドから降りて、立て付けの悪い扉を開けた。



 この森にある集落に向かう。魔物がいない、特殊な魔の森だからって油断していた。一体だけど、真っ黒い猪のような姿を確認する。

 魔物が突進してくる。ひょぃって左側に避ける。一般的に魔物には浄化魔法が有効なんだ。だから、浄化魔法を使う。


「……想い浄化され、清らかになりますように」


 浄化され、白い光の粒子となって消えゆく魔物。僕は胸の前で両手を組んで、祈りを捧げた。多くの魔物は、澱んだ想いによって生まれる悲しい存在。

 澱んだ想いが浄化されて、愛が溢れますように。


 祈りを捧げると、また集落に向かって歩く。これ以上は魔物に出会う事なく、無事についた。


「いたいた。またいつものもらえるかな」


 この集落で僕が取引をしてもらっている、若い男性を見つけた。男性に声をかける。最低でも百はいってないと、僕らからしてみれば若いよ。


「はいはい。いつものっと、お前さんあの組織の一員じゃろ。なら、一つ悩みでも聞いてくれんかの? 」


 なんだか、暗い顔をしている。周囲を見ると、彼だけじゃない。みんな暗い顔をしている。ここで何か問題があった、なんて聞いてないんだけど。あの人のとこにも情報、来てないのかな。


「うん」


 当然相談は乗るとして、情報がこなかった事については、後で問い詰めようかな。


「……いつからだったかの。変なものが見えるようになったんじゃ。それが歳をとって、幻覚でも見ているんじゃないかと思ったら、集落のみんなも同じものを、同じ場所、時間であの恐ろしい……ひぃぃぃぃぃぃ」


 突然怯え出した。僕の後ろを見ている。でも、誰もいない。

 精神系統の魔法ってわけではなさそう。どちらかというと、神聖術に近い。でも、この世界に……考えても仕方がない。


 とりあえず、状況を知らせないと。右耳のイヤリングに触れる。イヤリング型の通信魔法具。


「……う……うぅ」


 解呪魔法を使うけど、あまり効果が見られない。突然男性が倒れる。意識はない。呼吸はしている。熱は、むしろ低い。顔が青ざめている。


 狭い集落だからなのか、何度もこういう事があるからなのか。すぐに集落の人達が助けに来る。介抱も慣れているみたい。


「あの、今日はこの集落に泊まってもいいですか? あっ、僕は近くに住んでいて、時々こちらの方と取引をしている、シェフィムです」


 僕も少しでも落ち着くように手伝う。回復魔法を使って。少し前から、定期的に通っては手伝いとかしていたから、滞在には誰も反対しないみたい。


「うぅ……くるな……やめろ」


 今度は暴れ出した。幻覚でも見ているような言動。回復魔法よりも精神安定の魔法の方が、効果があるかもしれない。


 それでも落ち着かせるのに、十分かかった。症状がというより、何かに邪魔されている感覚がある。それで、効き目が弱くなっていたんだ。


「助かったよ。いつもはこうなると、一時間以上暴れて治らないんだ」


 やっぱそういう事か。一度や二度じゃない。何度も、何人も、おんなじような症状で倒れているんだろうね。


「役に立てて何よりです。その、こういった症状の人は他にいるなら見せていただきませんか? 解決の糸口になるかもしれません」


「ええ。いくつかのテントに集めているので、案内いたしますよ。それと、お役に立つかわかりませんが、症状が出た時の事を詳しく書いた紙もどうぞ」


 なんでそんな便利なもん、持っているんだろう。常に情報を持ち歩かないといけない、僕が言う事じゃないんだけどさ。


 かなり細かく書かれてる。ここ最近、突然起こったみたい。心当たりはない。症状は、みんな彼とおんなじ感じ。その後の事もある。意識は戻らず、定期的に暴れ出す。


「ありがと。これは返すよ。ここでは紙の一つも貴重、なんでしょ? 」


 もう暗記したから大丈夫。僕が紙を返すと、紙を見せてくれた男性が感心しているご様子。

 

「ええ。よくご存知ですね。本当にあなたは不思議な方です。何の見返りも求めずいつも我々を助けてくださり、みんな感謝してるんです。何かお礼をしたいと、いつも考えているんですが」


「気持ちが一番のお礼ですよ。愛情や感謝。そういう感情が一番すきなんです」


 笑顔でそう言う。もちろん本心だよ。愛の神聖にとって、そういった感情が大事だから。


 倒れている人達が眠るテントに案内してもらう。案内してくれた人は帰って、一人になる。


 このテントの中は落ち着いているけど、いつ暴れるかわからないんだよね。手足を拘束されてる。気休めだけど、睡眠魔法をかけておく。


『不思議……確かにその通りだな。だが、世の中悪人はいるもんだ。気をつけておけ。それと解決できそうか? 』


 イヤリングを通して声が聞こえる。一応、僕の雇い主かな。


「どうだろ? て言うか、僕だって、善悪の見分けくらいつきますー。悪人なら善人にしてやるから、安心していいよ」


 雇い主に対する発言じゃないのは、いつもの事。向こうも気にしてないから。


『それなら、あの連中を改心させてくれ……俺には無理だ。ところで、援護は必要か? 』


 なんか問題起こってんな。まぁ、想像はつく。


「神殿の聖女と、聖女の補佐してる神官希望ー。それと、あまり一人でがんばりすぎないでよ。あの子もだけど、助けてくれる人は、いくらでもいるんだからさ。あんな事があっても、それを諦めてない姫はいるから。弱音吐く前に僕らと奇跡信じろー」


 事情は聞かずに励ましてやる。そうしたら、少しだけ明るい。

 

『そうだな。援護は頼んでおく。また夜に連絡くれ』


 って言う声が返ってきた。問い詰めるのは、やめてあげるか。僕は通信を切って、夜まで散歩する。



 空が暗くなった頃、集落の人達が、祭りを行う場所へ移動した。僕はそれについていく。

 

「……っ⁉︎ やっと見つけた」


 円を作る人達。その中心に現れる少女。僕のだいすきな人と、おんなじ容姿の。僕が、ずっと探していたもの。


「……ふふ」


 彼女は不敵に笑う。


「星に祝福を願いなさい」


 愛らしい声で、聞き慣れた言葉を使う彼女。これ以上被害を出さないためにも、転移魔法で集落の人達を適当なテントに避難させる。


「……邪魔しないで」


 やっと僕を見てくれた。完全に敵とみなしてるけど関係ない。


「やだよ。君は僕の愛情なんだから。魔星になったからって恋人まで忘れるって酷くない? ねぇ……誰も僕の愛を邪魔できるわけないから」


 まずは彼女を元に戻さないと。僕らをつなぐ愛の神聖術。ピンク色の光が僕らを包み込む。揺らがない愛が、彼女を元に戻してくれる。大粒の涙を見せる彼女に、僕は笑顔を向けた。


「ごめんなさい」


 あの願いの事で謝っているのかな。でも、謝る必要なんてないんだよ。そう知って欲しい。


「そんな顔しないで。絶対に消させないから。僕がいる限り、君を縛れるものなんてないよ。君を諦めさせるもんなんてないよ」


 あんな願いは聞き入れない。君を消させなんてしない。僕は左手を、彼女の右手に重ねる。触れられない。温度なんて、感じない。


「もう少しだけ眠ってて」


 彼女がピンクの光になって、僕の中に入る。僕という仮の器の中で、ゆっくりと眠る。


「あっ⁉︎ 忘れてた」


 僕は急いでイヤリングに触れる。


『おかしいな? 俺の感覚ではもう、夜は始まってるんだが? そっちでは今夜になったのか』


 昼の時より声が低い。これ怒ってるな。


「……ごめん。えっと、無事に解決しました。それで今後、今回みたいな事あったら、僕に仕事回してください。それと事後処理お願いします」


 怒りを鎮めるために、下手に出る。


『わかった。次は結果だけは止めるように』


 あれ? あんまり怒ってないのかな。


「はーい」


 ここは素直に返事をしておく。これ以上怒りを買わないために。


 イヤリングに触れて通信を切ると、転移魔法を使った。

 精霊の様子を見た後、あの狭い家に帰る。


「……ただいま。ようやく見つけたよ。君の願いの一つ目を」


 僕はそう言って、眠っているだいすきな人の頭を撫でた。

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