10話 おかえり
エクリシェのフォルの部屋。転移したのはエレシェフィールとフォルだけ。他のみんなはジュンドの森に置いてきているのだろう。
エレシェフィールはフォルに抱き上げられる。そのままベッドの上で寝かせられた。
フォルがエレシェフィールの隣で座った。
「……フォルは大胆すぎるの」
エレシェフィールはフォルに抱きついた。フォルがなぜエレシェフィールだけを連れて転移魔法を使ったのか。それはエレシェフィールでも理解できる。
その行動がフォルらしさという事だ。
エレシェフィールはフォルが風邪ひかないようにようにと布団をかけた。
「大丈夫だよ。このくらいで風邪ひかないから。それとあの子らの事も。森には導いてくれる精霊がいるから。僕から頼んでいれば導いてくれる。僕のために頼まなくても、導いてくれたみたいだけど」
エレシェフィール達の事だろう。エレシェフィールはジュンドの森で何かに導かれるようにフォルのいる場所まで辿り着いた。それは記憶もあるのだろうが精霊がエレシェフィール達を導いてくれたというのが大きいだろう。
エレシェフィールは収納魔法から連絡魔法具を取り出そうとする。だが、現在エレシェフィールの連絡魔法具は壊れて存在していない。
ゼーシェリオンに連絡を取る事ができず、瞳に涙を溜める。
「これ。すぐにはできそうにないから、神殿の最新版の連絡魔法具を買っといた。ごめん。フィルの作ったのじゃなくて」
フォルが連絡魔法具をくれる。ブレスレットのような形状だが、市販品よりも高性能で収納魔法にいちいちしまう手間がない。かなり便利さを追求されている。
エレシェフィールは笑顔で連絡魔法具を受け取った。
「ありがと。うれしい。神殿の最新版の魔法具といえば便利さと使いやすさがいいの。頑丈さはちょっとアレなんだけど。でも、でも、とっても使いやすいのはとってもいいの。一番うれしいのは……フォルがくれるって事だけど」
エレシェフィールは連絡魔法具でゼーシェリオンにメッセージを送った。
新しい連絡魔法具の自慢を長々とした後、がんばってと一言送った。
エレシェフィールはフォルに向かってにんまりと笑った。
「使いやすいの」
エレシェフィールはフォルにゼーシェリオンに送ったメッセージを見せた。
「喜んでもらえてよかった。僕にもっと暇があれば作ってあげられるんだけど……今回の件でかなり仕事があるだろうから。それに、彼に会うためにも今は」
今は仕事を優先する。エレシェフィールも同じようなものだ。今は愛の神聖の代理としての役割を優先させる。それがエレシェフィールが選んだ事。
だが、そんなふうに責任を一人で抱えているだけではいつかは崩壊してしまう。エレシェフィールは誰よりもそれを理解させられている。
その重みが大きければ大きいほど、その時はきやすい。そして、そうなった時に最悪を招いてしまう。
エレシェフィールは連絡魔法具を右手首につけた。空いた両手でフォルの右手を握る。
「作らなくてもいいけど遊ぶの。遊ぶ時間は暇がなくても作るの。エレ寂しいから。お話しいっぱいもするの。たまにはお仕事さぼってもいいの。きっと誰かが代わりにしてくれるの。がんばりすぎはやなの。みんなで一緒になの」
フォルがエレシェフィールをじっと見つめている。エレシェフィールはフォルの頬に唇を当てた。一瞬止まった後、微笑むフォル。エレシェフィールはほんのりと赤らんだ頬を膨らませた。
「……ふにゃ⁉︎ すきなフォルがいるのにエレはお風呂に入ってないの⁉︎ お風呂……ゼロいない……お風呂⁉︎ ……ゼロ……」
エレシェフィールの世話を全てしてくれているゼーシェリオンがいない。入浴中になにかあった時のために、常にゼーシェリオンが側にいる。だが、今はゼーシェリオンがいない。
「僕でよければ一緒に入ろうか? 僕はそもそも男じゃないんだから」
「ふぇ⁉︎ ふぇ⁉︎ みゅ……い、一緒に入る、の」
エレシェフィールは耳まで真っ赤にしている。フォルと一緒に浴室へ移動した。
「……エレ、少しだけ魔法の練習してみる? ここで水魔法使うだけだけど」
エレシェフィールはこくりと頷いた。
二人でも少し広く感じる浴室。シャワーは最新型の魔法機械。手持ちと天井に設置されている。
床のタイルは怪我がしないように工夫されている。滑りづらいのもその工夫の一つだろう。
エレシェフィールは両手を胸の前で組んだ。水魔法を使うために魔力を集める。
「……えぃ」
エレシェフィールは両手を前に突き出して水魔法を発動した。大量の水が浴槽を満たす。浴槽に入りきらない水が溢れている。
「……またなの」
エレシェフィールはガックリと肩を落とした。
「慣れれば調整できるよ。それに魔法杖である程度制御できるから気にしないで」
普通はエレシェフィールのようにはならない。生活に使うような魔法であれば基本誰でも使える。調整を意識する事はない。
フォルに励まされているが、エレシェフィールは瞳にたっぷりと涙を溜めている。
「……エレの髪ってほんとに綺麗だよね。ゼロが触りたくなるのがわかるよ」
フォルがエレシェフィールの髪を洗うという理由で触りまくっている。洗うだけなら必要なさそうな三つ編みまでしている。
「……うん。今の髪はすき。妹だって思えるから」
エレシェフィールは一束自分のか髪を手に取った。写真で見たシェフィムと似ている髪の色。エレシェフィールとシェフィムの繋がりの一つだ。
エレシェフィールは自分の髪を見て目を細めた。
「そういえば言い忘れてたの。帰ってからいうのが一番なの」
エレシェフィールは鏡越しにフォルを見た。
「おかえりなさい、フォル」
「……うん。ただいま。僕のお姫様」
フォルがエレシェフィールを抱きしめた。
「……お姫様。エレは本物の姫じゃないのに、もったいないよ。ちゃんと知ってるから。エレがどうやって生まれたのか」
世界から選ばれた少女の複製品であり、星の姫の因子を僅かに引き継ぐ存在。世界でも星でもない半端な姫。
その事実をエレシェフィールは決して忘れない。
「……が……なわけ……のに」
小声で言ったフォルの言葉をエレシェフィールは聞き取る事ができなかった。
「……顔赤いよ。のぼせる前に出ないと。エレはすぐにのぼせるから」
湯気でのぼせかけているエレシェフィールの身体ををフォルがささっと洗ってくれる。流し終わり、拭き終わるとすぐに浴室から出された。
エレシェフィールは浴室の扉の前で座り、フォルが来るのを待つ。
「……ねぇ、フォルってエレが何したら恥ずかしそうな顔を見せてくれるの? 」
エレシェフィールはフォルの行動一つですぐに顔を真っ赤にしているが、フォルがエレシェフィールに対してそんな表情を見せる事は少ない。
「それ僕が言うわけないじゃん。それより、後でリプセグから情報もらっといて。魔星の事がわからなくてもいいから」
「うん。わかったの」
エレシェフィールは収納魔法から魔原書リプセグを取り出した。浮かんでいる魔原書リプセグを開き、魔力を与える。
エレシェフィールの魔力に反応して白紙のページに文字が浮かび上がった。
【どうされましたか? 】
エレシェフィールは右手で左手で浮かび上がった文字に触れる。
「魔星の事、シェフィムの事、ギュリエンの事……エレの記憶の事。わかる事があるなら教えて欲しいの」
エレシェフィールは左手を文字から離した。情報をまとめているのだろう。文字が消えて白紙のページになる。
しばらくすると、また文字が浮かび上がる。
【大切なものを守り、自らの在り方を知る。きっと、そうすれば会う事ができるでしょう】
魔原書リプセグは、丁寧に答えを教えてくれる古代魔法具ではない。ヒントのようなものはくれるが、そこからどうするかはエレシェフィールが考えなければならない。
エレシェフィールはフォルが入浴を終えるまでずっと魔原書リプセグの言葉の意味を考えていた。
だが、その答えは出ないままだ。




