9話 自分らしく
エレシェフィールがエレシェフィールらしくいると決めたはいいが、それだけで彼の手がかりを知る事はできない。
エレシェフィールはきょとんと首を傾げてフォルを見つめている。
「……あの中に何かあるかもしれないから見てみない? 」
彼の手がかりを探るため、エレシェフィール達は古びた洋館を探索する事にした。
扉を開けて、足を踏み入れるとギシッと床の音が鳴る。誰も出入りしていないからか埃が溜まっている。
「……けほっ……けほっ」
エレシェフィールは埃を吸ってむせている。あまりの埃の多さに、無意識に浄化魔法まで使っていた。
浄化魔法で洋館内の埃がなくなり、エレシェフィールはゆっくりと息を吸った。
大きく息を吸っても埃で咳き込む事はない。エレシェフィールは埃がなくなった洋館内をじっくりと見る。
新たに思い出す記憶はない。懐かしさを感じるだけ。エレシェフィールは、導かれるように目の前にある階段を登った。
奥にある扉を開ける。エレシェフィールが好きな魔法具やぬいぐるみが置かれている普通の部屋だ。
「……エレのお部屋みたい。でも」
エレシェフィールの好きなものばかりだが、中にはそうでないものもある。例えば床に置いてある古い本。エレシェフィールの読まないような歴史書だ。他にも、勉強嫌いなエレシェフィールでは好まないようなものがいくつか確認できる。
「……あっ」
棚の端に目立たないように置かれている一枚の写真。エレシェフィールはその写真を手に取った。
写真の裏にはエレシェフィールとシェフィムと書かれている。写真の方は、まだ幼い子供が二人。一人は長い髪の幼女。間違いなくエレシェフィールだ。もう一人は、エレシェフィールに雰囲気が似ている幼児。
その幼児こそ、エレシェフィール達が探している相手。エレシェフィールの双子の兄。
写真の二人は幸せそうに笑っている。本当に仲が良かったのだろう。
「……シェフィム……会いたいの」
名前を思い出す事ができなかったエレシェフィールにとっては大きな前進だ。エレシェフィールは彼の名前を忘れないように口にする。
「……みゅ? なんだか音が聞こえるの」
ようやく見つけた手がかりに想いを馳せているのを邪魔するかのように、小さな音が聞こえてくる。
「音? どんな? 」
エレシェフィールは音魔法を使い、鮮明に音を聞き取る。
「とっても心地のいい音なの。眠くなるような音。チッチッチって」
エレシェフィールはゆったりと聞こえてくる音を聞いている。どこかで聞いた事がある音だと思いながら。
「まるでエレの特性爆発魔法具みたいな心地のいい音なの」
エレシェフィールは瞼を閉じてリラックスしながら音を聞いている。リラックス中のエレシェフィールとは正反対に隣は騒がしい。
特にゼーシェリオンだ。一人で騒いでいる。
「それ爆弾だろ! 早く逃げねぇと」
ゼーシェリオンが逃げようとする仲、エレシェフィールどころかフォルすら動いていない。
ゼーシェリオンが扉を開けようとしているが、開けるそぶりだけで開いてはいない。
「……用意周到だね。誰かが漏らした……なんてあるわけないか。監視の魔法具があってもあの連中がこんな芸当できるわけないから違うか……」
エレシェフィール達がここにいるのを知っているのは、ルーツエングとイールグだけ。監視の魔法具は後から出ないと見る事ができないうえ、この周囲にはない。しかも、現在ルーツエングとイールグが破壊して回っている。
ゼーシェリオンが一人で慌てふためく姿に、エレシェフィールは事態を理解する。エレシェフィールは「ぴにゃ⁉︎ ぴにゃ⁉︎ 」と言いながらその場でぐるぐると回っている。
チッチッチという音の間隔が短くなっている。エレシェフィールはあわあわと声に出している。
「エレ! 」
「ふぇ⁉︎ 」
エレシェフィールはフォルに右手を引っ張られてバランスを崩す。フォルが身体で支えてくれた事を理解するのと同時に轟音が鳴り響いた。
音が消えると瓦礫の山になっている。ゼーシェリオンは自分で氷魔法を使い身を守っていたようだ。エレシェフィールは巨大な花に包まれて爆発から守られた。
「……えっ? 」
フォルが目を見開いて巨大な花を見ている。巨大な花を創りエレシェフィールを守ったのは間違いなくフォルだ。
「フォル? 」
エレシェフィールはフォルを見てきょとんと首を傾げる。
花を見るとわずかにフォル以外の魔力がある。それはエレシェフィールのものに似ている。だが、エレシェフィールのものではない。
「……守って、くれたの? 」
エレシェフィールはフォルの魔法の花をじっと見つめてぽつりとつぶやいた。
エレシェフィールだけではない。守られたのはフォルもだろう。
エレシェフィールはフォルの手を握った。
「ゼロ、フォル、エクリシェに帰ろ。今のエレ達の居場所に帰ろ」
エレシェフィールはフォルに笑顔を作った。
そこが本物の居場所なんだ。まだエレシェフィールはそう思う事ができない。だが、ここは大切な人達がたくさんもものをくれた特別な場所。その認識はできるようになった。
エレシェフィールにそれを教えてくれたゼーシェリオン。迷いながらも前を向いてくれたフォル。どこにいてもずっとエレシェフィールを守ってくれるシェフィムのおかげで。
「……うん。そうだね」
「それはそうだが……どうやって帰るんだ? 」
エレシェフィールとゼーシェリオンは導かれてきただけ。きた道を覚えていない。
エレシェフィールはゼーシェリオンをじっと見つめる。ゼーシェリオンが首を横に振る。エレシェフィールは両手をあげて威嚇のポーズを取る。ゼーシェリオンも威嚇のポーズを取る。
「……無言で喧嘩しないでよ。僕が転移魔法使うから」
エレシェフィールとゼーシェリオンが言葉を使わずに喧嘩していると、呆れ顔でフォルが仲裁に入る。
「……仲直りしたようだな」
全ての監視魔法具を破壊してきたのだろう。ルーツエングとイールグが森の方からやってきた。
「ふにゅ。ルーにぃ、エレはやっぱり伝言言えないの。こういうのは自分で言うのがいいと思うの。悩みあるならちゃんとお話ししてだっけ? ちゃんと言うの」
エレシェフィールはイールグをフォルの前に連れてこようと瓦礫の山を歩こうとする。だが、すぐに瓦礫でつまづいて転びかけた。
「……ねぇ、注意力ないって言い訳が通る範囲じゃないから」
エレシェフィールが転ぶ前にフォルが腕を掴んで転び回避できた。エレシェフィールは瞳に涙を溜めてぷるぷると震えながらフォルの方を見た。
フォルの表情は穏やかだ。表情だけは。
「……結局こうなるか。まぁ、俺らにはこういうのがお似合いなんだろうな」
ゼーシェリオンがエレシェフィールの頭を撫でる。エレシェフィールはゼーシェリオンの手を掴んでもっともっとと要求している。ゼーシェリオンがエレシェフィールが満足するまでずっと頭を撫でてくれている。
「……お似合い、か。うん。そうだね」
「そうなの。エレらしく、楽観的でかわいらしく愛情いっぱいわいわい平和的なの。お悩み解決の後はそれがエレ達にお似合いなの」
エレシェフィールはゼーシェリオンの右手を持ち上げた。
わずかに残る記憶の断片。お似合いというゼーシェリオン達もその言葉は残っていたのだろう。
いつ、どこで、どうしてその言葉を言ったのか。それは覚えていない。
その言葉を言った時の表情も覚えてはいない。
『暗い時間はおしまい。そんなの僕ららしくないんだから。僕は……僕らは僕ららしく、楽観的でかわいいエレにらぶを与える存在として愛情いっぱい、わいわい平和的に、一緒にいるんだよ。それが、僕らにお似合いの振る舞い方だから』
エレシェフィール達は無意識にその言葉通りになっていた。三人で顔を見合わせて、くすりと笑う。
「なら、僕も僕らしくしよっかな。エレ、一緒に帰ろっか」
「ふぇ? 」
エレシェフィールは訳のわからないままフォルを見つめている。フォルがエレシェフィールの左手を握って転移魔法を使った。




