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梅はやっと気づいたのかうつむいていた顔をあげる。

「あれ、知り合いですか? すごく熱心にこちらを見てますけど」

「さぁねぇ。まぁ、知り合いだったらこちらにあんな濃い殺気は向けてこないと思うけどねぇ」

視界の先にいるのは男性のようだった。

細くしなやかそうな体躯。美麗な顔立ち。さながらその立ち居振舞いは貴公子のようだ。腰には刀の柄を吊っている。

「なぁ、唐突だが何で俺が面をつけるかわかるか?」

晃は腰から鬼の面を外し、手で弄びながら梅に声をかける。

梅は目の前に殺気を放っている男がいることも忘れて真剣に考え込む。相手もすぐに攻撃してこないところを見るに話が終わるぐらいまでは待つつもりらしい。

「わからないです」

梅は頭から湯気がでるのではないかというぐらいに必死に考えていたが、結局答えはでなかったらしくションボリとしている。

そのションボリ顔を少し微笑ましい気持ちで眺めたあとに晃は口を開いた。

「まぁ、色々とあるんだけどね? 顔を見られないためだよ」

「顔を見られないため・・・・・・ですか?」

「そう。理由は簡単。保険のためだ。今後のためって言い換えても良いかもしれない」

晃はそこで言葉を区切ると梅に視線を向けた。梅は頭が弱いのでここまでの話についてこれているか多少心配だったからだ。

その心配は意味がなかったようで、梅は興味深そうな顔をしながらこちらに視線で続きを促している。

「ま、長々と説明すんのがだるいから端的に説明する。顔を隠すってことは相手からの襲撃を押さえることになる。だが、あいつの顔を見てみろ」

晃は手の動きで梅の視線を誘導する。誘導した先には名も知らぬ男がいた。

その男の顔には何もついていなかった。

「ま、要するにだね。顔を隠さない襲撃者なんてのは腕に自身のある化け物ってことなんだよ。確実にこの場で仕留められるからあとのことを心配しなくて良いんだね」

晃は顔に面をはめつつそう締め括った。

ここまで話せばいくら頭の弱い梅にも理解ができただろう。

視線の先にいる男は尋常でない武力を持っていることを。晃は相手を睨み付けながら腰を落とす。

相手の動きに気を配ってみていると、相手の姿が陽炎のようにかき消える。

「えっ、消え・・・・・・」

「上だ」

晃は梅の頭をつかみ、そのまま後ろにステップする。

一瞬前まで梅の頭があった位置に大上段からに本当が降り下ろされる。あと本の少しでも動きが遅かったら梅は死んでいただろう。

その降り下ろされた日本刀には見覚えがあった。

「あれは・・・・・・アメノハバキリか?」

「・・・・・・・・・・・・」

晃の言葉が聞こえていないのか意図して無視しているのかの判別はつかないが、アメノハバキリは口をつぐんでいる。

問答無用で日本刀をこちらに振り回してくる。晃は梅に避けきれるとも思ってはいないので、途中からは梅をお姫様だっこしながら避けていた。

「おい、お前の目的はなんだ?」

駄目元で男に襲撃した意図を問うと、アメノハバキリは動きを止め、口を開いた。

「・・・・・・俺に与えられた命令は建御雷(タケミカヅチ)火之迦具土(ヒノカグヅチ)の抹殺だ」

「へぇ、上もやっと思い腰を上げたか。意外に早かったな」

「・・・・・・タケミカヅチの反乱はもう疑う余地なし。早急に討滅すべし」

「って、上が言ったわけだ」

「・・・・・・(コクリ)」

晃はその返答に面の下で口角をあげ、表情を歪める。だが、すぐに表情を戻す。

二人は会話している間も少しも気を緩めていない。会話をしている間でも相手に隙ができたら即首を刈ろうとどちらも思っていたが、その企みは空振りに終わった。

そんな緊迫した空気の晃の後ろで梅だけが空気を読まずにのんきに首を捻っている。

「・・・・・・あの、先輩」

「なに?」

相手から一瞬たりとも意識をはずさずに梅の声に答える。

「さっき言ってたタケミカヅチとかヒノカグヅチとかって何なんですか?」

「あれは軍がつけた一先ずの呼び名みてぇなもんだよ。タケミカヅチが俺、ヒノカグヅチがお前だ」

「え、今先輩、軍って言いませんでしたか?」

「? 言ったよ?」

「軍って、あの軍ですか?」

「どの軍かは知らんが、大体お前の想像であってると思うよ」

「それは・・・・・・先輩は軍の関係者ということですか?」

梅の声は微かに震えていた。

それもそうだろう。異能者とって軍というのはそれほどのビックネームなのだ。

化け物の中で軍というのは嫌悪と畏怖の対象としてみられている。

軍は自らに逆らう者や意にそぐわない者には容赦をせずに危害を加える。そんなことをしていたらすぐにでも手を組んだ他の化け物たち反撃されて壊滅すると思うだろう。だが、軍は今もその強権を振りかざす。

そんなことができるのは何故か? 簡単だ。反撃にきたとしてもそれを難なく退けられる程度の武力を軍が所持しているからだ。その武力というのも近代兵器ではなく化け物なのが皮肉だが。

「あぁ、そうだよ。俺は一応軍属だぜ」

晃は梅の問いに事も無げに答えた。晃にとっては特に興味もなくどうでも良いことなのかもしれないが、梅には大きな衝撃を与えた。

何故なら、梅はある噂を耳にしたことがあるからだ。

曰く、この町にいる軍に所属している神染者は夜な夜な出歩き狩りの相手を探していると。その神染者にあったが最後、もう朝日は拝めないという。

梅はあまりにも気づくのが遅すぎた。あのときにもっと考えるべきだったのだ。目の前にいる先輩が噂の神染者であった可能性を。

だが、梅の心には衝撃に隠れて見えづらいがもう一つの疑問が浮かび上がっていた。その疑問とは、何故、晃は自分を襲わなかったのか、だ。

噂を信じるならばその神染者は一切の躊躇をしないだろう。だというのに晃は今をもって梅にたいして一度も殺意を向けていなかった。その疑問を梅が考えているうちに晃はアメノハバキリに視線を移していた。

「ま、ごたくはいいわ。お前は俺たちを消しにきた。俺たちはお前に消されるわけにはいかない。ならすることは一つだろ」

そう言いつつ晃はまとう空気を変えた。今までは湖の湖面を思わせるような静やかな気配だった。その気配を消したあとに表出したのは火山の噴火を思わせるほどの爆発的な量の殺気だった。

その殺気を間近で浴びた梅は思考を強制的に中断され、体が意思に反して震えだす。殺気に誘発されたのか梅の腕には炎が炊かれている。

「なぁ、アメノハバキリ。今においては言葉など不要だろうよ。そんなものはもう無駄だろう。俺たちは化け物らしく武骨者らしく拳で語り合おうや」


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