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今日の空には所々に雲が浮かんでいる。その雲間から時折顔を出す月は今日も暗い足元を照らしてくれていた。
そんな天気のせいか町全体の空気が少しよどんでいる気がするのはきっと気のせいではないだろう。
そんなパッとしない空気の中で晃たちは今日も歩いていた。
「ふぅ、今日は体が軽いぜ」
「・・・・・・それは良かったですね」
「どうした? テンション低いな」
「いえ、何でもないです」
何でもないようには見えないのだが、本人が何でもないと言うのならそちらを信じることにしよう。
梅のこの調子はさっきの部活からだった。晃が久しぶりの深い睡眠から目覚めると梅は意気消沈して人生ゲームの盤を眺めており、美咲は優雅に本を読んでいた。
晃が寝ている間に何があったのか? それを晃に知るすべなはなかった。もっと言ってしまえば興味もなかった。
だから、早々に話題を変えることにした。
「放課後寝たお陰で多少回復したとはいえ、今日は疲れたな」
「そうみたいでしたね。何か日中にあったんですか?」
「あったって言うか、何か今日一日誰かに見られてたっぽいのよな。そのせいで一日気ぃ張ってたから肩が凝っちまってな」
「あ、それ私もでした。なんだか知らないけど一日誰かに観察されてたみたいで気持ち悪かったです」
梅も晃の意見に同調するように頷く。
晃と梅の教室は階が違うので二人を同時に見ることは不可能のはずだ。
ふと、そんなときに晃の心に一つの期待が生まれた。
今まで蒔いてきた種の芽がやっと出てきたのかと。
その思いから生じたわくわくを心の中に沈めて努めて平静な表情を作る。これがぬか喜びだったときのために予防線を心のうちに何本か張っておく。これで期待に裏切られたときでもそこまで悲観せずにいられるだろう。
「お前もなんてな。俺と違ってお前は何かしたんじゃねえの? 誰か異性にでもコクられて完膚なきまでに振ったとかさ」
そんな晃の冗談に梅は苦笑し、首を横に振る。
「あはは。そうだったら面白いんですけどね。まず私は告白なんてされませんよ。私はあんまり可愛くありませんから」
「ん? お前は十分かわいいと思うぞ? まぁ、俺の主観だが」
「そ、そんなぁ。褒めても何も出ませんよ?」
「褒めたつもりはないんだがな」
晃の発言に梅は頬を染めている。
その姿を見て晃は首を捻っている。晃は人を誉められるほど他人に興味がないし、気が利かない。だから、晃の口から漏れた言葉はほとんどが本気の発言だ。
照れて言葉数の少なくなってしまった梅とならんで夜道を歩いていく。大分歩いてきたのか最初の頃にいた住宅街とはうってかわって少し開けた場所にいた。田舎なのでこういう土地のデッドスペースが色々な場所にあるのだ。
その空き地の中央付近に人影を見つけた。
その人影は明らかに晃たちに向かって敵意と殺意を向けている。
その感じは今日の日中に感じていたものとほぼ同じだった。
相手の姿を見て晃の口角は自然と上がっていった。
さぁ、狩りの時間だ。
と言っても狩られるのがどちらかはわからんがね。




