EP 5
青き天幕と危険物の山、限界集落のゴミ拾い
大鍋いっぱいに作られた肉椎茸のスープは、絶品だった。
肉厚なキノコから溢れ出す、まるで高級和牛のような濃厚な脂の甘みと旨味。それを温かいパンと共に胃袋に流し込むと、前日の激務と理不尽なタックルでボロボロだった吾妻の身体に、じんわりと活力が戻ってくるのを感じた。
「アズマ殿、昨日はすまなかった。そして、見事な清掃の手際だった」
「神様! 今日もご飯が美味しいですわ!」
申し訳なさそうにするマンミアと、パンの耳を後生大事に齧りながら満面の笑みを浮かべるリーザ。村の主婦たちからも「あんた、ただの難民じゃないね!」と背中をバンバン叩かれ、吾妻の村での立ち位置は「謎の凄腕清掃員(居候)」として早くも確立されつつあった。
朝食を終えた後、マンミアが深刻な顔で吾妻を村の入り口付近の外れへ案内した。
「実は、貴殿のその不思議な力で、どうにかできないかと悩んでいる場所があってな」
そこは、ぽっかりと開けた荒れ地だった。
だが、吾妻は足を踏み入れた瞬間に思わず鼻を覆った。ツンとした刺激臭と、むせ返るような腐敗臭が漂っている。
荒れ地の中心には、見上げるような高さの「ゴミの山」が築かれていた。
「なんだ、この不法投棄の山は……」
「村が三大国の国境の緩衝地帯にあるせいだ。各国の国境警備隊が討伐した巨大な魔獣の骨や、得体の知れない魔導具の破片、それに瘴気を放つ魔石などを、勝手にここまで運んで捨てていくのだ」
マンミアが忌々しそうに吐き捨てる。
「ポポロ村の自警団や農夫の力では、骨が硬すぎて砕くこともできず、通常の火魔法でも燃えない。放置すれば瘴気で土壌が汚染されるし、子供たちが近づけば危険だ。どうにかして片付けたいのだが、我々の手には余ってしまって……」
前職のホームセンターで、駐車場の片隅に悪質な産業廃棄物を不法投棄されて頭を抱えた記憶が、吾妻の脳裏にフラッシュバックした。
(どんな世界でも、ゴミの処理を他人に押し付けるクソ野郎はいるんだな)
便利屋の主任として、数々のゴミ屋敷清掃や産廃処理の現場を仕切ってきた吾妻の「現場魂」に火がついた。
「分かりました。俺に任せてください。現場の基本は、まず養生と分別の徹底からです」
吾妻は脳内の『生活改善カタログ』を開いた。
画面の端に、昨日までは気づかなかった『不要品回収・リサイクル(下取り)』というタブがある。説明を読むと、「規定の袋や指定範囲に収めた不要品は、カタログが回収し、状態に応じてCPに変換する」と書かれていた。
(なるほど、いらなくなったものを下取りしてポイント還元してくれるのか。ありがたい機能だ)
現在の残高は59CP。
吾妻は15CPを消費し、虚空から二つの資材を取り出した。
「マンミアさん、リーザさん。少し下がっていてください」
バサッ!
吾妻が広げたのは、縦横五メートルを超える巨大な空色のシートだった。
「なっ……なんだその巨大な天幕は!? これほど薄く、それでいて一切の魔力を通さぬような滑らかな素材……!」
「これは『超厚手UVブルーシート(#3000)』です。ポリエチレン製で水も汚れも通しません。まずはこいつを敷いて、汚染された土と、これから作業する仮置き場を完全に区切ります」
吾妻は手慣れた手つきでブルーシートを地面に広げ、四隅を石で固定した。
「次に、こいつの出番です」
吾妻が取り出したのは、黒色の丈夫そうな袋の束だった。
「『耐候性大型土嚢袋』です。紫外線劣化防止剤が入った特殊な繊維で編み込まれていて、中に刃物のように鋭い魔獣の骨や、重い石を入れても簡単には破れません」
「凄いですわ! 私、ゴミ拾いと空き缶集めには自信がありますの! 手伝いますわ!」
なぜ絶世の美少女がゴミ拾いに自信を持っているのかは謎だったが、リーザが元気よく土嚢袋の口を広げてくれた。
吾妻はマンミアにも手伝ってもらいながら、山積みになった危険物を次々と土嚢袋へ放り込んでいく。
奇妙な金属片、紫色の液体がこびりついた甲殻、禍々しい光を放つ黒い石。
ホームセンターの土嚢袋は、マンミアが「素手で触れれば呪われるぞ!」と警告するような不気味な残骸を、何事もなかったかのようにすっぽりと飲み込んでいった。
「よし、こんなもんか。それじゃあ、回収(下取り)に出します」
ブルーシートの上に並べられた数十個のパンパンに膨らんだ土嚢袋。
吾妻がカタログの『回収ボックス』の実行ボタンを押した、その瞬間だった。
空間がグニャリと歪み、ブルーシートの上にあった土嚢袋の山が、まるでブラックホールに吸い込まれるように「ポンッ」という軽い音とともに消滅したのだ。
「消えた……!? あれほどの質量を持った魔獣の骨や呪物が、跡形もなく……!」
マンミアが盾を取り落としそうになるほど驚愕し、リーザが「アズマ様はやっぱり神様ですわぁ!」と拍手喝采を送る。
――この時、東吾妻は知る由もなかった。
彼が「燃えないゴミ」として手当たり次第に土嚢袋へ放り込んだ残骸の中に、何が紛れ込んでいたのかを。
そこには、かつてマンルシア大陸を滅亡寸前まで追い込んだ深淵の群体知性『死蟲王サルバロス』の端末機の腐敗甲殻や、古代大戦の折に撃ち込まれた神話級の呪詛兵器のコアがゴロゴロと混ざっていたのだ。
それらは大宇宙管理局ですら処理に手を焼く代物であり、通常の魔法火炎では決して焼却できず、数百年かけて大地を蝕むはずの「特級危険物」であった。
だが、大宇宙管理局のシステムと直結したカタログの『回収ボックス』は、それらすべてを「ただの産廃(下取り品)」として因果の彼方へ容赦なく消去・還元してしまったのである。
結果として、彼が知らぬ間に、大陸の中央部は取り返しのつかない瘴気の汚染から救われたのだった。
すべてが片付いた爽やかな風が吹き抜ける中、吾妻の脳内に、かつてない大音量の電子音が鳴り響いた。
『ピンポンパンポーン♪ 特級指定危険物および神話級残骸の一括下取りを完了しました! 大規模な環境浄化ボーナスとして、50,000 CPを獲得しました!!』
(……は? ごまん?)
『なお、ルチアナ様は神界のパチンコ新台『CR聖獣機神ガオガオン』で天井まで回して大爆死し、現在オリン様の執務室で正座しながらギャン泣き中でーす♪』
「いや桁がおかしいだろ!? あと神様がパチンコで爆死すんな!!」
突如として残高が「50,044 CP」というインフレを起こしたカタログ画面と、ポンコツすぎる女神の近況報告に、吾妻の魂のツッコミがポポロ村の青空へ虚しくこだまするのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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