EP 48
高圧水流の魔導銃(洗浄機)と、便利屋アズマの新たな朝
古代巨竜討伐の祝勝会から数日後。
秋晴れの心地よい日差しが差し込む『便利屋アズマ』の新拠点――その広大な中庭には、朝から威勢の良い水飛沫と、乾いたコンクリートを叩くような小気味よい音が響き渡っていた。
「シャーーーッ!!」
アズマが両手で構えた黒いピストル型のノズルから、目に見えないほどの超高速の円錐水流が噴き出す。
数年前から放置され、黒ずんだ苔や泥汚れ、鳥の糞がこびりついていた石畳の隙間にその水流が触れた瞬間、頑固な汚れがまるでチョコレートの溶けるようにみるみる剥がれ落ち、下から白く輝く本来の石肌が鮮やかに蘇っていった。
「す、凄いですわアズマ様!あんなに黒ずんで諦めていた石畳が、一瞬で新品みたいに真っ白になっていますの!」
中庭の縁側に腰掛け、綺麗になった地面を眺めながらリーザがパチパチと手を叩いて歓声を上げる。
「ええ。昨日の宴会で汚れてしまった中庭と倉庫の床を、一日でピカピカに磨き上げてしまいましたね」
キャルルも手首に結ばれた真紅と純白の水引を揺らしながら、感心したように微笑んだ。
アズマの胸元からは、お馴染みとなったポポ丸がひょっこりと顔を出し、「みゅぅ〜!」と水飛沫に向けて小さな前足をちょっかいを出している。
(さて、この『コードレス高圧洗浄機』の威力は申し分ないな)
アズマはトリガーを離し、コンセントも水道の蛇口もないのに動き続けるその道具に満足した視線を向けた。
前世のホームセンターでも、大掃除の季節になると飛ぶように売れていた人気商品だ。大容量のリチウムイオンバッテリーと、自吸式の給水ホースを備え、バケツ一杯の水さえあればどこでも高圧洗浄を行える。
新しい拠点の大規模な大掃除を始めるには、これ以上ない相棒だった。
「よし、倉庫の中も一気に洗い流すぞ!」
アズマが気合を入れ直したその時、表の通りからトコトコと軽やかな蹄の音が聞こえてきた。
そして、新しくニャングルに作ってもらったばかりの『便利屋アズマ』の金文字看板の前で、ピタリと足音が止まる。
「ごめんくださいまし!――朝早くから、なんだか賑やかな音が聞こえていましたけれど……」
開け放たれた門扉から顔をのぞかせたのは、上品な薄紫色のローブを纏い、上品に整えられた亜麻色の髪を揺らす一人の女性だった。
年は二十代半ばほど。知性的で穏やかな笑みを浮かべているが、その目元にはどこか旅の疲れと、切実な悩みを抱えたような影が滲んでいる。
「おや、お客さんか」
アズマは高圧洗浄機の電源を切り、タオルで額の汗を拭いながら前に歩み出た。
「いらっしゃいませ。『便利屋アズマ』です。……何かお困りですか?」
女性はアズマの作業着姿と、その頭にちょこんと乗った黄色いヘルメットをジッと見つめ、少しだけ驚いたように目を丸くした。
「あなたが……噂の、あの古代巨竜を討ち取ったという便利屋の……?」
「あ、いや、竜はたまたま偶然手札の相性が良かっただけで、本業はただの便利屋ですから。で、一体どんなご依頼で?」
アズマが苦笑しながら尋ねると、女性はふっと息をつき、真剣な眼差しで頭を下げた。
「失礼いたしました。私は、帝都の王立博物学会から派遣されてまいりました、歴史民俗学者のルミアと申します。……実は、どうしてもアズマ様のお力をお借りしたい『奇妙な依頼』があって、ここまで参りましたの」
ルミアと名乗った学者女性の言葉に、キャルルとリーザもスッと表情を引き締め、アズマの背後へと歩み寄ってきた。
新拠点の開拓と掃除を終えたばかりの便利屋に舞い込んだ、新たな依頼。
それは、大陸の歴史の裏側に隠された、かつてない謎とトラブルの幕開けを告げるものだった――。
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