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理不尽転生!ハズレ能力【生活改善カタログ】の日用品で限界農村から建国王へ成り上がる件  作者: 月神世一


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EP 47

 香りの霧の祝福(アロマ加湿器)と、大賑わいの婚約披露宴

 白金貨二十枚を投じて正式に買い取った広大な敷地と中庭は、数日前までの雑草が生い茂る寂れた空き地から、見違えるほど華やかなパーティー会場へと変貌を遂げた。

 城塞都市の住民たちや辺境軍閥の兵士たち、そしてポポロ村から駆けつけた村人たちまでが総出で飾り付けを手伝い、中庭のあちこちに色鮮やかな花々と手作りの提灯が下げられている。

 中央には巨大な長机が並べられ、フォレストボアの丸焼きや、大鍋で煮込まれた濃厚なシチュー、そして山盛りの果物が所狭しと並んでいた。

「アズマ様、見てくださいまし! 門のところに飾る特製の看板、ニャングルさんがめちゃくちゃ豪華な金文字で作ってくれましたの!」

 小豆色のジャージの上にエプロンを重ね、頭に小さなリボンをつけたリーザが、興奮した様子で中庭を駆け回る。

「本当だな。……しかし、これだけの人数が集まると、さすがに熱気と埃で空気がどんよりしてくるな」

 パーティーの開宴を間近に控え、アズマは額の汗を拭いながら周囲を見回した。

 屈強な戦士たちが密集していることもあり、中庭の一帯は酒や肉の匂い、そして男たちの汗と埃が混ざり合い、少し息苦しい空気が漂い始めていた。

「アズマさん、お酒や料理の準備は万端ですが……確かに、お祭り騒ぎの熱気で少し空気が重いですね。ごった返す人混みで、皆の緊張や興奮がピリピリと伝わってきます」

 手首にしっかりと真紅と純白の『紅白絹巻水引飾り』を結んだキャルルが、心配そうに眉をひそめた。

(人が集まるお祭りや宴会の現場で、空気が重くなるのはお決まりのトラブルだ。……よし、こういう時こそ『場の空気そのものをデザインする』現代の知恵を借りるか)

 アズマは脳内の『生活改善カタログ』を開いた。

 家電・リラクゼーションカテゴリー。

(消費は3CP。残高は50,242CPだ)

 虚空からふわりと現れたのは、丸みを帯びた白亜の陶器のようなボディを持つ、スタイリッシュな円筒形の器械だった。

 側面の透明な小窓からは、淡いオレンジ色の柔らかなLEDランプの光が漏れ出している。

「アズマさん、それはまた……壺の形をした奇妙な魔導具ですか?」

 キャルルが不思議そうにその器械を覗き込む。

「『超音波式アロマ加湿器』だ。中に綺麗な水と、ハーブから抽出した特製のアロマネロオイルを数滴垂らすだけで、空間の雰囲気を一瞬で変えてくれる優れものさ」

 アズマは加湿器のタンクに水を満たし、カモミールとユーカリをブレンドしたオイルを垂らして電源を入れた。

 熱を加える古い蒸気式とは違い、内部の超音波振動子が水分子を微細なミストへと分子レベルで細分化する。

 ――シュウゥゥゥ……。

 本体の上部にある噴霧口から、音もなく静かに、まるで朝霧のようにきめ細やかな白い冷気のミストが、ふんわりと立ち上った。

 その瞬間だった。

「あっ……!」

 近くに立っていたリーザが、思わず息を呑んで立ち止まった。

「ミストが触れた途端、お肉や汗の匂いがスーッと消えて……代わりに、森の奥の朝露のような、甘く優しいハーブの香りが辺り一面に広がっていきますわ……!」

「本当だ……。鼻の奥の緊張がほぐれて、頭の中がすごくクリアになるような、不思議な心地よさがあります」

 キャルルも目を細め、深く息を吸い込んだ。

「超音波の微細なミストが、空気中の埃や微粒子を水分と一緒に地面へと叩き落とす(空中洗浄)。さらに、植物由来の芳香分子(アロマ)が嗅覚を刺激して、人間の脳波をリラックス状態へ導くんだ」

 アズマが説明すると、通りかかったガストン司令官が、むぐっと鼻を鳴らして足を止めた。

「むっ……!? なんだこの洗練された香りは! 戦場の泥臭さが一瞬で吹き飛び、まるで貴族の最高級サロンにでも招かれたような心地よさだぞ、アズマ!」

「おっ、ガストンさん。どうぞ、一番前の席に座ってください」

 ガストンの声を合図に、いよいよ『便利屋アズマ・新拠点拡張&竜討伐&婚約披露の合同大祝賀会』が盛大に幕を開けた。

「みなの者! 城塞都市を救い、我が軍閥の誇りを守ってくれた英雄、そして我が盟友であるアズマ殿と、その伴侶となるキャルル殿、リーザ殿の門出に――乾杯ッ!!」

「「「カンパァァァァァイッ!!」」」

 ガストンの音頭に合わせて、数百人もの人びとが一斉にジョッキやグラスを掲げた。

 中庭のあちこちで歓声が上がり、音楽隊の奏でる賑やかな弦楽器の音が夜空に響き渡る。

 アズマの足元では、ポポ丸がご馳走の匂いに釣られてチョコチョコと駆け回り、兵士たちから「おいおい、この可愛い毛玉は何だ」「触ってもいいのか?」と大人気になっていた。

「アズマさん、おめでとうございます!」

 冒険者ギルドの面々や、ラト村の村長が次々と祝いの言葉を述べにやってくる。

 アズマは第44話で作った『極薄吹きクリスタルタンブラー』に冷えた果実酒を注ぎ、訪れる人々と笑顔でグラスを交わした。

 チリィィン……と、心地よい鈴の音がパーティー会場のあちこちで重なり合う。

 アロマ加湿器から途切れることなく立ち上る白銀のミストは、心地よいハーブの香りを纏いながら、宴会の熱気で火照った人々の肌を優しくクールダウンしていく。

 普段は殺伐とした魔獣との戦いに明け暮れる兵士たちも、この香りと穏やかな空間に包まれることで、荒々しい気性が嘘のように和らぎ、心から笑顔で杯を交わしていた。

「なんだか、夢を見ているみたいです……」

 キャルルがアズマの隣に寄り添い、グラスを見つめながらぽつりと呟いた。

「あんなに恐ろしい古代巨竜と戦っていたのが、まるで遠い昔の出来事のようです。こうしてたくさんの人に祝福されて、私……今、世界で一番幸せです」

「私もですわ、アズマ様。……あ、ほら、皆さんが私たちのために歌を歌い始めましたよ!」

 リーザが嬉しそうに指を差す。

 酔った兵士たちや村人たちが輪を作り、楽しそうに手拍子を叩きながら、異世界の伝統的な祝福の歌を歌い始めた。

 その温かな輪の中心で、アズマは手首に結ばれた水引の感触を確かめながら、二人を優しく抱き寄せた。

『ピンポンパンポーン♪ 超音波の微細ミストとアロマの芳香結界で宴会の空気を完璧に支配し、住民たちの心を最高潮に癒やした空間デザインの天才的善行ボーナスで、30CPを獲得しました! なお、ルチアナ様は神界公民館のタワシ磨きで「歴代最高峰の光沢を放つ便器」を生み出した功績が認められ、ついに下界への出張権(ただし期間限定・監視付き)を勝ち取り、現在アズマたちの頭上に開いた時空の裂け目から「私もその鍋の肉を一口分けなさいよぉぉっ!」と叫びながら乱入しようとして、監視の天使に羽交い締めされて強制送還されていまーす♪』

(神様、まさかの下界復帰寸前で自業自得の強制送還されてるよ……!)

 脳内で響く、相変わらず全力で自爆街道を爆走し続けるポンコツ元女神のドタバタ劇に盛大に心の中でツッコミを入れつつ、アズマの残高は50,272CPとなった。

 夜更けまで続いた宴の喧騒は、心地よい音楽とハーブの香りに包まれながら、やがて穏やかな静けさへと溶けていった。

 新しく手に入れた広大な敷地。

 絶えない仲間たちの笑い声。

 そして、生涯を共に誓った愛しい二人の伴侶。

 元の世界での日々に別れを告げ、この異世界でゼロから築き上げた『便利屋』の城は、満天の星空の下、明日へ向けて確かな温もりと希望の光を放ち続けていたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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