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理不尽転生!ハズレ能力【生活改善カタログ】の日用品で限界農村から建国王へ成り上がる件  作者: 月神世一


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EP 41

 青き炎の魔導炉(カセットコンロ)と、凱旋の熱々鍋料理

 大防衛戦の熱狂と土煙がようやく落ち着いた、その日の夜。

 城塞都市の南門は歓喜に沸き返り、軍閥の兵士たちにはガストン司令官から特別手当と極上の酒が振る舞われていた。

 一方、勝利の最大の立役者であるアズマたちは、大通りの喧騒から離れた路地裏――自分たちの城である『便利屋アズマ』の店舗兼住居へと戻っていた。

「はぁ〜……生きて帰ってこられましたわ……。もう全身バキバキで、一歩も動けませんの……」

 泥だらけの小豆色ジャージ姿のまま、リーザが新調した木の床の上に大の字になってへたり込む。

「リーザちゃん、床が泥だらけになりますよ。……と言いたいところですが、私も指一本動かしたくないくらいです」

 キャルルも壁に背中を預け、長いウサギ耳をぐったりと垂らしていた。120馬力の全身全霊で放った『破山穿孔撃』の反動は凄まじく、彼女の細い腕は小刻みに震えている。

 アズマの胸ポケットからは、ポポ丸がひょっこりと顔を出し、心配そうに二人の顔を見つめていた。

「みゅぅ……」

「二人とも、本当によくやってくれたよ。怪我はないか?」

 アズマがヘルメットを脱ぎ、タオルで汗を拭いながら声をかける。

「擦り傷程度です。それよりもアズマさん……お腹が、背中とくっつきそうです」

「ぐぅぅ〜……」と、キャルルのお腹が盛大な音を立てて鳴った。

「私なんて、もう胃袋が消滅しそうですわ! アズマ様、何か温かいものを……美味しいものを恵んでくださいまし……!」

 リーザが涙目でアズマの足首にすがりついてくる。

 厨房のかまどに薪をくべ、火を起こして湯を沸かす。

 普段ならそうするところだが、激闘を終えて極限まで疲弊した身体には、その初動の作業すら果てしなく重労働だった。

(薪割りも火起こしもやってられないな。……よし、今夜はとことん文明の利器に甘えよう)

 アズマは脳内の『生活改善カタログ』を開いた。

(厨房・アウトドア調理カテゴリー。消費は5CP。残高は50,190CP)

 虚空から取り出したのは、薄型の長方形をした金属製の器具と、缶ジュースほどの大きさの細長いボンベ三本だった。

「アズマさん、それは……?」

「『薄型卓上カセットコンロ』と、『専用カセットガスボンベ』だ。火起こしの手間ゼロで、テーブルの上ですぐに強火が使える優れものさ」

 アズマはコンロのサイドカバーを開け、ガスボンベの切り欠きを器具のマグネット受動部に合わせ、カチッと押し込んだ。

 そして、床の真ん中に置いた頑丈なローテーブルの上にコンロを据え付ける。

「いくぞ」

 アズマがつまみを『点火』の位置までカチリと回した。

 パチッ、ボッ!

「「ひゃあっ!?」」

 火打石も薪も使っていないのに、円形のバーナーヘッドから、目にも鮮やかな『青い炎』が勢いよく立ち上がった。

 息を呑むキャルルとリーザ。

「な、なんですのこれ!? 筒をはめてツマミを捻っただけで、完璧な炎が出現しましたわ!?」

「しかも、煙が全く出ていません……! 炭の火とも、松明の火とも違う、完全に澄み切った青い炎……!」

「液化ブタンガスを気化させて、空気中の酸素と理想的な比率で混合して燃焼させているんだ」

 アズマがつまみを少し戻し、火力を調節してみせる。

「だから不完全燃焼の煙もススも出ない。ツマミ一つで弱火から強火まで自由自在だ。薪の火加減を見る必要もないから、座ったまま目の前で熱々の料理を作り続けられる」

「座ったまま……目の前で……!」

 二人の瞳が、救世主を見るかのように輝いた。

 アズマはコンロの上に大きな土鍋を乗せ、昼間にニャングルの商会から差し入れとして届いていた最高級の食材を惜しげもなく投入した。

 フォレストボアの極上バラ肉、甘みの強い大振りの白ネギ、シャキシャキの山菜、そして肉厚の椎茸に似た黒キノコ。

 ベースの出汁には、第35話で大好評だった『粉末うどんスープの素』を贅沢に溶かし込み、隠し味に醤油の粉末を少し足す。

 強烈な火力を受けて、土鍋の出汁があっという間にボコボコと沸騰し始めた。

 グツグツ、グツグツ……。

 澄み切った鰹と昆布の和風出汁の香りに、新鮮な豚肉の甘い脂とネギの芳香が溶け合い、疲れた神経を優しく包み込むような至高の湯気が部屋いっぱいに充満していく。

「みゅ〜ん……♪」

 匂いに誘われたポポ丸が、アズマの胸元から抜け出し、テーブルの端で小さな前足を揃えてお行儀よく座った。

「はいはい、ポポ丸にはこれな」

 アズマはポポ丸専用の小皿に『犬猫用ピューレ状おやつ』を絞り出してやる。ポポ丸は「みゃう!」と歓喜の声を上げ、猛烈な勢いでペロペロと舐め始めた。

「さあ、煮えたぞ。二人とも、小鉢に取って食べてくれ」

「「いただきまぁぁぁすっ!!」」

 二人は待ちきれないとばかりに、湯気を立てる豚肉とネギ、そして熱々のスープを木製の小鉢にすくい、フーフーと息を吹きかけて口に運んだ。

 ハフッ、ハフッ……ジュワァッ。

「んんんんんんっっっ……!!!」

 一口食べた瞬間、リーザが両手で頬を押さえ、あまりの幸福感に身悶えした。

「お肉が……お肉が口の中でとろけますわぁぁ……! 噛んだ瞬間に溢れ出すお肉の甘い脂が、あの琥珀色の神のスープを吸い込んで、喉を通るたびに五臓六腑に染み渡っていきますの……!」

「熱い……! 熱いのに、箸が止まりません!」

 キャルルもハフハフと息を吐きながら、夢中で野菜と肉を頬張っている。

「いつもなら、厨房から運んでくる間に少し冷めてしまうのに、この青き炎の魔導炉のおかげで、最後の一口まで生まれたての熱々です! 戦いで凍えそうだった身体の芯が、内側からポカポカと燃え上がってくるようです……!」

「だろ? 鍋料理ってのは、この『煮え立ちながら食う』のが一番美味いんだよ」

 アズマも小鉢にスープと肉を取り、フーフーと冷まして口に運んだ。

 鰹節の深い旨味。豚肉の野性味あふれるコク。クタクタに煮込まれたネギの自然な甘み。

 死線をくぐり抜けた後に仲間と囲む鍋は、どんな高級料亭のフルコースよりも身体に沁み渡った。冷たい水や泥にまみれた過酷な現場の記憶が、熱々のスープと共に胃の底へと溶けていく。

「アズマ様、締めですわ! ここに太麺を投入してくださいまし!」

「おう、任せろ」

 煮詰まって濃厚になった出汁に、茹でた太麺を投入する。旨味の全てを吸い込んだ麺を啜り上げ、三人は腹がはち切れるまで鍋を平らげた。

「ふぅぅ……。食べた、食べましたわ……。もうこのまま床で眠りたいですの……」

 腹をぽんぽこに膨らませたリーザが、幸せそうに目を細めてゴロリと横になる。

「お風呂に入ってから寝てくださいね……と言いたいですが、私も動けません……」

 キャルルも満腹の満足感に包まれ、ウサギ耳をパタパタと弱々しく揺らしながら微笑んでいた。

 激闘の後の、あたたかな団欒。

 便利な道具で生き残るだけでなく、こうして仲間たちと笑い合いながら、同じ鍋をつつく。

 それこそが、アズマにとって何物にも代えがたい「現場の報酬」だった。

『ピンポンパンポーン♪ 死線を共にした仲間たちに至高の温もりと団欒を提供し、チームの結束を極限まで高めた善行ボーナスで、25CPを獲得しました! なお、ルチアナ様は下水管を這いずり回った末に神界の高級住宅街のマンホールから奇跡の生還を果たしましたが、全身ヘドロまみれの姿を「下水道の生ける怨念」と誤認され、現在討伐隊の聖水一斉掃射を浴びて阿鼻叫喚のたうち回り中でーす♪』

(神様、いよいよ人間どころか魔獣扱いで退治されてるじゃねえか……!)

 相変わらず悲惨さの天井を突き破り続けるポンコツ女神の実況に、アズマは心の中で深いツッコミを入れつつ、残高が50,215CPへと増加したのを確認した。

 卓上のカセットコンロの火を止めると、小さな「カチッ」という音が静かな部屋に響いた。

 窓の外では、防衛戦の勝利を祝う街の明かりが遠くで優しく揺れている。

 未曾有の災厄を乗り越え、より一層固い絆で結ばれた便利屋アズマの夜は、満腹の幸福感と静かな安らぎに包まれながら、穏やかに更けていくのだった。

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