↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理不尽転生!ハズレ能力【生活改善カタログ】の日用品で限界農村から建国王へ成り上がる件  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/49

EP 3

 低反発クッションと腰痛持ちケンタウロス、居候の条件

 木造の壁に空いた人間大の穴から、朝の爽やかな陽光が差し込んでいる。

 村の広場の土の上で目を覚ました吾妻は、全身の骨が軋むような痛みに顔をしかめた。

「あ、アズマ様! お怪我はありませんか!?」

「う……どうにか生きてるよ……」

 駆け寄ってきたリーザの手を借りて身を起こすと、目の前には腕を組んで気まずそうに視線を逸らすケンタウロスの女性、マンミアが立っていた。

 彼女の背後にある破壊された壁を見れば、自分がどれほど理不尽なパワーで吹き飛ばされたかは一目瞭然だ。

「……その、なんだ。悪気はなかったのだ。貴様が乙女の禁忌である『25』という数字を口にするから、つい防衛本能が働いてしまってな……」

(どんな防衛本能だよ。軽自動車に撥ねられたくらいの衝撃だったぞ)

 吾妻は内心で盛大にツッコミを入れつつも、染み付いた「クレーム対応の基本」を無意識に発動させた。激昂した客、あるいは理不尽な上司を相手にする時は、まず相手の感情を受け止め、こちらの非を認めて空気を落ち着かせるのが鉄則である。

「いえ、俺の方こそデリカシーのない発言をして申し訳ありませんでした。マンミアさん、でしたね。村の治安を守るお仕事、毎日お疲れ様です」

 吾妻が深く頭を下げると、マンミアは馬の耳をピクッと動かし、毒気を抜かれたように目を丸くした。

「……妙な男だな。普通なら怒り狂うか、怯えて逃げ出すところだぞ」

「接客業の性分でして。それよりマンミアさん、右の腰のあたり……人間でいう腰椎の付け根と、前足の蹄の少し上あたり、かなり痛むんじゃないですか?」

「なっ……!?」

 マンミアが息を呑み、さっと自分の腰を庇うように手で隠した。

「な、なぜ分かった!? この痛みは、私が辺境騎士団長時代からひた隠しにしてきた古傷……!」

「立ち上がる時の重心のズレや、無意識に左側へ体重を逃がす癖を見ていれば分かりますよ。重い盾を持ちながら、人間の上半身と馬の下半身の繋ぎ目で衝撃を吸収し続けていれば、そこに凄まじい負担がかかるのは当然です」

 ホームセンターの副店長として、重いセメント袋や木材を毎日運んでいた吾妻にとって、スタッフの腰痛や関節痛のサインを見抜くのは日常茶飯事だった。

 痛みを堪えて強がる姿が、かつて一緒に働いていた年上のパート従業員と重なり、吾妻は放っておけなかった。

 脳内の『生活改善カタログ』を開き、該当カテゴリーから二つの商品を検索する。

(消費は合わせて6CP、か。残高は48CP)

 虚空に手をかざし、吾妻は実体化した二つの品をマンミアに差し出した。

「お詫びの印と言っては何ですが、これを使ってください。こっちの薄いシートは『温感湿布薬』。痛む腰の患部に直接貼ってください。俺は後ろを向いているので」

「し、湿布薬だと……? 神官の癒やしの護符のようなものか?」

 半信半疑のマンミアだったが、吾妻が背を向けている間に、甲冑の隙間からそっと湿布薬のフィルムを剥がし、腰の痛む部分に貼り付けた。

 ――数秒後。

「ひぃんっ!?」

 マンミアの口から、可愛らしい悲鳴が漏れた。

「な、なんだこれは!? 貼った部分がカーッと熱くなったかと思えば、患部の奥深くまで温かい波動が染み込んでいく……! 重く強張っていた筋肉が、嘘のようにほぐれていくぞ!?」

「唐辛子成分の温感刺激と、消炎鎮痛剤の効果ですよ。血行を良くして痛みの元を散らしているんです」

 ただの市販の温感サロンパス的な商品なのだが、異世界の住人にとっては未知の魔法のようだったらしい。

 さらに吾妻は、もう一つのアイテムを指し示した。

「こっちの四角いクッションは『低反発ジェルクッション』です。甲冑の腰当ての内側や、鞍の擦れる部分に挟んでみてください」

 言われるがまま、マンミアはハニカム構造の青いシリコン製クッションを腰の装甲の下へ挟み込んだ。

 そして軽くその場で足踏みをし、盾を構えてみる。

「こ、これは……ッ!!」

 マンミアの目が限界まで見開かれた。

「踏み込んだ時の衝撃が……消えた!? まるで極上のスライムを敷き詰めたかのように、私の超重量の反発を完全に無効化している……! これなら、あと百時間は連続で突撃ができるぞ!」

「いや、無理はしないでくださいね。あくまで負担を減らすだけですから」

 無重力空間にいるかのように、ぽよんぽよんとその場で跳ねるマンミア。その顔には、長年彼女を苦しめてきた激痛から解放された、純粋な歓喜の笑みが浮かんでいた。

 彼女はバッと吾妻に向き直り、勢いよく頭を下げた。

「すまなかった、アズマ殿! 貴殿は詐欺師などではない、超一流の癒やし手だ! この恩、辺境騎士団の誇りにかけて一生忘れない!」

「いえ、楽になったなら何よりです」

『ピンポンパンポーン♪ 限界オーバーのケンタウロスの背中を救済した善行ボーナスで、15CPを獲得しました! なお、ルチアナ様は神界通販で深夜のテンションでポチったワンダーな腹筋マシンが届き、置き場所に困って現在激しく後悔中でーす♪』

(だから、神様の無駄遣い情報をいちいち脳内に直接語りかけてくるな!)

 神界のポンコツ具合に呆れつつも、これで残高は63CP。消費した分以上にポイントが還元されたのはありがたかった。

「アズマ様はやっぱり神様ですわ! 私にも奇跡の甘い結晶を恵んでくださいましたし!」

 リーザがえっへんと胸を張る。マンミアは腕を組み、吾妻の顔をじっと見つめた。

「……貴殿、行く当てはないのだろう?」

「はい。見知らぬ土地に放り出されたばかりで、右も左も分かりません」

「ならば、このポポロ村に滞在することを私が許可しよう。村長は現在不在で、私が村の防衛と実務を取り仕切っているからな」

 マンミアは鋭い視線を向けたが、そこに先ほどの敵意はもうなかった。

「ただし、タダ飯を食わせるほどこの村に余裕はない。その奇跡の癒やしの力と知識で、村の役に立つことを証明してもらうぞ。それが、居候の条件だ」

「望むところです。働くことだけは、前職で嫌というほど仕込まれていますから」

 苦笑交じりに頷く吾妻。

 剣も魔法も持たない、元ホームセンター副店長の異世界サバイバルは、極貧のアイドル人魚と、腰痛持ちの不器用なケンタウロスという、奇妙な顔ぶれとともに幕を開けるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。