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理不尽転生!ハズレ能力【生活改善カタログ】の日用品で限界農村から建国王へ成り上がる件  作者: 月神世一


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EP 21

 虚無の器(消臭剤)と、異世界に残る地球の痕跡

 無傷のゴブリンを生け捕りにしたという前代未聞の戦果により、アズマたちはギルド内で一躍注目の的となっていた。

 規定の報酬を受け取った後、ギルドの裏手にある魔獣の解体場へと案内されたアズマだったが、そこに一歩足を踏み入れた瞬間、顔をしかめて鼻を覆った。

「うっ……! すごい臭いだな……」

「仕方ありませんよ。毎日何十頭もの魔獣の血抜きと内臓処理が行われているんですから」

 キャルルも顔をしかめ、リーザに至っては涙目で息を止めている。

 解体場には、むせ返るような血の生臭さと、内臓の発酵したような腐敗臭が充満していた。

 だが、アズマの目を釘付けにしたのは、悪臭よりもそこで働く解体職員たちの姿だった。

 筋肉隆々の職員が、大の男でも抱えきれないような巨大なロックボアの肋骨を、指先で「パキッ、バキバキッ」とポッキーでも折るかのように素手でへし折って解体しているのだ。

(……包丁やノコギリを使えよ! 解体業者までゴリラしかいないのかこの世界は!)

 異世界の一般ピーポーの異常な身体能力に、アズマは何度目か分からない魂のツッコミを入れた。

「それにしても、この臭いの中で一日中作業するのは過酷すぎるな」

 前職で、真夏のバックヤードの生ゴミ集積所の臭いに悩まされた記憶が蘇る。アズマは脳内の『生活改善カタログ』を開き、3CPを消費した。(残高は50,022CPだ)

 虚空から取り出したのは、巨大な透明のプラスチック容器。中には、無色透明のゼリー状の丸いビーズがぎっしりと詰まっている。

「アズマさん、それはなんです?」

「『大容量ビーズ消臭剤(無香空間)』だよ。ちょっとそこの風通しのいい角に置かせてもらうね」

 アズマが容器の蓋を開け、解体場の隅に設置した、数十秒後だった。

「……ん? おい、なんか急に臭いが消えなかったか?」

 骨を折っていた職員たちが、鼻をヒクつかせて顔を見合わせた。

 充満していたはずの暴力的な血の匂いと腐敗臭が、嘘のようにスッと消え去り、まるで森の中の澄んだ空気のように無臭化されていたのだ。

「信じられません……! 魔獣の体液から放たれる悪臭が、完全に消え去りましたわ!」

 キャルルがウサギ耳を揺らして驚愕する。

「香料で臭いを誤魔化しているわけじゃない。このビーズにはアミノ酸系の消臭成分が含まれていてね。悪臭の元となる分子と化学反応を起こして、別の臭わない成分に変化させているんだ。悪臭そのものを分解する『無香』の消臭剤さ」

 アズマが説明すると、解体職員たちがワナワナと震えながら消臭ビーズを囲んだ。

「悪臭の概念そのものを吸い込んで消滅させる、虚無の器だと……!? あんた、とんでもない聖遺物を持ってるんだな!」

 大騒ぎする職員たちに消臭剤の管理を任せ、アズマたちはそそくさと解体場を後にした。

 ❖❖❖

 初陣の祝勝会を兼ねて、三人はギルドに併設された大衆酒場へと足を運んだ。

 木の温もりが感じられる店内は、一仕事を終えた冒険者たちで賑わっていた。空いているテーブルに席を取ろうとしたアズマの足が、ふと止まった。

 店内の最も目立つ壁に、立派な金縁の額縁が飾られていたのだ。だが、その中身を見て、アズマは己の目を疑った。

「なんだあれ……。額縁の中に飾られてるの、小豆色の芋ジャージじゃないか?」

 しかも横には三本線が入った、田舎の中学生が着ていそうな絶望的にダサいジャージだ。さらにその隣には、『朝倉月人』と漢字で書かれたキラキラのアイドル応援うちわまで鎮座している。

 不思議に思って店主に尋ねると、店主は誇らしげに胸を張った。

「おお、気づいたか兄ちゃん! あれは百年前に、ルチアナ教の聖女様が地上へ降臨された際にお召しになっていた『神聖なる天衣』と、魔を祓う『聖なる団扇(うちわ)』のレプリカだ! 本物は帝都の大聖堂にあるが、これを飾ると商売繁盛の御利益があるんだぜ!」

(……あのポンコツ女神、金欠のあまり自分の古着と推し活グッズを『聖遺物』と称して下界の信者に売り飛ばしてたのかよ!!)

 異世界に残された地球の痕跡のあまりのしょうもなさに、アズマは頭痛を覚えてこめかみを押さえた。

「ああっ! あの聖衣、私がタローマートのワゴンセールで見つけて買った衣装と同じデザインですわ! やっぱり私、トップアイドルになる運命なんですのね!」

 小豆色ジャージ姿のリーザが、額縁の前で感激の涙を流している。アズマはもう、色々とツッコミを諦めることにした。

「さあさあ、難しい話は抜きにして、今日は祝勝会ですよ!」

 キャルルが上機嫌でメニューを頼み、やがてテーブルに豪勢な料理が運ばれてきた。

 メインは『シープピッグの炭火焼き鳥』と『ピラダイのフライ・特製マヨハーブ添え』だ。

 こんがりとキツネ色に焼き上げられた大ぶりの肉串からは、脂が炭に落ちてジュワッという食欲をそそる音と、スモーキーな香りが立ち上っている。

 アズマが串を手に取り、熱々の肉に噛みついた。

 サクッ。ジュワァァッ。

 表面の香ばしい焦げ目の中から、羊肉の深いコクと豚肉の強烈な甘みが混ざり合った肉汁が、口いっぱいに弾け飛んだ。

「う、美味い……!」

 アズマは感動で目を細めた。過酷な労働明けにコンビニの冷えたおにぎりを齧っていた前世からは、想像もつかない極上の味わいだ。

 続いて、黄金色の衣をまとったピラダイのフライを口に運ぶ。

 サクサクの衣を破ると、中からホクホクとした白身魚のふっくらとした食感が現れる。そこに、付け合わせの爽やかな酸味を持つマヨ・ハーブが絡み合い、油のくどさを完全に中和していた。

「ん〜〜っ! サクサクでホクホクですわぁ! こんなに美味しいお肉とお魚を毎日食べられるなんて、生きてて良かったですわ!」

 リーザが両頬をパンパンに膨らませ、幸せそうに尻尾を振るような勢いで肉を頬張っている。

「ふふっ、二人ともいい食べっぷりですね。ほら、私の分も少しあげますよ」

 キャルルが優しく微笑みながら、自分の皿のフライをアズマの皿に取り分けてくれた。

 冷たい果実水で喉を潤しながら、三人は今日の戦果とこれからの目標について語り合った。

 誰も死なず、誰も傷つかず、無事に帰ってきて温かい飯を囲む。

 アズマは、ニャングルからもらった報酬の銀貨の入った袋の重みよりも、目の前で美味そうにご飯を食べる二人の笑顔を見ている時間の方が、何倍も価値があると感じていた。

『ピンポンパンポーン♪ 神の聖遺物(古着)を崇める純粋な信仰心によるボーナスで、3CPを獲得しました! なお、ルチアナ様は炊き出しのカレーのおかわり列に並び直そうとして変装しましたが、ボランティアのおばちゃんにあっさりバレて現在激しくお説教されていまーす♪』

 脳内に響くあまりにも情けない神界の現状報告に、アズマは思わず口に含んだ水を吹き出しそうになった。

「あははっ! アズマさん、どうしたんですか急にむせて!」

「い、いや……ちょっと、平和っていいなって思ってさ」

 愉快に笑うキャルルと、串にかじりつくリーザ。

 金欠のポンコツ女神のことは一旦忘れ、アズマは異世界での確かな一歩を祝うこの夜の宴を、心ゆくまで楽しむのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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