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理不尽転生!ハズレ能力【生活改善カタログ】の日用品で限界農村から建国王へ成り上がる件  作者: 月神世一


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EP 11

神の涙(瞬間接着剤)と、大国の軍事バランス

「カーボン紙という魔導具の有用性は、痛いほどよく分かった」

 応接室のソファに深く腰掛け直した司令官ガストンは、葉巻の煙をゆっくりと吐き出した。

「しかし、アズマ。俺は商人ではなく、国境を預かる軍人だ。お前の後ろ盾として俺の名前を貸すからには、お前の力が『軍事的・戦略的』にどれほどの価値を持つか、もう少し見極めたい」

 アズマが小さく頷こうとしたその時、応接室の重厚な扉が慌ただしくノックされた。

「ガストン司令官! 緊急の報告です!」

 血相を変えて飛び込んできたのは、銀色の甲冑に身を包んだ若き騎士だった。彼の手には、無惨にも真っ二つに折れた美しい剣が握られている。

「先ほどの国境警備の折、魔獣の突進を受け……皇帝陛下より賜った『白銀の魔衛剣』が折れてしまいました!」

「なんだと!?」

 ガストンが立ち上がり、折れた剣を奪い取るように見つめた。

「馬鹿な……! 来週には、帝都からの軍事査察団が来るのだぞ。この剣には複雑な防壁魔法の回路が刻まれている。地下帝国ドンガンのドワーフ職人に頼み込んだとしても、魔法回路を焼き切らずに修復するには最低でも一ヶ月はかかる!」

(……来週、本部のエリアマネージャーが店舗視察に来るのに、入り口の自動ドアがぶっ壊れたようなもんか。そりゃあ胃も痛くなるよな)

 ホームセンター時代、本部の抜き打ちチェックのたびに備品の破損を隠そうと奔走したかつての自分と重なり、アズマは放っておけなくなった。

「あの、ガストン司令官。少し見せてもらえますか」

 アズマは折れた剣の断面を観察した。刃こぼれや粉砕はなく、強い衝撃で綺麗に真っ二つに折れただけのようだ。

「熱も魔法も使わずに、物理的にくっつけるだけなら、俺の力ですぐに直せるかもしれません」

「なんだと? ドワーフの炉も使わずに、ミスリル鋼を接合するというのか?」

 アズマは脳内の『生活改善カタログ』を開いた。

(消費は5CP。残高は50,028CPだ)

 虚空から取り出したのは、親指ほどの大きさの小さなチューブだった。

「それは?」

「『耐衝撃・強力瞬間接着剤』です。折れた断面の汚れを落として、これを数滴垂らすだけでいいんです」

 アズマは手持ちの布で剣の断面を拭き、チューブの先端から透明な液体をポトリと垂らした。そして、折れた剣先を寸分の狂いもなく合わせ、ギュッと力を込めて押し付けた。

「このまま、六十秒ほど待ってください」

 静まり返る応接室。キャルルが興味津々でウサギ耳を揺らしながら手元を覗き込んでいる。

「はい、終わりました。振ってみてください」

 アズマが剣を若き騎士に返すと、騎士は恐る恐る剣を握り、空中で鋭く振った。

 ブンッ!

 風を切る重い音が響くが、剣は折れる気配すら見せない。

「おおっ……! 接合部の継ぎ目すら見えない! 完璧にくっついています!」

 キャルルは身を乗り出し、剣を振る騎士の動きを見定めた。

「すごい……重心の狂いも一切ないわ。魔法の光も、鍛冶の熱すら発していなかったのに……!」

 エメラルドグリーンの瞳を丸くして驚嘆の声を上げるキャルルに対し、アズマは首を振った。

「特別な魔法じゃありませんよ。化学反応です。この接着剤は、空気中や金属の表面にある微小な水分と反応して、瞬時に硬化し、分子同士を強力に結びつけるんです。耐衝撃タイプなので、横からの強い力にもある程度耐えられます」

 アズマが淡々と説明する横で、ガストンはワナワナと震えていた。

「分子同士を、瞬時に……。熱も魔力も使わず、ただの一滴で物質を結合させる『神の涙』だと……」

 ガストンは騎士を下がらせると、応接室の鍵を自らガチャンと閉めた。

 そして、かつてないほど険しい表情でアズマの肩を両手で掴んだ。

「アズマ。お前は自分のやったことの恐ろしさを理解しているか?」

「え? いや、ただの接着剤ですけど……」

「いいか。戦場において、武具の破損は部隊の死滅を意味する。通常なら、膨大な数の予備武器と、それを運ぶ輜重隊(しちょうたい)が必要になるのだ。だが……お前のその『神の涙』があれば、最前線で折れた剣や槍を、その場にいる兵士が数秒で完全修復できる。これは、戦争における『兵站の概念』を根底から覆すものだ」

 アズマの背筋に、冷たい汗が流れた。

(……ただの百均の接着剤が、軍事革命のオーパーツになっちまうのか)

「警告しておく。お前のその力……この大陸の軍事バランスを容易に崩壊させる。もし帝国の本国や、隣国のアバロン魔皇国がお前の存在を知れば、国を挙げてお前を拉致し、一生牢獄に閉じ込めて『神の涙』を生産する奴隷にするだろう」

 アズマは血の気を引かせた。ただ平和に、腹いっぱい飯を食って寝たいだけなのに、どうしてこんなことに。

「だからこそ、お前には俺が必要だ」

 ガストンがニヤリと笑った。

「お前の力は俺の軍閥にとって最高の戦略物資だ。俺が後ろ盾となり、お前の存在は軍の最高機密として秘匿する。流通はあのガメつい猫耳商人ニャングルのダミー商会を通せ。そうすれば、誰にも尻尾を掴まれることなく、莫大な利益と安全が手に入る」

「……助かります。権力争いなんて、一番ご免ですから」

 アズマが深く頭を下げた瞬間、脳内に大音量の電子音が鳴り響いた。

『ピンポンパンポーン♪ 大国の軍事査察の危機を救済した善行ボーナスで、10CPを獲得しました! なお、ルチアナ様は神界のクレジットカード請求額を見て現実逃避し、現在『エンジェル・自己破産』の検索結果を閲覧中でーす♪』

(神様が金融ブラックリストに載ろうとしてる……!)

 脳内の悲惨な神界事情に突っ込みつつも、アズマの異世界における「流通(ニャングル)」と「武力の後ろ盾(ガストン)」という、強固な事業基盤が完全に成立したのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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