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理不尽転生!ハズレ能力【生活改善カタログ】の日用品で限界農村から建国王へ成り上がる件  作者: 月神世一


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EP 10

 魂を写す契約紙と、強面の軍閥司令官

 巨大な石造りの城塞都市。その中心部に位置する『冒険者ギルド・中央支部』の重厚な木の扉を押し開けた瞬間、むせ返るような熱気と酒の匂いがアズマたちを包み込んだ。

 広いロビーには、いかつい鎧を着た戦士や、杖を持った魔法使いなど、いかにもファンタジー世界といった風貌の冒険者たちがひしめき合っている。

 その只中に、土と魔獣の返り血で薄汚れたホームセンターの制服を着たアズマと、色あせた小豆色ジャージ姿のリーザが足を踏み入れたのだ。浮かないわけがなかった。

「おい見ろよ、あの貧相な格好。スラムの孤児が迷い込んだのか?」

「兄ちゃん、ここは冒険者の酒場だぜ。ドブさらいの依頼なら、裏口の掲示板を見てきな!」

 ガハハ、と周囲の荒くれ者たちが嘲笑する。

 カウンターの向こうにいる受付嬢も、アズマたちの姿を見るなり眉をひそめた。

「あの、一般の方の立ち入りはご遠慮いただいているのですが……。もし依頼を受けたいのでしたら、Eランク向けの薬草採取の登録から――」

「いえ、依頼を受けに来たわけではありません」

 アズマは冷静に遮り、懐から一通の封筒を取り出して受付カウンターに置いた。

「これを、ここの責任者の方に渡していただけますか」

 それは、ゴルド商会のニャングルから託された紹介状だった。

 封蝋に刻印された『黄色い笑顔のマーク』を見た瞬間、受付嬢の顔色が変わった。

「こ、これは……ゴルド商会、それもプラチナ直轄のゴールドランクを示す印!? も、申し訳ございません! ただいま責任者をお呼びいたしますので、奥のVIPルームへどうぞ!!」

 受付嬢の慌てふためく様子と、九十度の直角お辞儀に、周囲で笑っていた冒険者たちの口がポカンと開いた。

 鮮やかなまでの掌返しを背中で受けながら、アズマとリーザは案内された重厚な扉の奥へと足を踏み入れた。

 ❖❖❖

 通された応接室は、高級な獣皮のソファーが並ぶ豪奢な空間だった。

 上座のデスクで葉巻をふかしていたのは、顔に大きな刀傷のある巨漢の男だ。着ている軍服には数多くの勲章が飾られており、その鋭い眼光は歴戦の猛者であることを雄弁に物語っている。

「……お前か。あのガメつい猫耳、ニャングルがわざわざ推薦してきた男というのは」

 男の野太い声が室内に響く。

「俺はルナミス帝国・辺境軍閥の司令官であり、この都市ギルドの統括者でもあるガストンだ。それで、お前のようなひ弱な男が、いったい何の用だ?」

「ガストン司令官。初めまして、東吾妻と申します」

 アズマが名刺を差し出すような手つきで一礼した、その時だった。

「あっ! リーザちゃんじゃないか!?」

 ガストンの背後にあるソファから、スポーティなパーカーにショートパンツ姿の女性が跳ねるように立ち上がった。艶やかな銀白色のショートボブに、頭頂部にはピコピコと動く純白の兎耳が生えている。

「キャルルさん!? どうしてここにいらっしゃるんですの!?」

 リーザが歓喜の声を上げて、兎耳の女性――キャルルに抱きついた。

「え、知り合いなのか?」

 アズマが驚いて尋ねると、キャルルは人懐っこい笑顔を向けた。

「初めまして! 私、リーザちゃんとは帝都のシェアハウスでルームメイトだったキャルル・ムーンハートです。今はポポロ村の村長をやらせてもらってます!」

「あなたが、マンミアさんが言っていた不在の村長……!」

「はい。この都市には、定期の行政報告と買い出しで来ていたんです。ガストンおじさまは、私が小さい頃からの後見人みたいなものでして」

 キャルルがえへへと笑うと、先ほどまで恐ろしい殺気を放っていたガストンの顔が、一瞬にしてデレッと崩れた。

「お、おじさまとはなんだキャルル! もっと親しみを込めてパパと呼んでも――コホン! いや、仕事中だ」

 強面の司令官が咳払いをして、無理やり威厳を取り繕う。

「……まあいい。ニャングルの手紙は読んだ。お前が未知の魔導具を操る優秀な錬金術師であり、俺に『後ろ盾』になってもらいたいということだな。だが、俺は商人の言葉をそのまま信用する気はない」

 ガストンは葉巻を灰皿に押し付け、鋭くアズマを睨んだ。

「俺と直接、専属の保護契約を結ぶというのなら、絶対に改竄が不可能な『念書』を交わしてもらう。だが、魔導士を呼んで魂の魔力印を刻むには、時間も金もかかる。お前に、俺を納得させるだけの力と覚悟を見せられるか?」

 試すような視線。

 だが、アズマは少しも慌てなかった。前職では、悪質な下請け業者やクレーマーとの間で「言った言わない」のトラブルを防ぐため、常に念書や合意書を持ち歩いていたのだ。

「時間も魔力も必要ありません。今すぐ、絶対に改竄できない控え付きの誓約書を作りましょう」

 アズマは脳内の『生活改善カタログ』を開き、2CPを消費した。

 虚空から取り出したのは、二枚の白い紙と、その間に挟まれた『真っ黒な薄い紙』。そして、一本の黒いプラスチック製のペンだった。

 アズマはそれらをガストンのデスクに置いた。

「この紙の上に、あなたのサインと誓約内容を書いてください」

「なんだこれは? インク瓶もないし、羽ペンですらないぞ。こんな棒きれで文字が書けるというのか?」

 ガストンは怪訝な顔をしながらも、『油性ボールペン』を手に取り、白い紙にペン先を走らせた。

「……なっ!? なんだこの滑らかさは! 紙に引っかかることもなく、均一に漆黒の墨が滲み出てくるだと!?」

「それは油性ボールペンです。ペン先の極小のボールが回転して、中のインクを均等に出す仕組みなんですよ。それより、あなたが書いたその紙をめくってみてください」

 言われるがまま、ガストンがサインした一枚目の紙と、間に挟んでいた黒い紙(カーボン紙)をめくり上げる。

 その下にあった二枚目の白い紙を見た瞬間。

 ガストンと、隣で覗き込んでいたキャルルが、同時に息を呑んだ。

「ば、馬鹿な……!! 下にあった白紙に、俺が今書いたものと一寸の狂いもない『同じ筆跡』が刻み込まれているだと!?」

「ええっ!? 魔力の発動すら感じなかったのに、どうして筆跡がコピーされているの!?」

 二人の驚愕の声が応接室に響いた。

 異世界において、全く同じ書類を二枚作成するには、筆写人が手書きで写すか、高度な複製魔法を使うしかない。しかしアズマの使った『カーボン紙』は、筆圧という物理的な力だけで、瞬時に全く同じ筆跡の複製(控え)を作り出してしまったのだ。

「いかなる偽造職人でも、これほど完璧に他人の筆跡の癖を真似ることは不可能だ。これは……対象の『魂の筆跡』そのものを、下の紙へと強制的に転写する魔導具なのか……!」

 ガストンが握りしめた誓約書の控えを持つ手が、ぶるぶると震えている。

「インクを内包する魔法の筆に、魂を写す契約紙。……ニャングルの奴、とんでもない男をよこしおったわ」

「いや、ただのカーボン紙とボールペンなんですけど」

 アズマのツッコミは、興奮状態のガストンには届いていなかった。

 ガストンは立ち上がり、先ほどまでの威圧感を完全に引っ込めて、アズマに向かって深々と頷いた。

「アズマ。お前の力、しかと見せてもらった。俺が責任を持って、貴様の『後ろ盾』になろう。この都市において、不当な権力がお前を縛ることは俺が許さん」

「ありがとうございます、司令官」

 無事に強力な庇護者を獲得し、ほっと息をついたアズマ。

 だが、その隣で、兎耳をピクピクと揺らしていたキャルルが、エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせてアズマを見つめていた。

「アズマさん! あなた、ただ者じゃありませんね! ポポロ村の村長として、あなたを放っておくわけにはいきません!」

「えっ?」

「ちょうど私も村へ帰るところでした。道中、私があなたの護衛をします! その不思議な力、もっと見せてくださいね!」

 グッと距離を詰めてくるキャルルの笑顔。

 極貧アイドルと、うさぎ耳の村長。二人の厄介……いや、個性的なヒロインを抱え、元ホームセンター副店長の成り上がり生活は、ますます賑やかなものになろうとしていたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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