第六話 【絶望】実家から届いた「不備品の処分」命令。借金の形に売られた僕
翌朝、旦那様は何事もなかったように書類へ目を通していた。
バレたのに。
僕が男だって知ったのに。
何も言わない。
それが怖いような、でも少し安心するような、不思議な感覚だった。
旦那様が王都へ発った日、僕は書庫の整理をしていた。
その時、本の間から一枚の羊皮紙が落ちる。
差出人は、ヴェルナ男爵。
――父上だった。
宛先は、セヴェラン公爵。
見てはいけない。
そう思ったのに、指が勝手に紙を開いていた。
『献上せし「商品(花)」は完璧な仕上がりにて候。借財の帳消しを条件に、貴殿の自由になされたき。不備あらば、即刻処分に処すべし』
最後に添えられていたのは、乾いた薔薇の押し花。
商品。
処分。
借財。
「……は」
乾いた声が漏れる。
商品だったんだ。最初から。
愛されていたわけじゃない。
売るために、完璧な商品として育てられただけ。
そしてセヴェラン様は、それを借金の形として受け取った。
名前を呼んだのも。
頬に触れたのも。
全部、道具の管理だったんだ。
「……あ、あぁ……っ!」
気づけば走っていた。
雨の中を、裏門へ向かって。
「どこへ行く、ラナ」
背後から声が落ちてくる。
振り返る。
旦那様がいた。王都から戻るには、早すぎる時間だった。
「……知っていたんですね! 僕が商品だって、借金の形だって!」
「……」
「男だって知って、笑ってたんですか! 珍しい玩具を手に入れたって!」
「……玩具か」
彼がゆっくり近づいてくる。
逃げ場を塞ぐように、壁際へ追い詰められた。
「取引があったのは本当だ。商品として受け取ったのも事実だ」
「だったら――」
「だが」
次の瞬間、強く抱きしめられる。
冷たい雨の中で、痛いくらいに。
「お前を処分などさせない」
低い声が、耳元で響いた。
「お前は私のものだ。誰にも渡さない。……お前が、お前だからだ。それ以上の理由は要らない」
「……なんで」
涙が零れた。
声を殺しながら、彼の胸の中で泣く。
好きなのに苦しい。
苦しいのに、この腕から離れたくない。
――最悪だ。
完全に、詰んでる。




