第七話 「いい子だ」……拒絶する僕に、公爵様が与えた甘い温度
雨が上がっても、心は濡れたままだった。
移された部屋は、小さくて綺麗な部屋だった。
白い夜花の香りがして、窓にはレースの帳が揺れている。
――きれいな、檻だ。
「……食べろ」
「いりません」
「枯れた花に興味はない。口を開けろ」
「……道具の管理は大変ですね」
「ラナ」
ただ名前を呼ばれただけなのに、それ以上抵抗できなくなる。
差し出されたスープを口に運ばれた。
温かい。
「いい子だ」
「……子ども扱いしないでください」
「今は子どもみたいに泣いているだろう」
反論できなかった。
夜が更けても、彼は部屋を出ていかなかった。
書類を開きながら、ただそこにいる。
その気配に耐えきれなくなって、僕は小さく口を開く。
「……どうして僕なんですか」
「何が聞きたい」
「男だと知って、なんで追い出さないんですか」
「代わりはいない」
「嘘です」
「事実だ」
静かな声だった。
「……計算なしに、ただそこにいる奴に出会ったことがなかった。お前は怯えながら、それでも私の手に縋る。……そんな花が、私の庭に来るとは思わなかった」
「……僕が、無知だからです」
「それでいい」
「よくないです」
「お前の根は、もう私の掌にある」
傲慢だ。
ひどい言葉なのに。
「……離さないでください」
気づけば、情けない声が漏れていた。
「お前が望まなくとも、もう手放さない」
次の瞬間、額にそっと口づけが落ちる。
ずるい人だ。本当に。
でも、その一言だけで、今夜は眠れる気がした。
おかしいと思う。
それでも、それが今の僕の正直な気持ちだった。




