第三話 夜の私室に届いた白い夜花。公爵様の甘すぎる贈り物
控室に戻ったら、見知らぬ花があった。白くて、甘い香りがする花。
「綺麗……」
思わず手を伸ばした。
「……おい、メイド」
振り返ったら、公爵様がいた。いつの間に来てたの。
「このお花は、一体」
「庭師が置いたのだろう」
絶対嘘だ。庭師が許可なく主人のメイドの部屋に花を置くはずがない。
「水はやらなくていい。私の力だけで咲き続ける」
その言葉の意味をじっくり考えて、頬が熱くなった。
――お前の面倒は俺が見る、ってこと……?
考えすぎか。絶対考えすぎだ。
彼が部屋を出ようとした。
次の瞬間、背中が彼の胸板に押し当てられていた。
「えっ」
両腕で包まれた。後ろから。強く。
右手がゆっくりと首に這い上がってきた。
指先が、喉に止まる。脈があった。速い脈が、そのまま彼の指に伝わっていく。
「……速いな」
「だ、旦那様、腕が……」
「分かっている」
離さなかった。痛くはない。
でも、ここにある、という重さが全身に広がって、頭が白くなりそうだった。
彼の息が、髪に触れる。
「逃げるな。お前の根がどこにあるか、お前自身が一番よく知っているだろう」
腕が解かれた。彼は消えた。
僕は一人で立っていた。首筋に手を当てたら、まだ体温が残っていた。
嫌いになれたら、どれだけ楽だったか。
その言葉が、ふっと浮かんだ。
嫌いになれない。それが一番の問題だった。




