第二話 冷酷公爵の意外な素顔。氷の瞳に隠された熱
数日経った。生きてる。
バレてない。とりあえずそれだけで、毎朝安心する。
でも公爵様は、なんか変だ。
配属されて数日。旦那様の夜食を運ぶ銀のトレイが、緊張で派手に鳴った。
「終わった……」と思った。本気で。
「……そのミルクはお前が飲め」
彼は書類から目も上げずに言った。
え。
「でもこれ旦那様のでは……」
「いいから、飲め」
飲んだ。温かかった。
これは優しさじゃない、合理的な判断だ。
そう思わないと、こんなことで嬉しくなってしまう。
庭で蜂を見つけて、逃げ腰になってたら。
「そんなに蜂が嫌いか」
いつの間にか後ろに公爵様がいた。
「刺されるのが怖くて……」
彼は無言で枝を揺らした。蜂はあっさり飛び去る。
「向こうから手を出さねば、奴らも無闇に針は使わん。お前のように臆病な花なら、尚更だ」
臆病な花。
バカにしてるのか、それとも……いや、たぶんバカにしてる。うん。
カーテンを閉めようとして、フリルを踏んで転びそうになった。
背後から腕が来た。
「……危なっかしいな」
背中に、高い体温。煙草の匂い。
「ありがとうございます……っ」
慌てて離れたら、なぜか彼が不服そうに眉を寄せた。
何その顔。なんで不服そうなの。
廊下に消えていく背中を見送りながら、背中の熱だけが、いつまでも残っていた。
この人、近づくたびに何かを確かめるみたいに僕を見る。
バレてないはずなのに、なんで毎回あんな目で見るんだろう。
嫌な予感がする。




