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第四話 「お前は、自分が何者か分かっているのか?」初めて呼ばれた名前
数日後。
「ラナ。こちらへ」
書類を渡す時、彼の指が僕の指を包んだ。
「手が冷えているな」
「す、すみません」
「謝らなくていい」
顎を持ち上げられた。目が合った。
「……ラナ」
はっとした。今まで「お前」か「メイド」だったのに。名前で、呼ばれた。
「はい……旦那様……」
「お前は、自分が何者だと思っている」
刺さった。
何者? 分からない。
女の子として育てられた男。偽りの名前を持つ道具。本当の僕なんて、どこにもいない。
「旦那様の、メイドです。それ以外ありません」
「……そうか」
親指が、頬をなぞった。やわらかい触れ方だった。
「精々、私に摘み取られないよう美しく咲いていろ」
守る、ってことなのか。それとも、そのうち摘み取ると言ってるのか。どっちにも聞こえた。
その夜、鏡の前でコルセットを外しながら考えた。
名前を呼ばれただけで、こんなに動揺するなんて。
まずい。本当にまずい。
この人に情を持ったら、最後だって、分かってるのに。




