第九話 道具から「最愛」へ。セヴェラン様の腕の中で迎える、初めての朝
朝が来た。
柔らかな陽の光がカーテンの隙間から差し込み、白いシーツを淡く照らしている。
昨夜のまま乱れたベッドの上には、白いフリルが散らばっていた。
隣には、セヴェラン様がいる。
静かな寝息。
閉じられた瞳。
起きている時の鋭さが嘘みたいに穏やかな横顔だった。
思わず、じっと見つめてしまう。
「……ずっと、怖くて。でも優しかったな」
小さく呟いた瞬間、涙がこぼれた。
自分でも驚くくらい自然に泣いていた。
でも、不思議だった。
泣き終わる頃には、胸の奥が少し軽くなっていたから。
その気配に気づいたのか、セヴェラン様の瞼がゆっくり開く。
視線が重なった瞬間、腕を引かれた。
「っ……」
そのまま額に口づけが落ちる。
おはよう、なんて言葉もない。
でも、それだけで十分だった。
「……おはようございます、セヴェラン様」
彼は目を細める。
どこか満足そうで、少しだけ安心したようにも見えた。
「……僕は、ここにいていいんですか」
ずっと聞きたかった言葉だった。
怖かった。
朝になれば全部終わるんじゃないかって。
けれど彼は、迷いなく答える。
「……重荷だと思うなら、最初から手など取らない」
「でも僕は、男で……売られた身で……」
「実家との契約は昨夜焼いた」
静かな声だった。
「お前はもう、誰の道具でもない」
「……っ」
息が詰まる。
そんなこと、一度も言われたことがなかった。
価値なんてないと思っていた。
誰かの都合で生きるしかないと思っていた。
なのに。
「これからは、お前の意志でここにいろ」
大きな手が、そっと髪を撫でる。
「私の傍で咲き続けろ。それがお前に望む唯一だ」
胸が熱くなった。
“いていい”なんて。
“自分で選んでいい”なんて。
そんな言葉、知らなかった。
「……ここにいたいです」
震える声で、それでも伝える。
「あなたの花として」
「ああ」
セヴェラン様は短く頷いた。
「そうしろ」
ぶっきらぼうな返事。
でも、その声はどこまでも優しかった。
窓の外では、小さな蜂が白い花に止まっていた。
蜜を求めて飛び回るその姿を見ながら、ふと思う。
前なら、怖かった。
でも今は違う。
なんだか少しだけ似ている気がした。
あの蜂と、この人。
そして――僕自身も。




