1章-23 最後の世界その2
「遅いよ、お姉様、来世で後悔してね」
カレナの胸部からは、燃えさかる炎が四方に氾濫し、翼が形成され、徐々に竜の姿へ変貌する、燃え盛る、復讐の念を糧として生まれた、終焉の竜。
「お姉様、私はこの子、終焉の竜、アンジと時間をかけて、世界を焼き尽くしたあと、ゆっくり創世するわ、最も、今のお姉様のその姿では止められやしないでしょうね」
「この世界を支えている生物を、絶やすつもりなのね、カレナ」
「そうね、私に出来るのはこれくらいね、この世界は生きる者全ての精神力で、出来てるんでしょう?それぐらい双子の私に解らないと思って?」
エレナはディアボルトの上半身を抱え、再生しようと試みる、その後方では黒狼と白銀の狼が、今にも互いの首を刈ろうと、唸り合っている。
どうやらエレナがこの世を生み出した原則、この世界を支えるモノとして選んだのは、生ける者全ての精神。
世界が終わる時、そこには生物は存在せず、この世は音も無く崩れ、無へと帰る。
そしてカレナは、これからこの世界を終わらせようとする、時間はかかるが、カレナがこの世界を再創世するには、1度終焉を迎え、自身がまた時間をかけ、元いた世界を創り出す。
「そう……それと、その王子様、再生しようとしているの?私が切ったのよ?何もしてないと思ったのかしら~」
カレナの言葉で動き出すディアボルト、抱えていたディアボルトの重みが1.5倍ほどになり、無かった筈の下半身は黒く、ゆらゆらと蠢くように生え、人の声とは思えない程の奇声を上げる。
「ディアボルト!」
エレナはディアボルトから距離を取る、背面にカレナとアンジ、正面には黒い狼の首を持ったディアボルト。
「えっ……黒狼が……白銀の狼は……」
エレナの体が衝撃を受け右に廻る、左手の感覚が無くなり、それを実感すると共に体のバランスが崩れ、右に倒れ込む。
「私たちで人を再生しようとしたら、どうなるかわかってますよね? お姉様、そう、魔人が生まれてしまうわね」
エレナの魔力とカレナの魔力が合わさり、人知を逸した人が生まれる。先に魔力を注いだ方に所有権があり、その力は二人をも超える魔力が備わる。
そして、2人がどちらか一方、死する時までは従順な下部。
「左手、右足ご馳走さまは? 白狼?」
白銀の狼は満足げではあるが、あまりの御馳走に、いても立ってもいられないと全身を震わせ、一歩踏み出すが、カレナの鋭い視線に怯えるように足を引っ込める。
「じゃぁ、最後は私の、私のディアボルトに、お姉様のとどめを刺してもらいましょうかね」
いつの間にかディアボルトは、カレナの横に立ち、エレナの持っていた大剣を背中に納めている。
「カレナ……そこまで私が憎いのね……私を殺したいのね。止めておいたほうがいいと思うわ、どうなるかわからないわよ……そして、あなたが世界を創世しなおしたとしても、思い通りにはならないわ」
エレナは、片手片足の状態で立ちあがり、傷口から氷を精製し血を止めると共に、義足として氷を地面まで伸ばす。
「私が創り直すのに? 何言ってるの? 思い通りになるに決まってるじゃない」
「なら……何故? この世界は? 私の思い通りにはいかなかったわ、それで分からないの?」
エレナの言っていることは、カレナも理解している。
しかしエレナが創った世界とは決定的に違う事、この世界にはカレナとエレナ、二人の魔女がいたこと、次の世界にはカレナ一人、エレナはここで消滅する。
「それは私がいたからよ、お姉様は私も連れてきた、ただそれだけよ」
「そうね、あなたを連れて来てたのは私、だけど少し違うわ。ついてきた、が正解ね、つまり私達は何があっても、何処へ行こうとも2人で1つ、ここで私が消滅しても、あなたが世界を創っても私はそこに存在してしまうわ……」
怒り、ぶち当たる壁に押しつぶされるカレナ、その壁を強い憤怒がなぎ払い、感情が溢れ出す。
「そんな事、信じる訳がっ! ないじゃ無いっ」
その怒りは衝動を抑える事は出来ず、ディアボルトと白狼が暴走しエレナの首を撥ねる。
「!!……」
エレナの首は、玩具のようにコロコロと転がり、氷結し呆気なく散っていく、そして残された身体は、まだ歩みを続けてはいるが、すぐに力無く崩れ落ちる。
次にカレナの視界に入った光景は、予想だにしない光景、ディアボルトの上半身は苦しみ、竜のアンジは白狼を飲み込む、カレナが止めろと言っても聞かない。
「お姉様が居なくなったから……なの? これじゃ、ただ世界が終わるだけ、無に帰るだけ……このままじゃ私も……」
カレナの制止も虚しく、ディアボルトは辺りを瘴気で呑み込みそうなほど狂い、数キロ先の大地を平面に変え、その姿はまさに魔人。
アンジは目に入る物全てを焼き尽くし、呑み込み、弄ぶ。
「お姉様が居ないと駄目なのね……私はお姉様の分身でしょ……二人で1つなのに、何でなのよ、結局お姉様が必要なのね……」
手を胸に当て再度、アンジを生み出した時のように胸部が熱を帯びる、熱の塊は白く、カレナから離れ、エレナの残された身体の方へ向かい無くなった左手、右足を再生させ、最後に頭部を再生するが、黒い靄がかかったまま。
「まだ足りないのね、なら私の半分、持って行きなさい」
カレナは魔力の上限の半分を、エレナの肉体に注ぎ頭部を再生させる、エレナの顔立ちも出来上がるが、まだ髪だけ瘴気で蠢いているが少し時間が経つと、その髪も落ち着き、綺麗な黒髪になる、そして目を覚ますエレナ。
「……レナ……もう……何もかも遅いのよ、全ては私達の呪われた血のせい、この世界でやり直しましょう」
ディアボルト、アンジは狂ったように暴れ、破壊の限りを尽くそうとしたのが嘘のように、大人しくなりじっと主人の命を待つ。
「お姉様、私はもうお姉様と生きてはいけない、城にも戻れない、次の世界、次の私が生まれるのを待つわ……次は元の世界で生まれるといいな……この子たちも、もう要らないわ、好きにしてあげて……」
それでも尚、元の世界を求めるカレナは、何処に向かうでも無くフラフラと暗闇に消える、魔人ディアボルトと終焉の竜アンジ、息も絶え絶えの白狼を残して。
「可哀想ね……主人に置いて行かれて」
エレナは己の右腕、右脚を屠った白狼の傷を癒やしながら、この魔人と終焉の竜をどうするかと頭を悩ます。
白狼の治療が終わり地面に座りじっと終焉の竜を見る。
「このままここで、じっとしてもらう他無いわね、でも私一人じゃ困難だわ……ディアボルトの事もあるのにここで全て使い切るわけには……黒狼さえいたら……」
悩むエレナに、傷の回復した白狼の全身は、エレナをまた屠ろうとしているのか、魔力に包まれエレナに近づく。
しかし白狼はエレナの横に座り、終焉の竜を見つめる。
「協力してくれるのね、これでさっきのは無かった事にしてあげたいわ」
エレナは白狼に手を添え、アンジを封印する。
大地がアンジを中心にせり上がり、何層にも色とりどりの結界を張り、人が近づかぬよう最後に瘴気で纏い、自らの血で頑丈な扉を精製する。
「鋼鉄の扉、私にしか見えない、あの時の凍った扉、いつか必要な時にまた外に出してあげるね、それまでお休みなさい」
作り上げた結界は山となり、燃え盛る炎が凍ったかのような紋章を扉に型どり、扉は土砂に呑み込まれ消えていく。
「後は、ディアボルトね」
下半身が魔人となり、人として生きてはいけない、封印しても生き地獄を見せるだけ、そんなディアボルトに突きつけられる結果は、安らかに眠ることのみ……
「お別れね、ディアボルト、また会いましょう、今度は私があなたを守る、絶対に」




