1章-22 最後の世界その1
ヘレは、じっとアカツキを見つめる、その顔には喜び、悲しみ、どちらとも言えない、複雑な表情を浮かべ。
「ヘレさん、どう言う事なのか知りたい、何で聖杯堂の中に簡単に入れるのか、俺も、ヘレさんも!」
「ここに来るまで、見たでしょう?あの皇子、私達が愛した人」
「ああ、見たよ、それは分かった、だけど」
「ここは、私達の全ての記憶が眠る場所、この世界が出来る前から、今までずっと記憶されている場所、見て欲しい、分かって欲しい、私の全部、あなたには」
アカツキの言葉そ遮り、そう言い残し、消えるヘレ。
「待っ……一方的だよヘレさん」
アカツキの周囲には、無数のひび割れた窓が現れ、木で出来た物もあれば鋼鉄、石、様々な素材の窓、その中の一つ、鋼鉄の窓がアカツキを襲う。
風景は変わり、暗闇の中、アカツキはふわりと漂う、その暗闇の中に銀髪の少女が一人泣いている。
「おかぁさん……おかぁさん、助けて、暗いよ」
少女は鋼鉄の扉を弱々しく叩く、暗闇と思っていたその空間は光の届かない部屋、幽閉されているのだろうか。
「銀髪?ヘレさんの妹?」
アカツキは少女に触れようとするが、虚しく空を切るようにすり抜ける。
「干渉出来ないのか、声も届いて無さそうだし」
暫くすると、鋼鉄の扉の向こうで男達の声、2人で話してはいるが、明らかに少女に聞こえるように会話を進める。
「おい、さっきこの娘を返してって、女が押しかけて来たらしいぜ」
「まぁ気持ちも分からんでも無いが、何も殺すことはないどろうに、なぁ」
「あれだけ嬲り殺しておいて、最後は蜂の巣だぜ?狂ってるよな」
「見せしめ的な意味もあるんだろう、奪いに来る奴は容赦しないって」
幼女の目は死んだ魚、扉を叩いていた手は腫れ、呆然と立ち尽くし、目には光るモノが凝固している。
「おかぁさん? うそ、カレナは?」
少女の周囲は冷え切り、暗闇に氷の結晶が張り巡らされ、扉の向こうにいる男達も完全に凍結してしまう。
「酷いよ、何もしてないのに、元の場所に帰りたい、家族みんな一緒の、あのお家に」
少女のその言葉で、世界は崩れ、黒い結晶に吸い込まれ、世界の終わりと共に元の場所に戻ったアカツキ。
「何だ?銀髪の少女がヘレさん?カレナは妹?姉?両親もいたようだけど時代が違うような……」
アカツキは少しずつ頭を整理し、石の窓が迫る、その先にある光景は。
薄暗いが城が見える、白金の城の造形だが、蔦が生い茂り、見るも無惨な城。
あの世界の終わりから、どうしてこうなったのかは、彼女にしか分からないのだろう。
アカツキの体は引き寄せられるように城内へ、そこにはグラス王に似た貧相な王とその息子、そして側近やシリーによく似たホビット。
アカツキは目下の様子に関与出来ず、ただ静観する事しか出来ず、行く末を静観する事しか出来ない。
「王、この国はもう疲弊仕切っております。別の国へ行き、民だけでも平和に暮らせるよう、早々にご決断を」
シリーによく似たホビットが王に告げる。
「うむ……仕方あるまい」
王は、覚悟を決めた悲痛な面持ちで、甲冑に身を纏った息子のディアボルトを見る。
そして隣に座り涙を堪える女王に、そっと近寄る若い女性は……銀髪。ヘレによく似た姿だが、妹の方だろうか、その銀髪の女性は、女王に耳打ちし、女王は驚いたように目を見開く。
「私は、聖杯堂に向かいます。そこでこの国の長きにわたる繁栄を魔女に約束させてきます、一人の犠牲で済むなら、私だけでで十分です」
女王は立ち上がり皆に告げる、王、側近、皆が制止するが、王子のディボルトが皆に沈黙をもたらす。
「なら、俺が行くよ」
ディボルトの一言、皆が静止する中で、そのまま続ける。
「俺が一人で行く、他国に行けば俺の首は子孫断絶の為に落とされる。どっちにしても俺の先は無い、母上が聖杯堂に向い、万が一この国が変わらなければ、犠牲が増えるだけだ」
「ディボルト……」
もうこれ以上誰も止めない、最善の策。
「では、途中まで私もお供します」
ディボルトの後ろから、もう一人の銀髪女性が声を上げる。
「助かるよ、エレナ、君が道中一緒だと心強い、安心して背中を預けられるよ」
ディボルトが兜を外すと、そこにはアカツキによく似た顔の青年。
「これでいいかな?デルス王」
「ふむ、これ以上話をしても変わらんじゃろう、仕方あるまい、では、早速向かってもらおう、時間も少ないしのう」
耳打ちした銀髪の方はカレナ、ディボルトに寄り添う銀髪の方がエレナ、この二人と鋼鉄の窓の出来事の後なのか、前なのか、この国で何故生きているか。
ディボルトとエレナは、そのまま身なりを整え、必要最低限の準備をし、聖杯堂に向かう、その後ろ姿をもう一人の銀髪、カレナが不適な笑みで見送り、ぼそりと呟。
「さようなら、お姉様」
ディボルトとエレナは3日かけ、聖杯堂の入口を見つけ、ここまで来ると、もう人気も無く他の生物の気配もない、そこには漂う瘴気のみ。
「ありがとうヘレナ、ここまで来たら後は一人で行くよ、この先は俺しか入れないみたいだし、後は城に帰って穏やかに暮らしてくれ」
エレナの幸せを願うディアボルトだが、エレナは違う、一人では無くあなたと二人で、そんな気持ちを圧し殺し、ディアボルトに背を向け、目の前に出来た水面を拭うが……音も無く、背中に暖かい飛沫がエレナを襲いエレナと同じ容姿の妹、カレナが暗闇に紛れ片手に大きな鎌を持ち姿を現す。
「お姉様、そろそろ、元の世界に戻してくれません? この世界を創ったお姉様にしかこの世界を創世すること出来ないのよ……ね?」
カレナ、エレナの妹、女王に耳打ちをしていた女性の方、その脇にはディアボルトの上半身が転がっている。カレナの陰から、神々しさも感じられる白銀の獣が、ディアボルトのものであろう下半身を咥え、姿を現す。
「カレナ! どうしてディアボルトを! その人は関係無いでしょう! それに……私はこの世界でやり直したかった! その人と!」
エレナは身の丈程の剣を抜き、左手からは、黒い陰が漆黒の狼に変わり、無数の黒い狼はディアボルトの上半身を包みこみ、引き寄せる。
「本当に? 関係ないのかしら? 私達のお父様にそっくりなのに? きっと、その人のために、また再創するのかと思ったのに、残念ね」
「出来る訳が無いわ、1度だけよ、早々簡単に出来ると思っていたの? なのに……あなたは……よくも」
「出来ないの? 嘘でしょ? じゃぁ元の世界も? 戻れないの? 酷いよ、お姉様、自分が辛いから私も巻き添えにして、私から大切な家族も、何もかも奪って! 元の世界にさえ戻してくれたら許してあげようと思ったのに! もう許さないっ」
エレナにしか分からないのだろう、1度の創世しか出来ない、あの暗い、鋼鉄の部屋から世界を凍結させ、少女が幾度となく望んだおとぎ話の世界、たった1度だけ。
「なら、私が新しい世界を創る、お姉様には悪いけど、無駄にこの人殺しちゃってゴメンね」
「無理よ、それもカレナには無理、足りないわ、力が足りない」
「やるわ、お姉様に出来るんですもの、やってみせる」
「やらせない!」
カレナは白銀の獣を、邪魔をするエレナに向けて走らせる、獣はエレナの黒い狼を獣と対峙させ、自身はカレナに向かうが。
「お姉様、来世で後悔してね」




