1章ー21 対峙する世界
「聖杯堂の入口まで案内しますよ、アカツキ」
ライドウの言葉は、何を意味するか全く分からない、自分だけ蚊帳の外で、理解しようにも、思い当たることが出てこない。
「話が全く理解できません、俺でも分かるように説明して下さい!」
ライドウは応えようとせず、人差し指で目の前をなぞる、そのなぞった先はメスで切ったかのように、空間を裂き、禍禍しい球体となる。
「自分の目で見た物で判断するべきだよ、アカツキ君」
「じゃぁ、貴方は一体何者ですか、俺が見たこの光景はだけは説明してもらえるんでしょう?」
その言葉を発した直後に、アカツキはライドウの開いた空間へと吸い込まれる最中ライドウの声が聞こえる。
「僕は聖杯堂の守護を任された、ただの人、魔女の祝福は受けてますがね、ただの人ですよ」
聖杯堂の前に、アカツキの体は飛び出し、裂け目から姿を表す。
飛び出た先に地面は無く、宙に浮いている状態に見える、足場はちゃんとあり、今にも割れてしまいそうな薄い氷の膜のよう。
慌てるアカツキ、四つん這いになり前方に目をやると、ライドウの家に向かう道中にあった扉と同じ物、少し違うところはその頑丈そうな扉が開いているということ。
「入るしか無いか」
ヘレが先に入ったのだろうか、小さなキラキラと光る小石が転々と続いている。
中に入ると変哲も無い、正面の通路は無限に続くかの、先の見えない廊下、教会で見たような椅子や翼廊、そして書物があちらこちらに点在し、本棚なのだろうか、天まで届きそうな勢いで聳え立っている。
「こんな所に何の意味があるんだろう」
本を無作為に手に取り、中身を覗く。
『魔女エレナ、名を変えこのその地で異世界の住人とこの世を滅ぼす』
「魔女エレナ?異世界の住人と?俺のこと……?名を変えってあるからもしかしたら」
異世界の住人は、アカツキだけじゃない可能性、アカツキに世界を破滅させる程の力も無い。
「読んじゃったわね~」
女の声にびくりとし、振り向くとそこにはヘレによく似た、銀髪の黒いローブの女、あの教会でかいだ女性の香りも漂う。
「誰だよ、ヘレさんによく似た感じだけど」
「そんな事よりね、その本ね、早く戻した方が良いわよ、もっとも……先を読みたければ止めはしませんけどね」
アカツキの手に持った本からは、瘴気が溢れ、アカツキごと飲み込んでしまいそうな程で、その瘴気は集約し手の型を作る、その手は次のページを開く。
『聖杯堂で2人の魔女は一人犠牲となり、魔王を造り出す』
「次のページ見ちゃったのね、それ、あなたのことよ。ま、お、う!フフ」
その女は、ゆっくりとアカツキに近づき、女はアカツキから本を取り上げ元の場所に戻す。
「言葉も出ないかしら? お姉様は何も教えてくれなかったのね可哀想……」
その女は悲しい表情で、アカツキを哀れむように、家畜が今から解体されるのを見るような、冷たい視線。
その女は弄ぶ、アカツキをどん底に落とそうと。
「全部知りたいのね? あなたがここに居る理由、聞きたくなくても言うけどね、あなたに選ぶ権利は無いのだから」
「先ずは、何故あなたがこの世界に来たかよ、それはねエレナ、そう私の姉様ね、今はヘレね、姉さんが何度目かの転生後にね、この国の皇子と聖杯堂に来た時ね、あなたを殺したのね、殺されたことは覚えてる?ね?」
「覚えてる、自分が何をしたかは分からないけど……」
あの痛みを伴わない死、その後気付いたたらヘレの家で目が覚め、そのまま暫く怯えながら生活したこと。
「そう、そこは覚えてるのね?自分の姿が獣だった事は知らないのね?皇子を噛みちぎり、全てを飲み込んだ獣のあなたね」
「ん~、あなた達……少し前に私の可愛い獣殺したでしょ? それももしかしたら、あなたみたいに人として再生してるかもしれないわね~、でも大体は腐った肉塊だけどね~」
この女があの事件の全ての元凶、あれが無ければアカツキこんな事にはあんな気持ちにはならなかった。
アカツキは腰にかけた剣を握り、身体の動くままに女に斬りかかるが、軽く弾かれてしまう。
「話を聞いて下さいね?最後まで、お行儀がわる~いですよ」
「どうしてそんな事をした? 意味も無いのに何故俺たちを襲った!」
「ん~姉様、魔女の癖に幸せそうに暮らしてるんですもの~、私の大切なモノを奪った癖に、自分だけのうのうと生活するなんてずるいです」
「それはお前があんな事するからだろ」
「そうかしらね? まぁいいわ、後でゆっくり3人で遊びましょうね」
女は何も無い空間へと消えていく、ヘレの妹、確かにそっくりだが、目的がはっきりしない、もう分からない事だらけ、取り敢えず奥に進みながら落ち着いて考る。
先の見えない廊下を恐る恐る進むと、いつの間にか窓ガラスが全方位に現れ、覗き込むアカツキ。
「なんだろう?」
ガラス越しに見えるのは、右手には大きな剣を持ち、左手には狼の首が掲げられ、その狼の首はまだ息があり、剣でとどめを刺そうとしている。
「これは……?」
アカツキの脳裏に浮かぶ光景は、この先のガラス窓と同じ光景、狼と思われていたものは、姿を獣へと変える。そしてそのまま剣を持った者を噛み殺し、無残に屠る。
「俺だ、この皇子は俺が噛み殺した、そうだ、俺は獣としてこの世界に転生した、この世を終わらせる為に」
アカツキの記憶が戻りはじめると共に、肉体の変化が少しずつ表れる、皮膚は少しずつ黒ずみ、淀んでいく。
それでもアカツキは抗う、気を強く持ち、自身の中に眠る獣としての自分に、負けはしないと。
「この先を、俺が思うこの先を、それを見るまでは、このままでいたい、ヘレさん」
この先の光景、アカツキがヘレの家で目が覚めた時、唯一覚えていた光景、それすら今は本当かどうか分からない、この窓から見える物は真実かまやかしか、それを確かめる為に次の窓を目指す。
「アカツキ……来たのね、ここまで」




