1章-20 胎動する世界
聖杯堂、中に入った者は、深紅の聖杯だけを記憶し戻ってくる。中に入ったまま出てこない者、必然と内部の構造や、中にある物は謎に包まれている。祝福の血を持たない者は、入口を見つける事さえできない、そんな場所にヘレを向かわせようとするこの国の王は、何を思うのだろう。
ヘレは誰とも目線を合わせようとしない、何か恐ろしい覚悟を決めかねているのだろうか、ヘレがこれほど恐れるようなとてつもない何か。
そこにシリーが開口する、誰か途中まで一緒に連れて行くかい?と
「必要ありません、独りで十分です」
ヘレの口調は強くそれでいて冷徹。
「俺が行ってもいいですか?」
手を上げたのはアカツキ、それに対してヘレは嬉しい気持ちと、またアカツキを殺してしまうのでは無いか? と言う不安矛盾がせめぎ合うヘレの答えは。
「独りでいいです」
ヘレは気持ちを圧し殺し、一人で行く決意、もし一緒に行くならアカツキには全てを打ち明けなければならない、その結果アカツキが離れていってしまってもだ。
「ヘレさん……何で……途中まで行くだけだろ? それなら!」
アカツキは当然、一緒に行ってもいいと言ってくれると確信していた、だがヘレはアカツキの同行を許してはくれないが、それでも同行しようとするアカツキに、ヘレは怒号を飛ばす。
「貴方は来なくていい、何も知らなくていい! ここで大人しく誰かを護るために、訓練に励んでいればいい」
突き放す、これでもかというほど拒絶する。
その場を終息させたのはゴルド、多くの人を正しい道に導いてきたゴルドは。
「アカツキ、君にはヘレ殿が無事に帰ってこれる場所を護る使命があるのでは無いですか?」
そうかもしれない、ヘレの足手まといになるかもしれない、帰る場所があっても、ヘレが帰ってこなかったら意味ないじゃ無いかと。
王もルルゥも頷き、アンコでさえ口を開こうとしない。
「話を戻しても大丈夫ですか?」
シリーが話を続けようと切り出し、王の方に目を配る。
「では、ヘレ一人に行ってもらうことにしようかのう、また詳細は後で伝えよう」
「ルルゥとゴルドとアカツキはお留守番なのれす!」
「では時間がありませんが、各自準備等あると思いますので整い次第実行に移して下さい、遅くとも3日後には行動を。」
「それでグラス王、どういう事でしょうか?いきなり私に聖杯堂に行けとは」
「フム……儂の見間違いで、おとぎ話であって欲しいんじゃが、始まりの魔女……よく皆は、始祖の魔女と呼んどるな、これはお主も知っておろう?」
「ええ、勿論文献などは残って無いですが、この世界では有名なお話ですね、国を繁栄させ、また別の時代では混沌の渦に巻き込むと」
「お主はそれだけしか知らんのか?それ以上に知ってることは無いのかのう?」
ヘレの目は少しずつ変化していく、何を知り得た……この王は。
「知らぬのなら、話そうかのう、まずはこの国の事じゃ、この国がここまで大きくなったのは、魔女の祝福じゃ、そうでなければ、この辺境の大地でこれほどまで栄えるのは、どのような国力があっても無理じゃ、皆は初代の国王を神のように崇めるが、そうでは無い、これは国王にならなければ知り得ない事じゃ」
まだこれだけでは判断出来かねる、ヘレは膝にのせた手で拳をつくる。
「それとじゃ、ソルを覚えておるかな?」
「はい、シリーの弟ですね」
「そうじゃ、そのソルが残していった物の中に、魔女の事について熱心に調べた者があってな、その内容はある日を境に突然進展するんじゃ、それがこの部分じゃ」
グラス王は、ソルの記録をヘレに見せると床に脳漿ををぶちまけ命を終える、返り血はヘレの周囲で時が止まるように、空中で凝固し床に落ちる、その記録には……
聖杯堂は魔女の記憶、全ての記憶、この世界が出来る前からの記憶、始祖の魔女の名はエレナ・リジエタンそしてカレナ・リジエタン2人の魔女……
鈍い王の肢体が転げ落ちる音と、ヘレの瘴気が漏れ、ゴルドが部屋に飛び込んでくる。
「この状況……一体……」
そこにヘレの姿は無く、記録紙も無い、あるのはまだ新鮮な王の無残な肉塊。
そしてまた、アンコも使獣ブランからの知らせ受け、ライドウに告げる。
「ライドウ、ゴメンよ、どうやら非常にまずい事になちゃったみたいなんだ、ヘレが呼んでるからちょっと行ってくるよー」
「そうですか、では私も役目を果たすとします」
ライドウもまた秘密を抱える者、王の命令を果たすのか、それとも。
アカツキはなぜこの会議が行われたのか、未だに謎で悶々とした気持ちのまま自室に案内され、眠くなるまでずっと天井を見つめる。
アカツキは眠れずにいた、暗い部屋で周りの音も無く、自分の脈を打つ音だけで、仰向けの体勢から身体を起こし、窓を開け夜風にあたり外を走るヘレの姿を捉える。
「何処に行くんだろう、まさか……今から聖杯堂に行くっていうんじゃ」
アカツキは一応身支度を整え、用意されていたまだ着慣れていない、プレートの甲冑をぎこちなく身につけヘレを追いかけようとするがヘレの姿は闇に消える、何かに呑まれるように、聖杯堂までは恐ろしい程距離がある、馬車でも1、2時間はかかるだろう、どうにも追いつけそうにない。
「何処に行くんですか?こんな夜中に」
「ライドウ先生、先生こそ、こんな所で何してるんです?ヘレさんと何か関係があるんですか?」
「貴方も聖杯堂に行きたいのかな? と」
やっぱりヘレは聖杯堂に向かった、一つ疑問なのは、なぜライドウはわかるのだろう、なぜ都合良くここにいるのだろう。
「案内しますよ聖杯堂の入口まで」




