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異世界転生。同居人は私を殺した魔女でした  作者: ロイ
第1章~誰のために
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1章-17 白い虎の世界


 アカツキがユリと出会った頃、ヘレは王が待つ貧民街の一角。

 貧民街にある居住区は立て付けも悪く、不揃いな素材で出来た家が密集し並ぶ。その密集した家は小屋と呼ぶ方が相応しく、劣化し人の気配さえもかき消してしまいそう。

 その居住区の中心に高い塀に囲まれた一軒の平屋、塀の中では貧民街とは思えないほど綺麗な身なりの子供達が、無邪気に遊んでいる。物珍しいのか、風景を写生する子供、そのすぐ傍で秘密の基地を作り大人達から隠れ遊ぶ子。


 ゴルドに案内された一軒の家は、他の家に比べいくらか修繕してあるが、それでもまだ小屋と呼ぶ方が相応しい。数枚の板で補強された扉を空けヘレは中に入ると、室内は外観とは違い清潔に保たれ、重厚な扉の脇に給仕服のメイドが一人。

 そのメイドは人形のように微動だにせず、ヘレが近付くと何も言わず、扉に両手を掛け重そうに開き、どうぞと頭を垂れ扉の先に手を差し出す。


 その先には王の姿、簡素な椅子に座り横を向き、銀で出来た写真立てをテーブルに置き立ち上がる。


 「おお、ヘレ、よく来てくれた」


 「お久しぶりです、グラス王、何十年ぶりでしょうか、お年を召されたようですね、先代の王にそっくりですよ」


 グラス王は杖をつき立ちあがり、その反対の手には杖が握られておりグリップの部分には氷晶が装飾されている。


「ヘレはあまり変わらんのう、学院卒業して以来か? さぁ座って」


 何十年ぶりかに再会したヘレの容姿に、戸惑うこと無く、グラス王はゆっくりと腰をかける。


 「こんな所まで呼びたてて申し訳ない、本来ならば私の方から足を運ばなければならぬ立場だが、この老体ではここまで来るのがやっとじゃ、はっはっは」


 王は自分を卑下するが、まだまだ若い者には負けんよと言いたげに笑う。


 「いいえ、お気になさらず、お呼びがかかれば、こちらのから伺いますわ。それに城を抜けて、ここまで来られる位ですからお元気でしょう? ふふ」


ヘレも、王の負けん気が強い事をよく知っており。昔を思い出したように笑う。


 「はっはっは、冗談をいうな、もう限界じゃ若い頃に比べたら……のう」


「グラス?」


 ヘレは懐かしさと、今にもため息の出そうな王をみて、グラス王とは呼ばず額縁を覗き込む。

 そこには白と赤を基調したアカデミックドレスを着た3人とヘレ、若き日のグラス王と、もう2人はよく似た顔のホビット、丸みのある顔で、鼻の頭は黒く双子。

 そして黒を基調とし、髪の毛を下ろしたヘレのドレス姿が描かれている。


 「懐かしいわね、ソルとシリーはまだこの街に?」


 「元気にしとるよシリーは、まだあの頃と変わらぬ姿じゃ、ホビットとはええのう、年をとってもたいして容姿が変わらん、今は城内専属の医師じゃよ。ソルは、学院卒業後しばらくしたらどこかに行きおったわ、全くどこにおるかわからんが、元気にしとるじゃろ」


 「ソルもシリーも相変わらずね……ふ、ふふふ」


 ヘレは思い出し笑いを我慢するが、つい噴き出してしまう、それにつられグラス王も笑う。ひと仕切り昔の話に花をさかせ、暫くすると王が口を開く。


 「ヘレよ、昔を思い出すのも良いが、本題に入ってもよいか?」


 ヘレは王の口調に、不穏な空気を感じリラックスした体勢を正す。王は困った顔でヘレに話を切り出す。


「13日ほど前に、一人の女中が病気でなその後、病が蔓延し始めたのじゃ。最初は酷くうなされ、じきに固まったように動かなくなり命を失うのじゃ、原因も全く分からん」


 王は淡々とヘレに現状を伝える。


「そうなのですか……シリーはなんと?」


「診て貰ったんじゃが……頭を抱えるばかりで、部屋から出てこん。治療も出来ず、原因も判明出来ないとなれば、この国には他に当てになる医師はおらん。もしこれが他国に漏れてしまえば……」


 王の額から汗は滲み、眉の横を抜け頬を伝わり、顎に留まる。

王は更に老けたのでは無いだろうか? と思わせるほど憔悴し始めている。


 「それで私を? シリーで判明しないのであれば、私にも分からないと思いますが……」


 「そうかもしれんが、1度診て貰いたいのじゃ、それと……もう一つあるんじゃ、どちらかと言えば、そちらが本題なのじゃが」


 王は難しい顔でそのまま目を瞑り言い出しにくそうに、更に脂汗をかきながら歯を食いしばり、目を開けると―――


 「もう1度、この国を救って欲しいのじゃ、魔女の力で」


 その言葉は、ヘレの呼吸を止める。

ヘレの周囲は白く覆われ、次第に朱く赤黒く次第に暗闇へと誘う、ヘレの目は見開き、眼球はプルプルと揺れ充血していく。独りぼっちのこの空間に、ざわざわとした雑音と、暗闇からの無数の視線に頭を抱え、怒りか、または恐怖かそれとも慶びか……怒濤、感情が怒濤のように押し寄せる。痛い、熱い、苦しい、寂しい、暗い、寒い、助けて―――と


 「このような病事が街にまで伝わってしまえば、この国はおしまいじゃ、この街には余所から来た行商などが伝って、他国にも知れ渡るじゃろう」


 ヘレの耳には、それ以降の王の言葉は聞こえない、聞こうとしない、聞けない。


「そうなった時は、この国は他国に侵略され、何十代もつづいた国はおしまいじゃ」


 王は自分を、自国の民を思う気持ち、一国の主として国の秩序と繁栄を願う、それがヘレを苦しめたとしても。


 「出来ません……グラス王」


 何かに耐えるように、王からの願いを拒否するヘレ、それでも尚、王はヘレに懇願する。


「それではこの国は滅ぶ、名家の者は虐げられ、このスラムに住む人々はどこぞの者に売られる」


 ヘレの時間は、また止まり動かず、周囲の時間だけが虚しく経過する。心の闇に包まれたままのヘレは俯く。


 「あるいは周辺の村の者も、あの聖杯堂で拾った少年も」


 王の言葉に顔を上げ、目の色が変わる、次の瞬間にヘレは……


 王の背後、ヘレの手にはどこからともなく手にした大鎌、王の首には、いつでも首を刎ねる準備の出来た、湾曲した刃が冷気を帯び、肉を欲するように、妖しく光る。


 「何故、その事を知っているのですか、王」


 ヘレの瞳の奥で、パチパチと氷結晶がぶつかり合い火花が散っているようにも見える。


 「事と次第によってはこのまま首を刎ねる、たとえ王であろうと、共に学んだ学友だとしても、全部吐いてもらう」


ヘレが尋問しようとした瞬間。王の首はぐにゃりと、粘土のように折れ、後頭部が背に付き、ヘレを凝視し眼球が回り、王は砕け散り、手に持っていた杖は乾いた音を立てる。


「これは……グラス王……それとも」


 砕けた王の破片は溶け始め、じわりと床に広がる、もしこの砕けた王が本物のグラス王なら、このの部屋にはヘレだけ、疑いはヘレにしか向けられない、非常にまずい状況。


「“ブラン"」


 ヘレは片手で抱き抱えられる位、白い虎の使魔、“ブラン"を出し、床に転がる杖を咥えさせる。


 「さぁ、ちゃんと連れてってねグラス王の下へ、後でシャリシャリ用意してあげるからね」


 ブランの頭をなで、お使いに行く子供の母親のように見送る。


が……ブランは既に溶けきり、水溜まりの出来た、王の水面で止まる。


 「やはり本物の王なのね……」


 どうするか悩むヘレを急かすように重厚な扉に手を掛ける音。その音と共にブランは床を頭で突き破り、床下へと進む。頭で床をつきやぶるブランに対して、もう少し上品に壊せ無いかしらとヘレは呟き、床下で眠る王を見つけ無数のブランを両手から出す。


 床下の湿った土の上で、うつ伏せになり気持ちよく寝ている王、無数のブランが部屋に運ぶ部屋へと運ぶ。

 先程のメイドが部屋に入るなり、溢れかえったブランが王を襲っているように見えたのか、腰の後ろから短剣を二本取りだし構える。


 「危害はありません、収めて下さい」


 ヘレは至って冷静、メイドも王の様子を確認すると短剣をしまい。王を別の部屋に運び、メイドは王の傍でまた人形のように凜と立ち続ける。


 日も暮れかけようとしているが、ゴルドはまだ帰って来ておらず。ヘレの歩く音が室内に響き、外の楽しげな声が木造で建てられた小屋をフィルターにして、薄らと聞こえる。

 その声の中には沢山の子供に交じり聞き覚えのある声も。


 「先生これなーに」


 「これはアズライトと言って、細かく粉砕し、染料になるんですよ、今あの子が使ってる塗料にも使われてるね」


 銀の刺繍が施されている緑のアオザイに身を纏い、ライドウが子供の旺盛な探究心に応える。

 手には他にもいくつか鉱物を持ち、夕日の光が鉱石を照らす。


 ヘレは外に出てライドウに声をかける。

 無事に再会できたことに安心し、ライドウもまたヘレの無事に喜ぶが、音沙汰無しで迷惑をかけたと、ばつの悪い顔で小さく手を振る。


 「あの後、アンコに捜索させたのですが、痕跡も途中で無くなってしまい。無事を祈るだけでした……心配しましたよ」


 ヘレの心配は、ライドウの身を案じるともう一つの意味をなす。

 先程の王との会話、自分の秘密を知っているただ一人の存在、万が一その事が他者に漏れようものなら。


しかしヘレにはライドウを殺す消す事は出来ない。


 こちらもまたライドウの秘密を知っているから。



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