1章ー16 裁ち上がる世界
アカツキの告解が終わり、懺悔室を出ると数分前まで色鮮やかな輝きを放ったいたステンドグラスが、教会内部の明かりに照らされ、また違った色彩を見せる。
アカツキは、ゴルドと共に教会の椅子に座り、ゴルドは口を開く。
「どうですか今の気分は? 誰かに打ち明け、吐き出す事で少しは気持ちが整理できたのでは無いですか?」
ゴルドは彫像に視線を向けながら、アカツキに聞く、アカツキもまた彫像に視線を向ける。
「会って間もない人にこんな所見られて、聴かれて、恥ずかしいですけど、色々とすっきりしました」
上手く言葉にできず前に進もうとするアカツキだが、以前に比べ、しっかりとした声色ではっきりと喋る。具体的な事はまだ決まってはいないが、自分がこの世界にいる理由を探そうとしている。
「それなら良かった、では私にその後の良い考えがあります」
ゴルドがニヤリと口角をあげアカツキに耳打ちする。
「私の―――」
教会の三角屋根は夕日染まり、天を漂う朱い雲は、西へと流れていく、何かに誘われるように。
アカツキは軽やかに教会をでる。ここに来るまでアカツキにはこの街はまるで色のない世界に見え、すれ違う人々が皆悩みなど無いと思っていた。しかし今のアカツキは街全てが自分を歓迎し、迎え入れてくれていると自然に笑みがこぼれる。
気持ち悪いほど顔をニヤつかせ、ゴルドの馬車に向い、足を掛けようとした時、馬車の後方から幼く震えながらも力の入った声が聞こえてくる。
「おいっっ……そこの罪人ン、今更悔い改めたとしても遅いィン、ヘラヘラしてっ……ボスゥの敵ィ覚悟!」
背後には幼女一人、親の敵を討ちに来たような形相で、身の丈よりも2倍程の両手剣を持ち、震えながらアカツキに向かってくる。
「よーじょぉぉぉ! オイオイ俺が何をした、始めてお目に掛かりますけどォ!」
突然の出来事に驚き慌てるが、よくよく見ると、幼女の歩みは遅く、アカツキの所まで来る間に、お茶を一杯嗜めそうなほど遅い、そのゆっくりとした挙動にアカツキもため息がでる。
「はぁー……アブナイヨー、子供がそんなの持っちゃ」
幼女の剣を軽々取り上げ、バタバタと足を前後に動かしながら剣ごと上昇する幼女に、アカツキはあやすように問いかける。
「お嬢ちゃんどうしたの? お兄さんまぁっっぁあったく身に覚えが無いンだけど?どこからキタノカナー?」
「兄の!弟の!ボスの敵なのれす!」
「敵なのれす? ふーん……いるだろ、オーイっ」
大体予想は付いたので、アカツキは自信溢れる声量でルルゥを呼ぶ、ルルゥが要らない事教え込んだのだろうと、幼女を馬車の脇に置きルルゥを呼ぶ。
「人質とは卑怯なのれす、ラルゥを離すのれす」
馬車の帆の上で、ルルゥが闇夜に照らされ、直剣を両手で持ち額に鍔をあてる、鼻血を隠すように。
「ボスゥ……」
幼女は戦隊物のヒーローを見るように、そちらに視線を向ける。
ルルゥは瞑っていた目を見開き、アカツキの頭上に飛び上がりアカツキを狙う。アカツキは既の所で、鋭い刃をよけルルゥの剣は地面に突き刺さる。
「アブねぇよ! まず説明……えっええっ~」
地面から湾曲した剣が飛び出し、咄嗟にラルゥを抱き抱え、剣は腹部をかすめ衣服を引っ掛けると、宙に浮くアカツキ。
「今なのれす! ラルゥこっちに来るのれす!リルゥ、レルゥ、ロルゥ! ラルゥを救出するのれす!」
「イエッサー!」
馬車の下から幼い姿が3体、額に怪我をしたリルゥ、鼻に詰め物
に血のにじんだレルゥ、全身を包帯でぐるぐる巻きのロルゥ。
ルルゥと同じ顔立ちの3体が、アカツキに飛びつきラルゥをアカツキから解放しようと奮闘する。
リルゥは賢く足をつかみ、レルゥはアカツキの髪を力強くつかみ、ロルゥはその場から動かない、素早く動けない。
「何をしてるのれすラルゥ! 早く……」
ラルゥはアカツキに抱きつくように、しがみついたまま倖せに蕩けそうな顔である。
「ラルゥ! どうしたのれす……?」
「ボスゥ……暖かいのですぅアカツキの胸はとっても温かくて、いいにほいなのですぅ……離れたくないのですぅ」
ラルゥは自分を庇ったアカツキの胸で、生まればかりの赤子のような顔を胸にこすりつけ、離れようとしない。
「ぁぁぁああああああああ! とうとう身内に手を出したのれす! 猫娘しかり人妻しかり、なんと貞操のないやつ! アカツキは幼女にまで手を出すのれす!」
ルルゥの剣幕に、何の事だと頭を傾けるアカツキ。
怒濤の半日を送ったというのに、どこに恨む要素があるのだろうか、むしろ監視していたはずのルルゥは、殺意むき出しでアカツキを襲う。
『獣が街中に出るわけないにゃ……』
「おまえか、よくもやってくれたな」
ラルゥを盾にしリルレロルゥに迫るアカツキ。
「ひ……卑怯なのれす……」
いい加減にしなさいと、ゴルドがゆらりとルルゥの背後に現れる。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※
馬車は北側の街を抜け、アカツキ一行は西側にあるゴルドの屋敷を目指す、風景は次第に緑が多くなり、空気も澄み、心地良い風が膚をなで過ぎ去る。車内は険悪なムードだったが、ゴルドはそれでいいと馬車を走らせる。
「てことは路地で獣に襲われたのも、変なばぁさんの宗教的な勧誘も、全部お前の仕業か」
「そうなのれす、極秘任務はハラハラして楽しかったのれす」
「回りくどい事せずに、説明してくれたら教会に行ったのに」
「それじゃだめなのれす、アカツキが自分で決めて、自分で向かわなければ何も意味ないのれす」
報酬のおやつを片手にルルゥは、もっともだという台詞を吐くが、まだ仕事は終わっていないと無いとおやつを取り上げ、ルルゥは涙ぐむ。
「おやつ食べる前に、この俺の身体に吸い付くようにくっついてる幼女をなんとかしてくれ!」
ラルゥは離れない、がっしりと、アカツキの身体に融合してしまいそうな程に。
そしてラルゥはとろりとした声で離れない意思を示す。
「ラルゥはもう癒着してしまったのぉ、ご飯も、寝るときもずっと暖かいのでぇこのままなのですぅ~」
アカツキは……
あきらめたっ!!!!!
さぁ、もうすぐ到着しますよ―――
今にも滑り落ちてきそうな程のお月様が、アカツキ達の道を照らす。




