1章ー12 変わらない世界
空腹感に襲われ、麻袋を払いのけ目を覚ます。
「アカツキおはよう」
ヘレはアカツキに優しく囁く。
アカツキは辺りを確認し逃げ場を探すが、逃げ場など無く、背後は積み上げられた煉瓦。四方八方に藁が山積みの状態で独りになれる場所も見つからず、観念したようにヘレの顔に目をやり、瞬きの隙に目をそらし一呼吸おいて応える。
「おはよう……マス」
久しぶりに発声したアカツキの声は、静寂の中ヘレの鼓膜にしっかりと届く。
「お昼はここに置いておくわ、いきなり食べるとお腹に悪いからスープだけ置いておくね。私は今からゴルドさんと出かけるから、出来れば、ここで外に出ずに待ってて欲しいな。でもアカツキが望むなら、好きにしてもいいのよ」
「じゃぁ……行ってくるね」
アカツキからの返事は無く、ヘレの白い服、背中部分がのぱっくり空いた後ろ姿を見送る。
部屋の外ではゴルドとヘレ、そしてルルゥの声がする。そしてその声も次第に遠くなり、馬車の走り出す音を最後に、辺りは物音一つしない空間となる。
「どうですか?心配ですか?」
王の待つ場所までの道中、帆馬車でゴルドはヘレに問いかける。
「少し、ほんの少し心配です。でも今日は返事をしてくれましたし、私の顔も見てくれました」
「そうですか、嘔吐物と一緒に悪いものも吐き出したんでしょうかね。心配しないで下さい、彼はきっと自分で立ち上がりますよ」
まだアカツキと出会って、1日と経過していないゴルドに、何が分かるのだろうか? アカツキと何年も一緒に過ごしてきた、ヘレはいつもアカツキを見ていた。
なのに、その根拠のないゴルドの自信はヘレを不安にさせる。
「やっぱり……凄く心配です……」
うつむいたヘレに、ゴルドは何も言わず。
ヘレの頭に手を置き、まるで子供をあやすかのように、頭を撫でた、俯いたヘレは顔を上げ驚いた顔でまた俯き呟く。
「や……やめて下さい、恥ずかしいです」
「貴女も、前を見て下さい」
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独り、スープの入っていた容器を指先で手前に引き寄せ、離し、丸みのある容器は無様な起き上がり小法師。
外出てみようか、いい加減いつまでも鬱ぎ込む訳にもいかないと、そろそろ頭の中も整理できそうだと、アカツキは腰を上げる。
結局元いた世界と変わらないアカツキ、社会人になってからはひどいもので、嫌なことがあったら全部投げ出し、その度に引き篭もって後悔し、落ち着いたらまた新しいことを始める。
その度に死ぬ気で頑張ろう等と、でも結局またいつもと変わらず、無責任に全部なげだして鬱ぎ込む、今回もきっとあの時みたいに、と過去の自分を振り返る。
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マコの予想外の帰宅。
「何で家に居るん?」
「ん?いやぁわかんない」
「わかんないじゃなくて、仕事は? また? 何回同じ事してんの」
「うーんゴメンなんかもう死にたい、辛いわ」
「その言葉お母さんに言ってみ!どんな顔するん!」
「……うん……ゴメン」
「ゴメンじゃ無くて何なん!」
「うん……」
「うんじゃなくて! 何で!」
「……」
「またや、またそうやってなんも喋らん、どこいくん!逃げるん?」
「なぁ、これだけは応えてや、仕事どうするん?来月どうするん?」
「どうしよか……探しとるんやけどここにしようかなって思っとる」
「うん、じゃぁもうそこの会社絶対辞めんといてな、ハイ、もうおしまい、頑張ってな」
「ゴメン……ありがとう」
「いいよ、あれだけ言ってもなんも変わらんし、厳しく言い過ぎたし、暁に厳しく言い過ぎても、余計鬱ぎ込むし、今度からは優しくするよ、だからどっこも行かんとって」
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アカツキの目に涙が滲み、立ちあがりフラフラと出口に向かう。
「やっぱ逃げるんダナー、あたすのおやつ、ゲロまみれにしたままー」
突然の声にアカツキは驚き、ドアの前で振り向かず、立ち止まったまま、何だお前かといった表情でドアに手をかけ。
「こそこそと、見張り役か?悪いけどほっといて」
ルルゥは、敷き詰められた藁が山積みの一画から顔だけを出して。
「そうれす、あたすが監視役のルルゥなのれす、アカツキがどうなろうと知らないのれす、ゴルドに怒られるのやだなのれす、どこに行っても、監視だけはするのれす、アカツキが困っても、獣に襲われてもただ見てるだけなのれす、そう言われたのれす、アカツキに、おやつ買ってもらえといわれたのれす」
「早口で分からないから、いいからほっといてって」
アカツキは自分の言いたいことは言った、後は勝手にしろと外に出る。アカツキは宛もなく、人混みと颯爽とした繁華街に向かおうと小屋をでる。目的も無いのに、あたかもあるかのように進む。
「面倒くさいやつなのれす。ほっとく訳にもいかないのれす。そっちは城外なのれす。おやつがあるのは反対の方向なのれす」
ルルゥは何か思いついたようにいやらしく笑い、何やら合図を送る。
「作戦開始なのれす」




