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PtApsDta  作者: 柚木貴士
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星空、流星、天文台

山頂に到達する頃には日は既に落ち込み、闇は深度を増してゆく。月の光と星の輝きだけが唯一の明かりとして僅かに足元を照らしてくれている。

「こんなに暗くなるまで歩き続けるなんてアンタらしくもない。どうすんのよ、このまま休憩なしで下山でもするつもり?」

サンがややあきれ顔で鞄のふちにぶら下がりながら言った。

「いや、そんなんじゃないよ。サンは昼間寝ていたからわからないのも当然だろうけど、山頂付近にね、気になるものを見つけたのさ」

気になるものねぇ。サンは代り映えしない景色に飽いたのか、着いたら教えてね、とだけ言い残して鞄の中へもぐる。

「ボクの見立てが正しければもう少し。ほら、あった」

山頂は整地されて広場のようになっていた。そこに小さな建物が一つある。

それは太い円柱のような外見に、屋根には巨大なお皿が取り付けられている。パラボラアンテナというものらしい。独特な雰囲気を漂わせる少し変わった建物だ。昼間に見えた気になるものというのはこのアンテナの事だ。


小さい建物だとは思ったが、近くまで寄ってみるとアンテナの巨大さに圧倒される。

建物の壁にはツタがびっしりと這っており、青白い壁が一面緑と化していた。微妙に見えずらいが、おそらくアンテナにまでこのツタは這っているのだろうと予想が付く。随分と年季の入った建物だなと暗がりからも察しが付く。当然ながら人の気配はない。

建物の扉の前に立つと扉はややがたつきながら自動で開いた。

「……驚いた、まだ動力が生きているなんて」

この時代で、なおかつ山頂という辺鄙な環境にありながらこの建物はまだ稼働しているらしい。

僅かながらに玄関灯に光がともり、ボクの足元が照らされる。

中に入ると久しく換気がなされていなかったのか、猛烈な埃くささとかび臭さを覚えた。

人の手が入っていないのは明白だが、古き時代の建物が現在に至るまでその機能を衰えさせていない事実が当時の技術力の高さを物語る。


建物の内部構造はいたってシンプルなものであった。結論から延べるとこの建物には部屋と呼べるものが二部屋しかない。

玄関口を抜けた先にある小部屋と、その先に大広間がひとつあるのみ。

壁掛け照明が輝きだし、大広間を照らし出す。古い型の照明だが、部屋の中を見通すには十分な照度である。

大広間に入ると壁一面本棚で埋め尽くされており、本棚の内容も隙間なく本で埋め尽くされていた。

試しに一冊手にとって読んでみたが、まるで理解できない内容であったし、なにより腐食とカビでそれどころではなかった。

「なんだかすごい難しいことが書いてありそうだけど、全く読めないな」

「ふーん、星のことが書いてあるのね」

いつの間にかサンが鞄から這い出てボクの肩に乗っかって本を眺めていた。

「サン、わかるのかい?」

「多少はね」

サンはふんふんと頷きながら本を読み進めていく。

「なんて書いてあるのか教えてくれるかい?」

「いやよ。書いてあることを読んだだけで理解したわけじゃないもの」

難しい数式が並んでいるだけ、とだけ教えてくれた。

ゆっくりと本を元あった場所に戻す。指を離すとボロリと本が崩れた。もう二度と先の本は読めそうにない。


部屋の中央にはやや大きめの机と椅子があった。どちらもかなりの年代ものであることは間違いない。

机の上には散乱してた紙と小さなパソコンが一台だけ置いてあった。メモは走り書きがほとんどのようだ。

この机の上でこの部屋の本を積み重ね、ひたすらに何かの研究をし続けていたらしい。

詳しく目を凝らしてみていくと星の観察に関する事柄が走り書きのようにひたすらメモされていた。

「どうやら、星。果ては宇宙のことに関しての研究がここでされていたようだね」

サンが机の上に降り立ち、紙を持ち上げてみるがこれまたボロりと崩れ去る。

「取扱注意ね。ろくに手に取って見れたんもんじゃないわ」

パソコンは電源に繋がっているが、電源ボタンを押してもウンともスンともいわない。

アンテナから得た情報をまとめるための機材だったのだろう。半開きになっていた机の引き出しには大量の記録ディスクが入っていた。

無機質な記録ディスクに紛れて異質なものを引き出しの中から見つけた。古い文字で星座表と書かれてあった。

「あ、面白そうな物を見つけたじゃない」

サンの気分が少し高揚する。

ボクはあまり星座には興味があるわけではないのだけれど、この時ばかりは物珍しさで手当たりしだいに星座シートを弄繰り回してみた。

少し夢中になりながら机に腰かけた時、何かを踏みつけたようだ。おかしな感触がしたので変な声を出しそうになったが踏みとどまった。見ると何かのリモコンらしい。散乱した紙隠れていて気が付かなかった。

部屋の壁掛け照明がすべて弱くなり、天井に星空が映し出された。

「プラネタリウム!?素敵じゃない!」

「これは、すごい」

手元の星座表と見比べながら天井に映し出された星空を見比べる。

「あれ、でもおかしいな」

探しても探しても手元の星座表に載っている星座を見つけることはできない。

サンはすぐに気が付いたようだ。

「これ、今の夜空を映し出しているみたいね」

「それにしてもすごく綺麗に映ってるよね」

「そういうフィルターをかけているみたいね。いくら天気が良くてもここまで澄み切った夜空をこのご時世、見ることはできないわ」

ならば、今ボクらは結構貴重なものを見ているのだろう。

改めて星座表と現在の夜空を見比べると、いくつかの星座は崩れていた。

ちなみに星座表の使い方はご丁寧にも裏面に記されていたから、それをよく読むことですぐに使うことができた。


「貴重な体験だし、今日はこの綺麗な星空を見ながら寝ることとしようよ」

「なかなかにロマンチックね。アンタが私の彼氏だったら最高だったのに」

それは皮肉かなにかだろうか、頬の端が軽く吊り上がる。

眠くなるまでサンと星座について語り合った。

ボクは一際大きく、わかりやすいオリオン座が好きになった。

サンにも好きな星座はあるかいと聞いたところ蛇使い座が好きと即答した。あくなき探究心とそれを実現させたたゆまぬ努力が好感に値するとのことらしい。

それからはその星座にまつわる神話講義が延々と始まったのだが、ボクにはいい子守唄になったようだ。


夜空に流星が一つ流れる頃、ボクは眠りについた。

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