海に沈みゆくかつての大都市
大陸の南部。山岳と海沿いに囲まれた港町。
ここに、かつて繁栄を極めた大都市がある。
人口はおよそ300万人程。
都市の外見は中心部と思われる個所には高いビルディングが立ち並び、ビジネス街を思わせる。
その一方、最もにぎわいがあったは町中にいくつか点在している漁港とそこに隣接されている商店街。毎日早朝になると漁師達が朝方にかけて採ってきたばかりの水産品がセリに出される。新鮮な魚介を求めて住民たちがこぞって押し寄せる一大イベントが毎朝開催されているようなものだ。
この大都市は水産品を中心に発展し、各都市や町に向けての搬送ルートや海の開拓などで一躍大きく発展した町の一つだ。
――しかし、その繁栄も最早過去の話。
自慢の水産品を都市や他の街に送り出す輸送車専用のレールが灰色の荒野に伸びている。
綺麗に整備されていたであろう線路の枕木は朽ち果て、レールは地殻変動によって隆起した地面により随所が断線している。
現在となってはその都市がどうなってしまったのかは、誰も知らない。
「朽ち果てた荒野に伸びる古びた線路の上を一人の少年が行く。正確には少年と少女の二人。少年は、しっかりとした足取りで枕木を踏みつける。少女は少年の肩に腰かけてはお気に入りのティーカップで優雅なティータイムを―」
「いったい何のつもりだい?サン」
少年が少々あきれ気味に空に向かって話しかける。少年の目にのみに映る小さな少女、サンはふよふよと少年の目の前を漂う。顔つきはどことなくアレクと似ている。
「古来の書物ではああいった始まり方がテンプレなのよ。少しは勉強になったかしら、アレク」
アレクと呼ばれた少年はやれやれと首を振る。
「サンは元気だな、ほんと」
「あら、あたしはいつでも元気よ。あたしが元気なのはあなたが元気でいるおかげなんだから」
そうだね、と軽く流しながらアレクは一旦足を止め、ポケットから綺麗に畳んであった地図を取り出し広げた。
サンはアレクの肩に腰かけ地図を覗き込む。
地図はひどく痛んでおり、端々が破れている。テープで補強されているが、そのテープ自体もかなり劣化しており、いつ強風であおられたら空中で霧散してもおかしくないといった状態であった。
「えー、っと。あれからかなり歩いたからそろそろ見えて、あ」
言っているそばから突然の横風。地図はアレクが手に持っていた端だけ残して空中高く舞い上がり、散り散りになった。
綺麗に空中に舞い散るさまを見守ったアレクとサンは手元に視線を落とし、地図であった端くれをどうしようかと一瞬迷った。
ぱっと手を開いて端くれを離す。空の藻屑となり消えゆくのを見守らず、アレクは手の埃を叩き落とす。
「ま、もう近いでしょ」
「楽観主義ね」
「気持ちの切り替えが早いといってよ」
それを楽観的というんじゃとサンは言いよどんだがやめた。
日が暮れはじめ、そろそろ野営をしようかと考えたとき、線路の先に岩山が見えてきた。線路は岩山のトンネルに吸い込まれるように続いている。
「あ、アレク。やっと見えてきたわね」
サンがトンネルを指さす。アレクもああと頷きずつもペースを乱さなずにゆっくりとトンネルに向かって歩を進め続ける。トンネルを抜ければかつて繁栄を極めた大都市があるはずだ。
その日はトンネルの前で野営をした。リュックから寝袋と
シートを取り出し、シートの端を岩山に打ち付け固定。組み立て式の細長いパイプでシートを支え簡易的な雨よけを作り、その下に寝袋を敷いた。たき火を炊いて明かりを確保したら今度はリュックから手帳とペンを取り出した。
日記である。
アレクは日々の出来事を日記に記しているのだ。日記帳を開いてペンを構えるのだが、なかなか書き始めない。ペンで頭を掻いて書く内容を考えている。
「ここ何日か線路の上しか歩いていないものね」
サンが指摘する。
日記帳には数ページ前から線路の上を歩いている。昨日より数十キロは歩いた的な内容がしばらく続いている。
「でも、今日は進展があったからね」
久しぶりに線路の上を何キロ歩いた以外のことが書けるとアレクは少し気分が高揚していた。書くことがないのではく、どうやって書いてやろうかと頭の中を整理していたようだ。
ペンが日記帳の上を軽やかに踊る。
パチッと火の粉が跳ね上がる。日記帳を燃やすまいとアレクが面白い格好をしながら日記帳を守り、サンが軽快に笑った。
朝。
辺りは霧に包まれていた。
おそらく日の出とともに目覚ましたアレクは周囲を見渡し、深呼吸を行った。
アレクにとってこれだけで適度な水分補給となる。
「早いわね、アレク」
寝袋からもぞもぞとサンが顔を出す。
「おはよう、サン」
深呼吸を続けながら軽く体操をして体を起こす。辺り一面を覆う霧を見ながらアレクが口を開く。
「昨日まではこんな霧はなかった。いよいよ、都市が近いんだね」
「確か今目指している都市は水産品が名産なんでしょう?つまりは漁港が、海が近い証拠ね」
テキパキと寝袋を片付け、シートを綺麗に畳み、リュックに詰めていく。
あとは背負いだけとなったリュックをすぐわきに置いてここでアレクは朝食として固形食料の封を切る。旅のお供には必須だが味は良くない。あまり味わいたくないのか、固形食糧をぽいっと口の中に放り込む。眼を閉じて軽く眉間にしわを寄せながらよく噛んで飲み込んだ。決して味わって食べたわけではない様子が見て取れる。
「固形食糧を不味そうに食べるコンテストがあったらアレクは優勝するわね」
サンが皮肉を言う。
「そんな不名誉はいらないよ」
たき火の跡を足で散らす。
アレクはリュックを背負い、トンネルへと歩き出した。
「これは、なんと、まぁ」
トンネルはざっと一時間も歩き続ければ出口が見えてきた。
急な光で一瞬目がくらむも、すぐに慣れた。
アレクたちの目の前に広がっていた光景は幻想的かつ荒廃的な情景だった。
「町が、沈んでいる」
町は、町が愛した海によって、その大半を飲み込まれ、海の浸食によって今まさに崩壊を起こしかねない状態にさらされた光景が広がっていた。
「これはひどいわね。地殻変動だか『大破壊』によるものかは知らないけれど、海面が上昇して海沿いにあった町はキレーに飲み込まれてる最中なのね」
サンは淡々と今目の前にある景色を分析した。
―――『大破壊』
過去に起きた国同士の大規模な戦争。
お互い国の存亡をかけて起きたその戦いで、各国は大量殺戮兵器、大量破壊兵器を惜しみなく使用した。
各国の主要都市を除く世界の大半の人口が著しく減少した痛ましい負の歴史である。
結果は凄惨なものであった。大陸はことごとく戦場と化し、一切の例外なく荒廃していったのだ。
この都市も含め、ここら一体の地域も例外ないというわけである。
で、と一区切りをつけたサンはアレクにどうするか判断を仰ぐ。
現状、目下の元大都市は海の浸食に侵され、今にも崩壊を起さんとしてる非常に不安定な状態であることは一目で理解できる。危険なのは子供でも分かることだ。
だが、アレクはわずかな希望を持ち続けた。
「いや、あの町を散策しよう。残されているしょ、人がまだ残っているのかもしれない」
一瞬本音が漏れかけたアレクは遮るように口元に腕を当てた。
日はすでに高く、お昼頃を指していた。アレクの腰に吊るされたポーチ。普段ならここに水筒と固形食糧が常備されているのだが、現状から察するにスカスカのカラカラであろうことは間違いなかった。
サンがそのポーチへ視線を向ける。何かを察したのか何食わぬ顔で「お腹すいたわねぇ」と漏らした。
アレクは何かを訴えるようにサンを睨みつけた。
結論から延べれば、その日、町の中で住民らしき人とは一人も出会わなかった。
ただし、人であったものとは何回も遭遇した。
「ワォ、にぎやかなパーティ会場ね」
おそらく20人以上のかつて人であったものが複数積まれた家屋にアレクたちは足を踏み入れた。
「サン。あまり愉快な状況ではないし、そういった比喩をこの場で用いるのはどうかと思うよ」
アレクが諭す。
「フン。この状況下で火事場泥棒を働いてるアンタに言われたきゃないわよ」
アレクは人であったものが足の踏み場もないほど散らかった家屋の中をズケズケと進み、食料が保管されていそうな棚を物色する。
「人が住む家屋に積まれた食料は人が食さねばならないものだ。ならば、むやみに腐らせてしまうことはその食料を生産した人たちに失礼というものだ」
よくわからない持論を展開したアレクはグゥ~とお腹の虫を唸らせながら訴えた。説得力のかけらもありゃしない。
その後も探索を続けたが都市の半分以上が水没していたために探索できる範囲が限られていた。
しかしそれでも探索していくうちにいくつかの事柄が見えてきた。
都市に立ち並ぶ建築物にはびっしりと海藻が巻き付くような形で張り付いていた。それもここ最近で張り付いたものではないらしい。建築物の上へ向かうにつれて海から延びる海藻はまるで陸に生える植物のように葉を伸ばし、中には花を咲かせるものまであった。また建築物の中に足を踏み入れると、海藻だろうか。根のようなものが所狭しと張り巡らされていた。この根によって建築物の崩壊は免れているのだろう。
そして何よりも不可解なのは、ある程度生活感を残した上に貴重品と思われる品々がほとんど失われていない事だ。
「この町も、どうやら『カタストロフ』の被害にあったようね」
「おそらく、ね。断言はできないけど、この状況から察するに可能性は高いだろうね」
―――『カタストロフ』
前述でも述べた国同士の大規模戦争『大破壊』。
それを終結させるために主要都市の研究グループが考案、開発した特殊兵器であり、ソレによって引き起こされた人的災害の総称である。
被害の状況は様々で強烈な光を放ち、熱戦と衝撃波で辺り一帯を破壊しつされたものもあれば、今回のケースのように人間だけを限定して死滅させてしまうような恐ろしい状況も確認されていたらしい。
以上のような被害状況をまとめて、明らかに不可解な現象はこのカタストロフによるものであるというのが一般的な見解となっている。
目の前の建築物がどれくらい時間が経過しているのかを図るかのようにアレクは壁に手を宛がう。
表面は砂壁のようにざらざらとしている。かなりの年月が経過しているようで、触れた表面から少しずつ崩れているのがわかる。これも長年潮風にさらされたことによる劣化であろう。
しかしまだまだ建造物自体はしっかりしているようで、今ずぐ崩壊するような心配はなさそうだ。
日が山岳に陰り、辺りはゆっくりと町の光度を落としてゆく。
「今日はこの辺りで野営をしよう」
「町中で野営なんて、トホホ」
「仕方ないだろう、都市機能は見ての通り、完全に停止しているんだ。熱いシャワーなんて浴びれないよ」
アレクは自分で言っといて「しまった」と顔をしかめた。
声に出さなければよかったものを、声に出してしまったが故に、熱いお湯が出るシャワーが欲しくなってしまったのだ。すでにここ数日衣服どころか水浴びすらしていない。
ものほしそうに足場近くの水場に目をやる。
「これは海水よ。こんなもので洗濯、もとい水浴びなんてしたら体がしょっぱくなっちゃうわ」
アレクは肩を落とし、今夜の寝床を決める。近場にあった、おそらく町ではごく一般的な家屋を今夜の寝床と定めた。
そして、中に入っていく様子を物陰から見つめる白い影に気付くことはなかった。
サンはふと後ろを振り向く。何かの視線を感じたかのようだが、気のせいと思いアレクの後を追った。
翌日。
日はすでに高くにのぼっていた。
アレクたちは昨日と同様町の探索を続けていた。
しかし探せば探すほど町に住人がいることは絶望的に思えるほど人の気配が感じられず、おまけに食料も大半が生ものであったり、数年の保存がきくような缶詰や長期保存がきくような食料などは見当たらなかった。
いろんな意味で落胆しながらアレクは町を探索し続けるが、サンはちらちらと後ろを気にしながらアレクの横を漂う。
さすがに普段と異なる様子にアレクが気が付く。
「サン。さっきから何を気にしているんだい?」
「いや、ね。ずっと誰かにつけられているみたいで気になるのよ」
「でも、人であればボクが気づかないはずないし」
サンが向く方向にアレクも視線を送る。
誰もいないが―――何かいるようだ。
雨も降っていない、風も吹いていない静寂。
周囲のビルや建造物を鏡のように映し出す水面に、波紋が一つ。
建物の陰から白い影が覗いていた。
白いワンピースに真っ白で長い髪。
人間離れした美しいその少女の姿を見てアレクは納得した。
「リアホロ(固有立体映像)、だ」
―――『固有立体映像』
リアル・ホログアラム。略してリアホロと称される。
大破壊以前では非常にポピュラーな技術の一つであった。
大昔から存在していた立体映像に実体を持たせることで、広告やスポーツ競技におけるシミュレーション。娯楽やネットアイドルなど幅広く活用されていた。
しかし実体を持って投影される映像は自律で活動することはできず、必ず人間が操作するか、もしくは簡易的なAIをプログラミングしてやらねばならない。
すなわち、この沈みゆく町でリアル・ホログラムに遭遇したということは、少なくとも人がいるということになることに他ならなかった。
少女は自分の存在が知られたと気が付いたとたん踵を返すようにその場から走り去るように逃げ出した。
まるで自分自身の意思を持つかのように。
一瞬、アレクは夢でも見たのかのように我が目を疑った。
しかし、自分の足元まで広がる波紋は本物であることがアレクの足を突き動かし、少女を追った。
白いワンピースをはためかせ、長い髪をなびかせながら、少女は逃走する。
「―――待てっ…!」
アレクの息が上がる。
それもそうだ。最後のまともな食事はこの町に入る前の携帯食料を一袋食べたきりだ。水もまともに飲んでいない。
体内に残されたエネルギーはそう多く残っていないこの状況で住民が残されているかもしれないわずかな可能性にかけ全力疾走しているのだから。
「ねえアレク」
サンが問いかける。
はげしく
「―――っ!?」
アレクにはあまり余裕がない様子。目線だけで返事をする。
「アレクの執念からすればあのリアホロには追い付けるだろうけどさ、そのあとはどうする気?」
「そんなの決まっているっ!」
アレクはそれ以上は話さなかった。いや、話せなかったというべきか。
少女の影を追った末に行き着いた場所は、町の中央部にあるひと際高いビルの真下だった。
ビルの脇道に少女はゆっくりと歩いて入っていく。
脇道には黒い布のようなもので間切りされており、簡単な入り口となっていた。
「あれ、誘っているのかしらね」
「さあ、どうだ、ろう」
アレクは激しく息を切らしていたが、ものの数秒で息を整え冷静さを取り戻す。
「リアホロの行動も気になるけど、こんなビルの脇道にわざわざ入っていく理由がわからない。とりあえず要注意ってところかな」
アレクは後ろへ手をまわし、ちょうど腰のあたりに備えてある大型のサバイバルナイフに軽く手を添える。
全長は約380mm。光らないマッド仕様のブレードに糸巻き状のハンドル。ハンドル内には専用のサバイバルキッドが収納できるようになっており、アレクはこのナイフをたき火にくべる薪を調達する際に使用したり、野生動物を狩猟する際に使用したりしている。
あくまで日常的に使用する日常用のナイフなので、あまり用途以外の使用を避けてはいるのだが、まれに自分の身を守るために自分の身ぐるみを剥ごうとする盗賊たちを退けたりする際にも使用している。
人の気配がないか。警戒心を過敏に尖らせ、脇道へ侵入していく。
黒い布をくぐるとアレクはすぐさま異変に気が付いた。
この町に入り、建物の中にあった死体はほぼすべてが白骨化しており、中には風化してしまっているものもあった。それはすでに何年何十年と月日がたった証であったが、この脇道は違った。
明らかに、生の臭いが立ち込めていた。
腐敗臭である。
臭いの元を探るべく、アレクは歩を進める。
通路の奥には例の少女が立っている。
今度は少女は逃げずにいた。
無言のまま目下の布が被せられた何かを見ている。
アレクは布を少しだけめくり、中を確認して、すぐに戻した。
まだ腐敗して間もない、原形を留めたままの男性の死体であった。
「マスターカラノ伝言ガゴザイマス」
不意に少女が口を開いた。
警戒心を過敏に尖らせていたままであったアレクは急な音声に思わず腰のナイフを抜きかける。しかし、リアホロの少女から発せられた声とわかるとナイフを元の位置まで戻した。
「この男性は君のマスターかい?」
少女は簡潔に「ハイ」とだけ答えた。
「伝言と言われてもボクはこの人にあったのは多分今回が初めてだと思うけど、それでもいいの?」
「マスターハ自分ガ死ンダ後、コノ町ニ訪レタモノニ自分ノメッセージヲ伝エルヨウニと仰ラレマシタ」
アレクは少し考えて、サンに視線を流す。
サンは鼻をつまんであからさまに気持ち悪そうな表情を浮かべていた。アイコンタクトで「今は放っといて」と言っているようだ。
「わかった。聞こう」
それを聞いた少女は少し嬉しそうにマスターのメッセージを再生を始めた。
アレクは昨日の朝方に町全体を見渡せたトンネルの出口近辺にいた。
アレクの背後には携帯食料と水、燃料を満載した小型の一人乗りバギーがアイドリングしながら停車していた。バギーのタイヤはキャタピラに改造してあり、それに伴いエンジンも大きいものに交換されていた。
「しかし助かったわ。これでしばらくはアレクの死にそうな顔を拝むこともなくなりそうね」
サンが大量の携帯食料を指を折りながら数えていた。
「それにしてもなんか悪かったわね」
「リアホロの子にたいしてかい?」
アレクは町全体を見渡しながら、リアルホログラムの少女と別れた町の中央部分を見続けていた。
リアルホログラムの少女がアレクに対して伝えたマスターの伝言は簡潔なものであった。
『自分はこの町の最後の住人である。自分の不注意で足を怪我してしまい、動くに動けなくなってしまった。
私はこの町が大好きだ。それゆえに浸食と崩壊の危機にさらされ続けるこの町が心配でしょうがない。このメッセージを聞いたものはどうかこの町の行く末を見守ってもらいたい。この願いが聞き入れられないのであれば私の後ろに街の中を移動するに使用していた水陸両用の小型バギーと数か月分の水と食料がある。腐ってしまう前にどうか消費してやってくれ』
というものであった。
アレクは食料の調達と町の住民がいれば近辺の町の情報などがもらえないかと立ち寄っただけなので、ここに留まるわけにはいかないと、遺体となった男性に向けて返答した。そしてバギーと水、食料だけを受け取る形となった。
「アレクー。はやく移動しましょうよう」
サンが運転席にまたがってハンドルを切るまねごとをする。足も手も届いていないのだが、本人はその気らしい。
アレクが「ああ」と返事をしようとしたそのとき。
「!?」
地面が大きく縦に揺れた。
かなり大きな地震らしく、とてもではないが立ってはいられなかった。
地鳴りの音が轟音のように辺り一帯に響き渡る。
町のビルもこの地震には耐えられずに一つ、二つと崩壊していく。
しばらくして地震は止んだ。
そして地震の影響で海が激しく荒れだし、巨大な津波が町全体を飲み込むまでにそう時間はかからなかった。
アレクがいた場所は町よりも高台に位置していたために津波の影響はほとんど受けなかったが、もう少し標高が低ければアレク達も危うかったであろう高さである。
津波によって完全消滅する町をアレクはその目に焼き付けるかのように、決して視線を外すことはしなかった。
日はすでに傾いていた。
アレクは町中心部があった場所に向けて会釈をした。
バギーに跨り、トンネルを抜けていく。




