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洋上のストラテジー  作者: 獅子宮タケ
第1章 Z作戦
18/22

第二節 夜間強襲攻撃-01

 一九四一年十二月八日 午後五時 フレンチ・フリゲート環礁

 第一艦隊旗艦 戦艦大和


 夕暮が迫る北西ハワイ諸島最大の環礁にはなだらかな時間が流れていた。昼頃に上空を占拠していた厚い雷雲は降雨というプロセスを経て自らが創りだした高気圧と東方から押し寄せた強い偏西風によってとっくの昔に姿を消していた。北太平洋はやはり冬季特有の険しい表情を浮かべていたが礁湖の中まではその波動は達しない。

 そんな穏やかな時間が環礁には流れていたが、その地を占拠した上に即席前線拠点とした帝國海軍の艨艟達と彼女達を操る将兵達は全くその時間を享受することは叶わなかった。

 フレンチ・フリゲート環礁に傷ついた身体を浮かべた第一艦隊は損傷箇所の応急処置に追われ、また後方支援を担当するフ号船団と名付けられた一連の非戦闘艦艇群は第一艦隊への給油作業や応急処置の支援に忙殺されている。米太平洋艦隊主力と壮絶なる砲戦を制した第一戦隊の損害はやはり甚大であり、最も被害を被った【信濃】は被弾や機構的故障が合わさった結果として全ての主砲火力を最終的に失っていた。とはいえ、【信濃】を含めた第一戦隊の面々に喫水線下の損害が皆無であることは幸いであった。海上火点としての機能は著しく落ちていたが、船としての機能は無事だったのは十分に防御されている大型艦船を艦砲により撃沈することがいかに難しいかを物語っている。

 艦上構造物が軒並み瓦礫と化したのにも関わらず辛うじて生き延び、そして日の出の旗という手枷を嵌められた彼女達にも同じことがいえた。【最上】に付き従う駆逐艦に囲まれ怯える彼女達に太平洋の覇者としての気概はどこにも見当たらない。二隻の【サウスダコタ級戦艦】――【サウスダコタ】と【ノースカロライナ】は退艦した本来の持主と入れ替わるように土足で上がり込んだ海軍陸戦隊特別警備隊――一九三〇年代に国際情勢の緊迫化による非平和的平時(グレーゾーン)の増加に対応するために組織された艦載陸戦隊と彼らに護衛された各艦から抽出した応急修理要員に占拠されていたのだ。彼らの活躍により自沈を企てていた【サウスダコタ】と重要書類の焼却のみ施された後に放置されていた【ノースカロライナ】の二人は幸か不幸か一命を取り留め、浸水により幾分重くなっていたものの第一戦隊の戦艦群がフレンチ・フリゲート環礁まで引きずり込んでいたのだ。行く行くは日本本土まで回航されることになるが現在の状態で冬の太平洋横断は困難と判断された彼女達は礁湖の奥に取り敢えず押し込まれている。彼女達の航海はしばらくお預けとなるが、その艦内では屍となった米兵の搬出と重要書類等の探索が慌ただしく続けられている。なお、彼女達の第二砲塔天蓋には既に大きな日の丸が描かれていた。空襲時に良い的になるのは事実だったが、友軍誤射という誰も報われない喜劇を避けるために必要な処置であった。もっとも、日の丸を描かれた彼女達にとってそれを友軍とすることは承服できないだろうが。


 このように各艦では慌ただしい夕暮れ時を迎えていたが、艦内の喧騒とは無縁の空間が存在した。旗艦【大和】にある戦闘艦橋直下の作戦室。そこで聞こえるものといえば、遠くで発せられる怒号と潮騒の音だけだった。

「高嶋、戻りました。」

 作戦室の扉を開きながら姿を現した高嶋を北海は座ったまま出迎えた。

「おはよう、参謀長。よく眠れた?」

「寝付きは悪かったですが、ぐっすり眠れました。」

 彼がしばらく休息を取らざるを得なかったのは命令故だった。米太平洋艦隊との戦闘終了後、しばらくして北海は自室に戻っていたが、それは仮眠をとるためだった。「眠いと仕事したくない」普段からそれがモットーの彼は二時間の睡眠を経て航海艦橋に姿を見せると、すぐに高嶋に仮眠してくることを命令したのであった。北海は高嶋に言っていた。「休めるうちに休むのも戦争のうち」と。高嶋は最初それを軽く拒絶したものの、北海が他の幕僚らにも交代で仮眠をとるように命じたところ、あっさりと自室に戻っていた。高嶋は仮眠命令に察したのだ。今、寝なければ明日の朝日を臨むまで寝床に戻れないことを。

「それで司令。やりますか?」

「ああ。作戦は完遂される。」

 高嶋の問いに北海は手元にある手帳を閉じながら立ち上がると作戦室の一画に広がるハワイ諸島の地図に取り付き、秩序なく散乱していた兵力の存在を示す赤青の駒を慣れた手つきで並べていった。なお、赤の駒は敵軍、青の駒は友軍を示している。

「参謀長が仮眠に入ってから、しばらくのこと。」

 北海は戦艦を模した真っ青な駒を突きながら続けた。

「三川戦隊が敵艦隊と接敵した。時間は一三五〇。」

 三川戦隊は第六戦隊の【赤城】及び【天城】、第八戦隊の【比叡】・【霧島】を中核とする部隊であったが、その彼女らの所在を示す青色の駒の横に北海が広大な飛行甲板を有する赤色の駒を置くと高嶋は鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきになった。北海はそれ見ながら得意げな表情でそれを説明した。彼も最初それを聞いた時に同じ表情を浮かべたことを棚に上げてだが。

「敵艦隊は空母一、甲巡二。それと駆逐艦多数。北東から進行してきた。」

「まさか。」

 高嶋は簡潔に心情を表した。空母存在の兆候があることは三川戦隊から第二艦隊を通した連絡により知っていた。しかし、北海ら第一艦隊司令部は比較的天候が安定しているハワイ南方海域を遊弋しているのではないかと推測していた。空母の存在意義たる艦上航空戦力を運用するためにはハワイ北方海域はあまりにも不適な天候だった。

「事実は小説より奇なりというとこかな。明確な戦線がない海上ならではの出来事とは言えるが。」

 北海がそう言うと高嶋は「はぁ」と生返事を返した。どうやら、彼にとってまだ理解し難いらしい。当然の反応だった。空母艦隊が向こうから戦艦部隊――しかもよりによって快速巡戦部隊に突っ込んでくることなど各艦長からすれば鴨が鍋を背負って歩いて来ることと同意義だった。

「連中が何でそんなところにいたのかは知らないが、ともかく接敵した。」

 北海は話を進めると赤色の空母を真珠湾に進ませた。そこには沿岸砲陣地に守られた太平洋艦隊残存勢力が屯している。

「逃げられたのですか。」

 高嶋は信じられないと語気を強めながら言った。北海はそれを宥めるように答えた。

「死兵は何よりも強いことを参謀長も知っているだろ。」


 北海の言葉どおり米艦隊の奮戦――特に戦艦四隻に対して真っ向から突撃した二隻の米甲巡の戦いは凄まじいものであった。三川戦隊と遭遇してしまったのは空母【エンタープライズ】を中核に甲巡二、駆逐艦六により構成されたハルゼー中将率いる第八任務部隊だった。彼女達は日本軍の襲撃が予期されたウエーク島への海兵隊戦闘機緊急輸送任務を終え、母港への帰路の途中で母港の惨事を知ったのであった。

 直ちにハルゼーは真珠湾への帰投を中止し『ビックE』の格納庫に連絡用として残されていたごく少数の[SDB]を発艦させ索敵を試みた。しかし星条旗にも等しく海と空は不機嫌な表情を浮かべていた。天候不良のため発艦できないことを知ったハルゼーは仕方なしに真珠湾の鼻先――カウアイ海峡を通過して比較的穏やかなハワイ南方へ向かうように命じたのだった。そして、彼らは予期せぬ交戦を迎えたのだ。当初、友軍艦隊であると位置的にもっともな推測を抱いた彼らだったが、それは挨拶とばかりに押し寄せた数多の大口径弾により全否定されたのだった。

 ハルゼーは現れた艦影が敵艦隊であると判断すると即座に【エンタープライズ】に真珠湾への逃走を命じていた。全合衆国海軍の空母をその指揮下に置く彼は『ビックE』の存在価値を正しく判断していた。合衆国が有する空母のうち太平洋方面で活動するのは三隻――【エンタープライズ】、【イントレピッド】、そして【タイコンデロガ】。いずれも【ヨークタウン級】の三隻であったが、そのうち【タイコンデロガ】はサンディエゴのドックで整備を受けており実質戦力としてカウントできなかった。【イントレピッド】は稼動状態にあったが、残念ながら彼女は同じくサンディエゴで海兵隊向けの戦闘機を満載にして出港を待っている状態ですぐに戦力として計上できない。

 なお戦争の足音が聞こえていたにも関わらず【エンタープライズ】や【イントレピッド】に運送屋まがいの任務を授けたのは米太平洋艦隊司令長官のキンメル大将だった。戦争開始が確定的となり、各艦の戦備が整った後に太平洋を進撃しようと考えていた彼は日本軍の侵攻を受けるだろうウェーク島に可能な限り増援を送らなければならないと考えていたのだ。無論、ハルゼーは空母を航空機輸送船としか考えていないその命令に不服であったが。

 つまりハワイ周辺にあり、艦載機さえ積めばいつでも海上航空戦力となりうるのは『ビックE』ただ一人だけであったのだ。彼女は何がなんでも絶対に守り通さねばならなかった。

 それ故、ハルゼーはそれが非情な命令であることを知りつつも麾下の二隻の重巡――【チェスター】・【ソルトレイクシティ】に三十ノット近くで迫り来る日本戦艦四隻への突撃を命じるしかなかった。二隻はそれぞれ【ペンサコラ級重巡】・【ノーザンプトン級重巡】の次女であり、十インチ(二十五・四センチ)砲をそれぞれ十門及び九門を有する歴然とした準主力艦であったものの、所詮は近代的な装甲巡洋艦でしかなかった。言うまでもなく主要装甲帯を撃ち抜くことは余程接近しない限り不可能であった。なお、合衆国海軍では魚雷の誘爆を危険視し、全ての甲巡に雷装を施していない。

 とはいえ、彼女達は躊躇なく突撃した。二隻の艦長もやはり『ビックE』の戦略的価値を知っていたし、少しでも時間を稼ぐことができるならば守るべき旗艦は日本戦艦を振りきれると確信していた。【エンタープライズ】の最大戦速は三十二・五ノットだが、艦載機もほぼ零に近く、燃料も少ない現状では公試以上の高速が出るはずだった。加えて、風が強いのが気がかりだが機転の効く駆逐艦は『ビックE』を包むように煙幕を展開し始めていた。彼女達が突撃さえすれば愛しの『ビックE』は真珠湾に逃げ込める。

 彼女達の突撃は結局のところ数え切れない程の至近弾により身体を刻まれながら、最終的に大口径弾の直撃を受けて爆発四散するに至るが、彼女らの猛射は三川少将が座乗する【赤城】の副砲の幾つかを大破させた他に【天城】の艦尾航空艤装を徹底的に破壊し、【エンタープライズ】が逃走する時間を稼ぐことに成功したのだった。


「赤城も天城も戦闘及び航行に支障なし。三川戦隊は戦闘後に後退が指示された。」

 北海が青い駒を気持ち西へ動かすと高嶋は北海がそうしたように真珠湾に逃げ込んだ空母を人差し指で突きながら言った。

「こいつは沈めたかったですね。」

 北海は高嶋が指で突く空母をじっと見つめた。その瞳には敵意はない。例えるならば、普段は明けない引き出しから旧友の写真を見つけたような昔懐かしむ色があった。

「無線傍受班はこいつがエンタープライズじゃないかと言っていたが。」

「エンタープライズ……。韓国戦争やらレディバード号戦争で内地にも顔を見せていた奴ですな。あっ、司令は……。」

 高島は先ほどの発言を思い出し、バツが悪そうに押し黙った。北海はキングジョージ六世記念戴冠観艦式の後に【金剛】へ艦長として異動していたが、彼女が極東国際連合部隊――中国に利害関係を持つ非共産国家による自国民脱出支援等を任務とした人道保護部隊の一員であった時に同連合部隊ではないものの間接的に第三国人の避難船を護衛する体裁になっていた『ビックE』へ中国赤色航空隊が攻撃を仕掛けた時、北海は赤星を身に纏った攻撃編隊――その高い練度から乗員は設立間もない中国赤色軍人ではないことが明白に予見された相手に対空砲火を盛大に贈るという騒ぎを起こした張本人であったからだ。なお当時、帝國は中華人民共和国と交戦状態にない。この事件は後に日中が開戦したことにより事の正否は有耶無耶にされていた。

「ビックEがお気に入りだから中国軍機に弓引いた訳じゃないし、スペインでも英独が共に対空戦していたじゃないか。まぁ、お気に入りであることは確かだけど。だけど……。」

 北海は高島の顔を覗きながら笑顔で言った。

「交戦状態にならないと、鹵獲して我が物にできないだろ?」

 高島は思わず破顔し、それに安心した北海は話を進めた。

「一四三〇。三川戦隊が敵の偵察機に発見されて、一四四〇に攻撃機が来襲。損害はなし。今回は水平爆撃だからよかったけど、魚雷積んできたら何隻か沈んでいたかもね。」

「相手はA-20ですか?」

 高嶋は中国大陸でありふれた存在となった双発中型攻撃機の名を上げた。帝國軍が平凡だが信頼に足る中型爆撃機と評するそれは対中共戦線で一年半前頃から盛んに投入されている機体だった。実戦の空を飛ぶこの機体の情報は帝國軍もそれなりに入手していた。

「大半はそうだった。ただ少数だが四発機も混ざっていたようで。」

 北海の言葉に高嶋は苦い表情を浮かべながら唸った。

「B-17ですか。厄介ですな。まさかハワイにもいるとは。」

 二人はこの機影の外郭を朧気ながら知っていた。米軍は泥沼化する対中共戦で航続距離や爆弾搭載量でそれまでの爆撃機とは一線を画するこの機体を使ってソ連から東トルキスタン社会主義人民共和国を経て中華人民共和国に至る長大な陸上補給ルートを焼き払おうと画策していた。もっとも機体そのものが高価であったため配備が順調に進まず、作戦は延期されたという情報を帝國軍は小耳に掴んでいたが、贅沢に予算が付く状況になれば配備の障害は何もない。

 北海は「さて」と、話を区切りながらハワイ西方海域にあった駒を島嶼部に近づけた。それは先程とは色違いである空母を示すものだった。

「一四五〇。一航艦が攻撃隊を発艦させた。連中は護衛の零戦で三川戦隊を空襲した敵編隊を食い散らかした後に爆撃機と雷撃機を突撃させた。目標は手はず通り。」

 そう言いながら北海は真珠湾西方に君臨していた二つの赤い凸型の駒を指で弾き倒した。側面に書かれた「十六インチ」の文字が天を仰ぐ。それは戦艦乗りにとって忌まわしき存在であったが、彼は力尽きた彼らに同情するかのようにどこか物悲しい色を浮かべて言った。

「バレッタ要塞、ウィーバ要塞とも主要機能の喪失を確認。……何だか、やるせないね。」

 帝國海軍水上艦隊がハワイを攻撃するにあたり最も目の敵にした相手の最期を北海はそう表現した。それら二つは真珠湾防衛を司る要塞群を成す一部であった。バレッタ要塞はオアフ島南岸のカポレイという風光明媚な海辺のサトウキビ畑の中に鎮座し、またウィーバ要塞はパールハーバー湾口西側に立ち塞がる沿岸重砲陣地であったが、主兵装として前者は【サウスダコタ級戦艦】が携えた火砲の未改修型である五十口径[Mark.2]十六インチ砲単装二基を、後者は生粋の沿岸砲である五十口径[M1919]十六インチ砲を同じく単装二基を帯していた。海軍砲術界隈ではこれら要塞の存在によりオアフ島への艦砲射撃は自殺行為に等しいと論じられてきた。だが、これらの要塞には重大な問題があった。どちらの要塞も二十年代なかばの計画に従い建設されたが、砲を経空脅威から守護する掩体壕が作られていなかったのである。それ故、真珠湾を守る強大なる番人として信じられてきた二つの要塞は空から降り注ぐ青帯を巻いた二十五番陸用爆弾により崩壊したのだった。

「たった一度の爆撃で木っ端微塵になるなんて、何のための十六インチかわかんねぇよ。」

 北海は純粋に砲術科てっぽうやとして今や瓦礫の中に埋もれる鉄屑でしかない要塞砲を哀れんだ。もちろん破壊に成功できた余裕から言える台詞だったが。

「でも戦艦で撃ちあうわけにもいきません。」

 高嶋は北海に苦笑いを浮かべながら適当に相槌を打った。彼は横倒しになった二つの要塞を示す駒からそう離れていない位置にある別の同じ形の駒を指しながら続ける。

「けど、そんなに撃ちあいたいなら、まだまだ残っていますよ。」

 高嶋はオアフ島南岸にずらりと並ぶ「十四吋」や「十二吋」と書かれた赤い凸型の駒へ視線を送った。真珠湾から夷狄を打ち払うべく立ちはだかる沿岸要塞の最も長い牙はいとも簡単に欠けた。だが、それはあくまでもオアフ島要塞群の一部でしかない。ホノルル南東にあり十四インチ砲単装二基を持つデ・ルーシー要塞、そしてパールハーバー湾口東側に十二インチ砲単装四基を揃えたカメハメハ要塞が未だに健在だった。これらの要塞は掩体壕を設けており、その事実を知っていた帝國海軍は当初より攻撃目標からそれらを外していた。砲台攻撃を命じられた[九九式艦爆]のパイロット達は無防備な十六インチ砲を言うまでもなく第一優先目標としていたが、第二優先目標としては北部に点在する六インチ砲台の撃破を厳命されていた。それは上陸への布石であった。

「おいおい、勘弁してくれ。」

 北海は高嶋の冗談に苦笑いを浮かべながら報告を続けた。

「一五二〇。第二波攻撃隊が発進。目標は第一波攻撃隊と変わらず。両攻撃隊の戦果は十六インチ要塞砲、撃破四。その他砲台多数を撃破。また全ての主要艦艇の大破を確認。この中には空母一を含む。他、駆逐艦多数を撃破。」

「エンタープライズも仕留めましたか。大戦果ですな。」

 高嶋はそう言いながら真珠湾に逃げ込んでいた赤い空母の駒を始めとして幾つかの駒を戦闘海域から遠く離れた太平洋の一画にかき集めた。だが、続く北海の口調は重い。

「確かに大戦果だが……。犠牲が多すぎた。攻撃隊の未帰還機は四割を超えた。」

 それは戦慄を禁じ得ない数字だった。奇襲となった早朝の第一次攻撃において未帰還率は約五パーセント。機体数にして十機にも満たない数字だった。続く第二次攻撃は強襲攻撃となり損害率は上がるのは当然のことだったが、その四倍の未帰還機が発生したことは衝撃的だった。なお、この数値以上に損傷を受けて再出撃が困難になった機体は存在しているはずだった。高嶋が恐ろしい結論を考えついたとき、北海は静かに続けた。

「――敵はもっと死んだよ。ともあれ、今は彼らが開いた血路を進むしかない。」

 北海は青色の戦艦を示す駒をオアフ島北方に進め、加えて輸送船の形をした同じく青色の駒をその背後に並べた。二波にわたる攻撃隊が軒並み元より数が揃っていない北部の砲台をあらかた破壊した今となっては、彼らの上陸を押し留める障壁は存在しない。

「明日の朝までに主要防衛線を抜く。」

 作戦室の窓から西方の水平線上に沈む夕日の陽光が差し込んでいた。第二艦隊及び第三艦隊による艦砲射撃は日没後一八〇〇時開始の予定であった。


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