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科学の極み! (連載版)  作者: 芝高ゆかや
3章 迷い人の探し方
21/60

21 妖精サフィルスの家

 キリュウ達が裏から庭園に入った途端、庭園を自由に飛び回って何かキラキラしたものを運んでいた妖精達が、動きを止め、一斉に視線をこちらに向けた。すごい注目されている。


「……こ、こんにちは」


 キリュウが、戸惑いながら小声で挨拶した。

 すると、妖精達が目を丸くして、一斉に飛び立ち、キリュウ達の前からいなくなった。


「…………あれ?」


「キリュウ、今のは駄目です。我々妖精は、見知らぬヒトを受け付けない性質がありますから、私が紹介してから挨拶しないと……。まぁ、こうなっては今さらですが……」


 トアリーの後ろにいた妖精ルナエアリが、キリュウの前に飛んで来て注意した。


「キリュウ……これからどうする? 妖精達に逃げられてしまっては、聞きたいことも聞けない」


 妖精達がまったくいない庭園を見回して、トアリーがキリュウに聞いた。早速、行方不明調査の基本である聞き込みができなくなり、キリュウのせいで行き詰まってしまった。


「うーん、ルナエアリ、何かみんなと話せるようになるいい方法は?」


「……そうですねぇ、こういう状況だと、我々妖精で一番年上のサフィルスから紹介してもらうのが一番いい方法かもしれません。サフィルスは、人間との接触に慣れてますから……ただ、サフィルスには問題が……」


 キリュウが聞くと、妖精ルナエアリが困った表情になった。


「どういう問題?」


「半年前から、部屋に引きこもって出てこないんです……」


「引きこもりの妖精っ!?」


 引きこもりの妖精なんて、はじめて聞くキリュウは、思わず聞き返した。


「……本当に部屋から出てこないだけなのか? 亡くなっているという可能性は?」


 トアリーが、妖精ルナエアリに聞くと、妖精ルナエアリは首を横に振り、否定した。


「妖精は、死ぬとき羽根が体から離れます。そして浮遊力の補助となっている羽根に付着した鱗粉(りんぷん)が舞い上がって、家の窓やドアのスキマから空に向かって飛んでいきます。サフィルスのときは、おそらく青白色の粉が空に舞い上がるはずですが、見ていないので、たぶん生きてます」


「うーん、まぁ、生きてるならいいんだけど……半年も姿を見ないとなると、いずれにしても、一度状況を確認した方がいいんじゃないか?」


 キリュウは、とりあえず妖精サフィルスの生存確認と、早い段階での接触を試みることにした。


「そうですか?では、サフィルスについては、お二人にお任せします。お二人がこれから宿泊する場所にサフィルスもいますので、そちらに行きましょう」


 妖精ルナエアリの話の様子では、妖精サフィルスのもとを誰も訪ねたりせず、放っておいているようだった。


 妖精ルナエアリに連れられて庭園の東側へと歩いて行くと、画家クロード・モネの庭に建っているような家が見えてきた。


「あの家がそうです。家の玄関を入ると、ホールになってます。左右に螺旋階段があって、そこから2階に行けます。2階の2部屋を好きに使ってください。それで、サフィルスの部屋ですが……1階の玄関の真正面にある青い飾り石が扉についている部屋になります」


「ルナエアリ、どうもありがとう」


 妖精ルナエアリの説明を聞き、キリュウとトアリーはお礼を言って妖精ルナエアリと別れた。


「……キリュウ、もしやサフィルスに早速このまま会いに行くつもりなのか?」


 トアリーはあからさまにキリュウの行動にセーブをかけようとしている。


「ん? そのつもりだけど……」


「キリュウ、ここはまずは家の状況を確認してからの方がいいと思う。サフィルスの部屋で何かあったとき対応しやすいし」


「あぁ、確かにそうだね」


 キリュウは、トアリーの意見を聞き、まずは家の中を見て回ることにした。

 妖精ルナエアリから特に注意事項がなかったため、しばらくここで生活するということもあり、7部屋あるうち妖精サフィルスの部屋以外を、キリュウ達は、とりあえず順に見て回った。

 まず2階の部屋だが、どちらとも同じ作りで、カントリー風のゲストルームとなっており、ベッドやサイドテーブル、テーブルセットにクローゼット等、生活するうえで困らないよう、一通り揃っていた。

 1階の玄関に入って左手前の方は、応接間になっていた。その隣の部屋は、ダイニングキッチンだ。真ん中の部屋は、妖精サフィルスの部屋なので、その部屋へは入らず、その右側の部屋をのぞいたところ、書斎だった。

 マホガニーの机の回りを囲むように本が床に直に置かれ、机の上には、無造作に走り書きのメモや設計図が拡げっぱなしで放置されている。

 キリュウは、設計図を見て、考え込んだ。


「キリュウ、どうした?」


「いや、この設計図……というか、この機械の外見、オレ、どっかで見たことあるんだ。たぶん、こういうのがある場所といったら、研究所だと思うんだけど、すぐに思い出せない」


 トアリーがキリュウの手元を覗き込んだ。距離がかなり近いせいで、ふんわりと爽やかなトアリーの髪の香りがキリュウの鼻先をかすめる。好きな香りだ。


「……キリュウ、ここに冷却装置と書いてあるが、これはヒントにならないか?」


 トアリーが熱心に設計図を眺めて、キリュウに聞くが、香りを楽しんでいるキリュウの耳には入らない。


「……キリュウ?」


「あぁ、ごめん。考え事してた。……なんだっけ?」


 キリュウは慌てて誤魔化した。好きな子の髪の毛の匂いを嗅いで楽しむとか、変態扱いされかねない。


「まったく……ここだが、冷却装置があるのと、本体にそれが接続されている」


「うん、あとここに……脳波や心拍数、呼吸状態、栄養状態を測定する機械があるね。ってことは、……『コールドスリープ』のための装置か」


「『コールドスリープ』?」


「低温状態で、長期間人体を老化させずに保存するための機械だよ。だけど、なんのために? 妖精には関係なさそうな機械だけど……」


 キリュウ達は疑問だらけの状態で書斎部屋をあとにした。

 最後の部屋である、玄関から見て右手前の部屋は、バスルームだった。とりあえず、しばらく使用してなかったようなので、掃除した。

 風呂掃除が終わった頃、窓から射し込む光も弱くなり、暗くなってきたため、実際に行動するのは明日以降となった。

 夕飯は、食品庫から馴染み深い食材を選び、キリュウはサラダとスープを担当し、トアリーは、ロールキャベツを担当して料理した。サラダ、ロールキャベツ入りのスープ、パンという至ってシンプルなものだが、在り合わせで作ったものとしては、満足のいくものだった。

 夕食をすませたあと、トアリーが風呂に入っている間、キリュウは書斎にこもっていた。まだ気になることがあったからだ。


 ――コールドスリープの装置の大きさから、妖精ではなく、人間用と推察されるが……なんかひっかかる


 設計図を何枚かめくり、眺めていると、あることに気づいた。上半身の部分が人間の骨格に対し、幅広いのだ。


 ――やはり人間用ではないのか?


「うーん、ますます、わかんねぇー!」


 キリュウが頭をかき、椅子の背もたれに背中を預けた。そこへ、カチャと書斎のドアが開いた。トアリーだ。


「キリュウ、まだ調べてたのか? 明日、早くに起きるんだから、そろそろ寝ないと……」


「うん、わかってる。これで、終わりにするよ」


「おやすみ」


 トアリーが静かに書斎の扉を閉めると、今度は、走り書きのメモを見つめて考え込んだ。



 ――共に生き、共に終えるために……か

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