20 妖精の国 ブルーロック
服を着替えたキリュウとトアリーは、堀田に連れられて、科学技術特区研究所の「ブルーロック」の研究室に入った。
研究室の奥に扉があり、セキュリティがいくつもかかった扉を何ヵ所か通り抜け、やっとエアーシャワーの前室までやってきた。
「ホワイトレイクと随分違うんだね」
霧生が前を歩く堀田に思ったことを言うと、
「そうね、『ホワイトレイク』と違って、『ブルーロック』において、こちらの人間は、いつでも出入り自由だから……」
「人間は?」
「ええ、人間だけね。妖精は、『物理的封じ込め』のシステムで管理されてるので、こちらには出てこれないわ。妖精は全員、『ブルーロック』に閉じ込められてる。まぁ、『ホワイトレイク』も50年に一度、1人しか出てこれないから、似たようなものよね……」
「……でも、かなり管理システムが違う。『物理的封じ込め』の管理システムを採用してるなんて、妖精達がバイオハザードとして扱われてるってことだよな?」
「そうね、いろいろと裏事情があるのよ」
堀田は、あまりその話に触れて欲しくなさそうだった。
「じゃあ、ここで私は別れるわ。もう『ブルーロック』チームの松尾さんと伊能君は中にいるから、よろしくね! あと、2人とも無茶しないようにね」
「はーい、大丈夫だよ。調査だけだし!」
堀田の心配をよそに、キリュウが軽く返事した。
「わかった。キリュウが暴走し始めたら、私が……止められるかわかりませんが、止める努力はしてみます」
「うーん、不安だわ……。永久ちゃん、そこは『止めます』と断言して欲しいところなんだけどね」
トアリーの言葉に苦笑する堀田であった。
*****
エアーシャワーを抜けると、壁が一面機械のスイッチだらけの部屋だった。床には、ブルーロックと思われる森の景色が広がっている。透明な床なので踏み抜きそうで怖い。
「2人ともこっちに来て!」
松尾が部屋の中心に立っていて、床下の景色を見て驚いているキリュウ達に声をかけた。
声をかけられ、キリュウが松尾を見ると、普通の服装だった。
「なんか……、2人ともスゴい格好だね。まぁ、『ブルーロック』の雰囲気に合ってるよ!」
スイッチを手早く操作し、中心にやってきた伊能が、キリュウ達の格好を見てそう言った。
「…………」
「ありがとうございます」
トアリーは、久しぶりにホワイトレイクの服を身に付けたので、嬉しそうにお礼を言った。一方、キリュウは、不本意そうに無言だった。
「それじゃあ動くから、準備はいいね?」
伊能が確認し、それに3人が頷いた。
伊能が、壁面のセンサーに向かって手でサインを送る。
グンッ と、床ごと降下しはじめた。
回りは七色の半透明なシールドで囲まれている。
地面が近くなると、透明な床は、ゆっくりと動き、やがて止まった。 4人が透明な床から降り、湖の畔に向かった。
畔には、キリュウの目線の高さに小さな人影があった。よく見ると、光を浴び煌めいている羽根が背中にある。
――マジでいた! 妖精!!
キリュウは思わず凝視した。
「……2人とも、クチを閉じて! 行きますよ?」
そう松尾に言われ、キリュウが横のトアリーを見ると、すぐに口を閉じ、頷いていた。
*****
「久しぶりです、ルナエアリ! 今日は紹介したい人達がいます」
「こんにちは、松尾さん、伊能さん、そして……はじめまして、そちらのお二人」
長いライムグリーンの髪に同じ目の色の妖精が胸に手をあて挨拶をした。
「はじめまして、キリュウです。こちらは、トアリーです」
「はじめまして、トアリーです」
キリュウとトアリーが妖精ルナエアリに挨拶をした。
「ルナエアリは、『ブルーロック』の案内役を勤めている妖精です。ところで、ルナエアリ……お願いがあるのですが」
松尾がキリュウ達に簡潔に説明した後、ルナエアリの方を向いた。
「お願い……ですか?」
「はい、この2人は今度『ブルーロック』の担当になった新人です。今回は、『ブルーロック』について、より深く知識を得ることを目的とした研修で、妖精が暮らしている庭園に連れて行き、何日間か滞在させて欲しいのです」
「……わかりました」
松尾の言葉を聞き、一瞬、ルナエアリは怪訝な表情を浮かべたが、すぐに無表情になり、快諾した。
「それでは、私達もこれで帰るので、ルナエアリ、あとはお願いします」
伊能が妖精ルナエアリに頭を下げた後、松尾と伊能の2人は、シールドを通り、透明な床の上に立った。
2人が上空へと床ごと上がって行き、見えなくなった。
「それでは、キリュウ、トアリー、庭園に行きましょう」
妖精ルナエアリが、そう告げると、畔に沿って建っている舟屋に向かったのだった。
*****
舟屋には、2艇の木製ボートがあった。ボートの内側には、なぜか草花がみっちり生えており、ボートの縁や外側まで草花で覆われていた。
「キリュウ、トアリー、ボートを湖の入口まで運んだら、オールを持って乗ってください」
キリュウ達は、妖精ルナエアリの指示に従い、オールを持ってボートに張り切って乗り込んだ。
「じゃあ、オールを使って、漕いでください」
そう言うと、妖精ルナエアリは、行き先進行方向を示すかのように船頭に立った。2人が頷き、オールを湖の水面下に勢いよく入れた。絶妙なオールさばきで、水しぶきが光る。
「「「…………」」」
一生懸命にキリュウ達は、オールを使って漕いでいるが、さっきから同じ場所に滞在している。
「……なんで進まないんだ? このボート、座礁してんじゃね?」
「……そうだな、キリュウの言う通りだ。降りて確認しよう」
あまりにも前に進まないため、ボートのせいではないかと疑う2人に対し、
「座礁してないです。2人がボートを漕ぐのが下手なだけです」
妖精ルナエアリが呆れたように言った。
「まったく、なぜそんなに下手なのですか? 庭園にちっともたどり着けませんよ!?」
「ルナエアリ……、ボート以外で行く方法は?」
キリュウは、早くもボートで行く方法は諦め、サッサと違う方法を模索しはじめた。
「ボートで庭園に行くのが一番早いのですが……、こんな風では遠回りした方が早そうですね。2人とも、こちらへ!」
妖精ルナエアリが、手招きしながら、2人を連れて舟屋から森の奥に入って行った。
*****
しばらく森の中を歩くと、草花に覆われた洞窟とおぼしきものが見えてきた。洞窟の出入口は、あまり利用者がいないためか、ツタで塞がっている。
キリュウとトアリーがツタを避けて洞窟内に入った。薄暗いが、妖精ルナエアリの羽根が放つ淡い七色の光を頼りに、壁づたいに歩いていると、次第に眼が薄暗さに慣れてきた。
しばらくすると、ポッカリと開いた空間に出た。空気がヒンヤリしている。
妖精ルナエアリが飛び回り、進む道を探しているようだった。飛び回ってくれたおかげで、キリュウ達は、この空間には、回りに大小様々な鍾乳石の柱が乱立していることがわかった。
「ルナエアリの光に照らされて、柱がとてもキレイ……幻想的だ」
トアリーが妖精ルナエアリの飛び回っていることは気にせず、ウットリしている。
キリュウは、そうだね、と相づちを打ちつつ、辺りを凝視し、道を探したが、見つからない。
「ルナエアリ! ここは行き止まりっぽいから、探すより戻った方がいい」
この空間に入ってずっと飛び回っている妖精ルナエアリに向かって、キリュウが呼び掛けた。
「……そのようですね、どうやら途中で道を間違えたようです。すみませんが、来た道を戻りましょう」
久しぶりに使う道のせいか、妖精ルナエアリの記憶は曖昧になっているようだった。
「……いや、ボートを漕げなかった私達が悪いので、お気になさらずに」
トアリーが申し訳なさそうにフォローを入れた。
それからキリュウ達は、来た道を戻り、妖精ルナエアリの案内のもと歩き続けて、庭園のちょうど裏にある洞窟の出入口に出たのだった。




