対照的なふたり
「――それで、恋人になったんです!」
ぱあっと花が咲くみたいな笑顔だった。
クルルは思わず笑う。
「へぇ。ついに?」
王都のカフェテラス。
セシリアは両手でカップを持ちながら、嬉しそうに頷いた。
「はい……!」
頬が赤い。
隠す気がまるでない。
クルルはそんな彼女を眺めながら、紅茶を口に運ぶ。
「で、ルカスはなんて?」
「その……恋人になってほしい、って」
「うわ、ちゃんと言ったんだ」
「クルル様っ」
からかわれたと思ったのか、セシリアが抗議するように声を上げる。
けれど嬉しさを隠しきれていない。
その様子にクルルは肩を竦めた。
「いや、でもよかったじゃん。あの堅物がそこまで言うなんて、相当だよ」
「……そう、でしょうか」
「そうだよ」
セシリアは照れたように笑う。
春の日差しの中で、彼女は本当に幸せそうだった。
恋をして、愛されて、未来を信じている顔。
クルルはぼんやり思う。
ルカスはきっと、この笑顔を守りたいのだろう。
それくらい、セシリアは眩しかった。
数日後。
王都では大規模な舞踏会が開かれていた。
煌びやかなシャンデリア。
流れる音楽。笑い声。
華やかな空間の中心にいたのは、やはりルカスとセシリアだった。
「セシリア」
ルカスが自然に手を差し出す。
セシリアは嬉しそうにその手を取った。
エスコートされながら歩く姿は、誰が見てもお似合いだった。
「まぁ……素敵」
「本当に絵になるわ」
周囲から感嘆の声が漏れる。
セシリアは少し恥ずかしそうにしながらも、幸せを隠しきれていない。
今日の彼女は特に輝いて見えた。
恋人として隣に立つことが嬉しくてたまらないのだろう。
ルカスの方も、以前よりずっと柔らかな表情をしている。
まるで世界に他の誰もいないみたいに、セシリアだけを見ていた。
その光景を。
離れた場所からシャルロットは見ていた。
「……」
薄紫のドレス。
完璧に整えられた姿。
けれど。
以前より明らかに痩せていた。
頬が少しこけている。
目元にも薄く疲れが滲んでいた。
きっと普通の人間なら気づかない程度。
でも社交界の人間はそういう変化に敏感だ。
「あら、シャルロット様……少しお痩せになった?」
「お疲れなのかしら」
そんな囁きが聞こえる。
シャルロットは笑顔を崩さない。
「最近忙しくて」
さらりと返す。
でも指先は冷えていた。
視線が勝手にルカスを追う。
セシリアへ向ける優しい眼差し。
自然に触れる手。
柔らかな笑み。
全部、自分には向けられなかったものだ。
胸の奥がじわじわ痛む。
でも目を逸らせない。
――いつか。
もしかしたら。
そんな期待が、まだ心のどこかに残っていた。
舞踏会の端。
その全てをクルルは静かに眺めていた。
幸せの中心にいるセシリア。
そして。
少しずつ壊れていくシャルロット。
あまりにも対照的だった。
その様子をクルルは会場の壁際から眺めていた。
「……はぁ」
クルルは小さく息を吐く。
セシリアは悪くない。
ルカスもきっと本気なのだろう。
だからこそ残酷だった。
十年想い続けた相手に、自分には向けられなかった顔を見せられる。
それがどれほど苦しいか。
クルルには想像できてしまった。
その時。
シャルロットがふらりとよろめく。
クルルの目が見開かれた。
だがシャルロットはすぐ体勢を立て直し、何事もなかったように微笑む。
――無理をしている。
誰が見てもわかった。
なのに。
ルカスは気づかない。
いや。
気づいていても、もう見ないのかもしれない。
クルルは視線を伏せる。
胸の奥に、妙な苛立ちが残った。




