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前世から結ばれていた二人のせいで悪役になった令嬢は、記憶喪失になって救われる  作者: 予炉
第一章 捨てられた悪役令嬢は、誰にも救われない
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春の日差しの中で

 春の陽気が、柔らかく野原を包んでいた。

王都から少し離れた丘陵地帯。

青空の下、風が花を揺らしている。


「わぁ……!」


 セシリアは目を輝かせながら辺りを見回した。


「すごい、綺麗……!」


淡いクリーム色のワンピースの裾を揺らしながら、小さく駆け出す。

その後ろを、ルカスがゆっくり歩いていた。


「転ぶなよ」

「転びません!」


 即答した次の瞬間。


「きゃっ」


小石につまずき、セシリアの身体がぐらつく。

ルカスがため息混じりに腕を掴んだ。


「ほら見ろ」

「……えへへ」


まったく反省していない笑顔。

ルカスは呆れたように眉を寄せる。

けれどその目は優しかった。

昔の彼を知る者が見れば、信じられないほどに。


「座るか」


丘の上には大きな木が一本立っている。

その木陰へ敷物を広げ、二人は腰を下ろした。

セシリアが嬉しそうに籠を開く。


「頑張って作ったんです!」


中にはサンドイッチや焼き菓子が綺麗に詰められていた。

少し形は歪だ。

でもどれも丁寧に作られている。


「……全部か?」

「はい!」


誇らしげな顔。

ルカスは小さく笑った。


「すごいな」


 その一言で、セシリアの顔がぱっと明るくなる。


「本当ですか!?」

「嘘はつかない」


 セシリアは嬉しそうにサンドイッチを差し出した。


「はい、あーん!」

「子供か」

「いいから!」


押し切られ、ルカスは渋々口を開く。

……少々塩味が強過ぎる。

おそらく塩を入れすぎている。

でも、


「どうですか?」


期待に満ちた瞳で見つめられて。

ルカスは静かに飲み込んだ。


「美味い」


セシリアが満面の笑みになる。

その笑顔を見ると、どうでもよくなった。

風が吹く。

花の香りが漂う。

穏やかな時間だった。

セシリアは芝生へ寝転がった。


「気持ちいいですねぇ」

「服が汚れるぞ」

「ルカス様もどうですか?」

「遠慮する」


即答。

セシリアはくすくす笑った。


「真面目ですねぇ」

「お前が自由すぎるだけだ」


でもそのやり取りすら心地よかった。

ルカスは自分でも不思議だった。

以前の自分なら、こんな時間は無駄だと思っていた。

誰かと過ごすことに意味を感じなかった。

けれど今は違う。

セシリアといると、張り詰めていたものがほどけていく。

気づけば彼女を目で追っている。

笑ってほしいと思う。

危ない目に遭わせたくないと思う。

――こんなの、初めてだった。


「……セシリア」


名前を呼ぶ。

セシリアが身体を起こした。


「はい?」


春風が彼女の髪を揺らす。

陽の光を受けて、その栗色の髪が柔らかく輝いていた。

ルカスは少し黙る。

こんなふうに言葉を選ぶことなんて、今までなかった。

けれど、今だけは間違えたくなかった。


「俺は」


喉が妙に熱い。


「お前といる時間が好きだ」


セシリアの目が丸くなる。

ルカスは真っ直ぐ彼女を見る。

逃げずに。


「……恋人、になってほしい」


風が止まった気がした。

セシリアはぽかんと彼を見つめる。

数秒遅れて。


「……っ、え、えぇっ!?」


顔が真っ赤になる。

ルカスは少し笑った。


「嫌か?」

「ち、違いますっ!」


ぶんぶん首を振る。

その勢いで帽子が飛びそうになる。


「その、わ、私でいいんですか……!?」

「お前がいい」


その言葉は真っ直ぐだった。

飾り気もなく、不器用なくらい真剣で、セシリアの瞳に涙が滲む。


「……はい」


小さく答える。

でも次の瞬間には、嬉しさを隠しきれず笑っていた。


「はいっ!」


ルカスはそんな彼女を見て、静かに目を細める。

春の日差しが二人を照らしていた。

まるで最初から、こうなる運命だったみたいに。



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