初恋の相談相手
午後の日差しが診療所の窓から差し込んでいた。
オーウェンは薬草を刻みながら、机の上に並んだ瓶の整理をしている。
その向かいに座るシャルロットは、珍しく落ち着きがなかった。
手元の紅茶を見つめたり、窓の外を見たり。
何度も何かを言いかけてはやめている。
そんな様子に気づかないオーウェンではない。
「で?」
薬草を刻みながら聞く。
「何をそんなに悩んでるんだ?」
「……別に悩んでなんていないわ」
即答だった。
しかし視線は泳いでいる。
オーウェンは吹き出しそうになった。
「その顔で?」
「どんな顔よ」
「恋する乙女の顔」
シャルロットが真っ赤になった。
「なっ……!」
反応が分かりやすすぎる。
オーウェンは思わず肩を震わせた。
「図星か」
「違うわよ!」
「へぇ」
「違うったら違うわ!」
「なるほどなるほど」
全然信じていない顔をするオーウェンに、シャルロットは頬を膨らませる。
だが数秒後には観念したようにため息を吐いた。
「……少しだけ、相談があるのよ」
「聞こうじゃないか」
オーウェンは面白そうに身を乗り出す。
シャルロットは少し迷ってから口を開いた。
「最近……クルルが変なの」
「クルルが?」
「そうよ」
シャルロットは真剣な顔で頷く。
「近くに来ると落ち着かないの」
オーウェンは黙った。
「目が合うと変な気分になるし」
オーウェンはひきつる口を隠そうとして手で、口を覆い隠す。
「手を握られると心臓がうるさいし」
オーウェンはとうとう我慢できずに吹き出した。
「昨日なんて髪を撫でられただけで夜まで思い出してしまったのよ」
天井を見上げているオーウェンにシャルロットが心配そうに話しかけた。
「オーウェン?」
「いや」
「?」
「それ全部お前が変なんだよ」
シャルロットが固まる。
「え?」
「クルルじゃなくてお前」
「え?」
「完全にお前」
「えぇ……?」
納得できないらしい。
オーウェンは額を押さえた。
「シャルロット」
「なによ」
「それはな」
少し笑う。
「好きってことだ」
静寂。
数秒。
十秒。
二十秒。
シャルロットの顔が真っ赤になった。
「ち、違うわ!」
立ち上がる。
「違わない」
「違う!」
「違わない」
「違うったら違う!」
「じゃあ聞くけど」
オーウェンは意地悪く笑った。
「クルルが他の女の子と仲良くしてたらどう思う?」
シャルロットは即答した。
「嫌よ」
「即答だったな」
「……あ」
「ちなみに今ものすごく分かりやすい顔してるぞ」
シャルロットは両手で顔を覆った。
耳まで真っ赤だった。
オーウェンは笑いを堪えられない。
「初恋だなぁ」
「うるさいわ……」
「いやぁ、めでたい」
「うるさいわよ!」
「ついこの前までクルルと喧嘩してたのにな」
「その話はしないでちょうだい」
シャルロットは机に突っ伏した。
恥ずかしくて仕方ない。
オーウェンはそんな彼女を見て少しだけ目を細めた。
記憶を失ってここへ来たばかりの頃。
怯えたような顔ばかりしていた少女。
笑うことも少なかった。
それが今ではこうして恋の相談をしている。
それが少し嬉しかった。
「まぁ」
オーウェンは穏やかに言った。
「焦らなくていいさ」
シャルロットが顔を上げる。
「クルルは鈍いからな」
「……そうなの?」
「びっくりするくらい」
「それは少し分かるわ」
二人で苦笑した。
「だからゆっくりでいい」
オーウェンは優しく笑った。
「今のお前たち、見てると結構いい感じだから」
シャルロットは何も言わなかった。
けれど、頬は少しだけ緩んでいる。
その日の夕方。
帰宅したクルルは診療所に入るなり首を傾げた。
「なんでシャルロット顔赤いの?」
「知らない」
オーウェンは即答した。
「熱?」
「違う」
「じゃあ何?」
「恋の病」
「は?」
クルルは意味が分からないという顔をした。
シャルロットは顔を真っ赤にして立ち上がる。
「オーウェン!!」
診療所に楽しそうな笑い声が響いた。




