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#7 帰路

「デュランはこの辺で何してんだ?てかいくつ?」

「年は16、修行かな」

「げっ、16ぅ??オレより下かよ」


街へと向かう最中、デュランはメィリンと歳が近いのも相まってか、ずっと話していた。デュランの見た目はボロボロのローブを纏っているだけで、その中は何も見えなかった。背中に担いでいる大剣が、異様に存在感を主張していた。


「先生…と言っていたが、その方はどんな人なんだ?」

「強い。まぁ今じゃ僕の方が強いんだけどね」

「ほう、キングを一撃で倒したデュランが言うほどなのか。その人は今どこに?」

「死んだよ。4ヶ月くらい前に」

「…そうか、すまん」

「いいのいいの、寿命だったし」


僕は気まずそうにするファルコとメィリンを尻目に木の葉の隙間から漏れる光を手で遮りながら思い返した。そう、寿命だ。ナツメはあんなに若く見えたが、実際にはそういうわけでもないらしい。僕がナツメから受け継いだのは英雄たちの情報などが纏められた手記と雑嚢、ガンブレード、それといくつかの大切なものだ。ガンブレードの詳しい機構や能力、壊れた際にはドワーフの鍛冶屋を訪ね、ナツメの知り合いだと言うと直してもらえるなど様々なことが手記には載っていた。


「いい?デュラン、ガンブレードには能力がいくつかある」

「能力?」

「1つ目はここ、シリンダーっていうんだけどここに6つの特別製の魔石が入ってる」

「魔石?」

「ドワーフが発明したなんでもできる石って認識でいい。これには受けた攻撃を1度だけ溜め込む性質がある」

「溜め込む?ってどういう」


ナツメは思いっきり剣をぶん殴り、金属音が鳴り響いた。きゅーん、という鳥の鳴き声にも似た音が剣からして、僅かにシリンダーが光った。


「そしてここのトリガーを引くと」


ナツメは剣先を岩に向け、剣の柄に付いているトリガーと呼ばれる部分を引いた。すると剣の隙間から火花がバチバチと散って、岩が砕け散った。


「す、すごい…」

「こんな風に弾を放つ。使ったあとはこっちの背の方にあるスライドを引くと、シリンダーが回転して次の魔石に変わる。魔石が受けられる攻撃は一度まで、つまりこいつは」

「6回、相手の攻撃を跳ね返せる」

「そういうこと、理論上は英雄…カスどもの攻撃も吸収して跳ね返せる。つまり、デュランにはこれからこの剣を使えるようになってもらう」


ナツメはそう言いながら、大剣を中心から折った。壊したのかと思ったが、魔石を排出するためのようで中から魔法陣が刻まれた銀色の人参みたいなものが出てきた。大きさも人参くらいで、やや大きい。


「それ、どうするの?」

「面倒くさいけど、雑嚢に入れる。これを直接持っていかないと直してもらえないから」


ナツメがそう言って入れた雑嚢は小さい、けれど金属の人参を入れても形は変わらなかった。


「その人参、あぁ魔石か。雑嚢によく入ったね」

「ふっ…はは、人参…人参ねぇ…まぁいいや、入るよ。昔手に入れた神代の代物だからね。これには家も入る」

非造遺物(マジックアイテム)!初めて見た」

「雑談は終わり、訓練にもどるよ」


そんな話を、昔にナツメとした。もうできやしないけど、それでもあの人は他の英雄たちと違い、優しかった。僕は英雄たちの所業を、全てナツメから聞かされていたからわかる。この世界に悪人と善人がいるように、英雄と同じ出身でもいい人と悪い人がいる。九割悪い人達だったが。


「それにしたって旧ナインルーツ領で特訓なんて物好きだな。あそこは昔狂乱群(スタンピード)があったというのに」

「あ…あぁ〜、まあね」


しばらく森に籠っていたとは言え、ナツメが定期的に持ってきてくれた新聞には目を通していた。ナインルーツ家は突如発生した原因不明の狂乱群(スタンピード)によって一日で消滅した。騎士の名家にありながら、騎士団を擁しておきながら魔物ごときに敗北した無能騎士としてなじられ、その名は地に伏した。


「いやファルコ、だからそこには違和感があるってさっきいったじゃん」

「その話はもういいだろう。あそこの近くにゴブリンキングが現れたんだ、その類いだろう」

「だぁかぁらぁ!あそこまでの高熱を扱える魔物なんてこの近辺にいないんだよぅ!」

「なるほど?メィリン、詳しく教えてよ」


メィリンの冒険者での役職(ポジション)は確か斥候(シーフ)だ。目立ちたがりが多い冒険者でわざわざそんなところを選ぶということは余程目立ちたくないか、仕方なくそれにならざるを得ないほど才能があったかのどちらかだ。現に彼の目は優れていた、僕が向かっているのに気付いて、ファルコの近くまで転がり落ちたんだ。より守りやすい場所に自ら来てくれたお陰で僕は特に苦労しなくて済んだ。


「んーと、街の奥の方に異常に人が死んだ形跡があったんだ。血と油を吸いすぎた大地特有のやや湿った赤砂とぶにぶにした地面がその特徴だね」

「ふむふむ」

「つまり多くの人がそこにいたってことだ、街のシンボル…あるいは領主の家とかかな?ともかく、そこにだけやけに炭化が進んでた。灰になる直前までってことはドラゴンではないね。もっと火力が高いし…どちらかというと…魔術?」

「ほう、人が人を襲ったと?」

「うん、オレはそう思ってる。しかも高位の魔術士(ウィザード)…それも相当のね。でもそれならもっと原型を留めないほどに破壊されてるはずだから…何かと争っていたのかな?」

「すごい面白い推理だ、聞けてよかった」


メィリンの言ったことは粗方…いやほぼ完璧に当たっていた。2年の月日で証拠や推理に使える根拠などほぼ消えているというのに彼は当てた。斥候(シーフ)の中でも相当な腕利きなようだった。

夜頃まで歩き続け、僕たちは野営の準備に入った。この辺の魔物はあまり強くないし、野宿をしても問題はないだろう。武器の手入れもしておかなければならない。

横たわっている大木に腰を下ろし、ガンブレードを隣に立てかけた。ずっしりと背中に寄りかかった重たい感触がなくなり、僅かに心地よい。

ガンブレードを中折れさせ、魔石を排出する。それを雑嚢に押し込め、中から新しい魔石をシリンダーに装填する。布で刃を拭いていると、火を起こしているふたりが興味深そうに見ていた。


「…なんも教えられないよ?」

「…ちぇー、まぁそうだよなぁ」

「冒険者の武器は知られない方がいいからな、当然だ」


彼らと焚き火を囲いながら硬い干し肉を口に放り込んだ。パサパサとしていてあまり美味しくない慣れ親しんだ味だ。


「デュランってなんのために森の中で特訓してたんだ?わざわざ先生までつけてさ」

「…うーん、強くなりたいからかな」

「え?それだけ?」

「うん、誰に負けないほど強くなりたくてね」

「へぇー」

「そういうふたりは?なんで冒険者を?」

「オレは王下八剣(エクスブレイド)の一振りを探してる」

「俺は…なんとなくだ。強いて言うなら金持ちになりたかった」


王下八剣(エクスブレイド)は名前こそ王下とあるが、その詳細はほとんど残っていない。太古にこの国にあった神代の武具に勝るとも劣らない伝説の剣は、今は名前だけが独り歩きしている。一部では存在してないとまで囁かれている。


「昔見たナインルーツの家紋が八本の剣だったからもしかしたら…って思ったんだけどなぁ」

「ただの偶然だろう、次を探すしかないさ」


確かにうちの家紋には王下八剣(エクスブレイド)を元にしたものが刻まれているがそれでも僕は何も知らなかった。そんなものがあるなんて情報はないし、お父様が使っていた剣も業物ではあったが流石に八剣には及ばない。あの日お母様が燃やしていた資料の山はどれだけ思い返しても思い出せないし、結局なんなのか分かってはいない。

国王に忠誠を誓っていたお父様に限って怪しい非合法なものに手を染めていたわけもないし、ますます分からないことだらけだ。

とはいえ、もうしばらく歩いたら"蒼穹"の街だ。最初は"紅蓮"が良かったがあの日から全く音沙汰がなく、領地でも見られていないらしい。「引きこもり癖が再発したんだ」とナツメが言っていたが、それがなにより腹立たしかった。

待っていろよ、メアリー。僕が必ず助けに行くから。

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