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#5 跡地にて

王国歴636年、旧ナインルーツ領。

現在は更地と化し、余った土地は未だ開拓されずにいた。大量に放置された瓦礫と、魔物に食い荒らされた人々の死体が無惨に転がり、はるか遠くからでもその死臭が鼻をつくほどだった。


「で、本当にこんなところに宝が埋まってるわけ?」

「ギルドにいた情報屋曰くな、あいつは胡散臭いがそこそこ信用できる。それにな、メィリン」

「分かってるよファルコ、喋るなら口を動かせってんでしょ?分かってますよーだ」


ふたりの男が、手に持ったスコップを地面に突き刺し、死体漁りを繰り返していた。金目になりそうなものを無造作にベルトにつけた雑嚢に押し込んで、汗を流していた。切れ目の男、ファルコがそこでなにかに気がついた。廃墟の街の最奥にやけに綺麗に整理された場所があるということを。

遠目ではよく見えないが、そこにはなにか棒のようなものが突き刺さっていた。


「なぁ、あれ」

「ん?んんー??なんだろあれ、宝物の目印とか?」

「さぁな、だが行く価値はあるだろう」


メィリンと呼ばれたくそばかすが目立つ金髪の男がスコップを地面に突き刺し、ベルトにつけていた短剣の留め具を外す。彼の戦場での役割は探知役、斥候(シーフ)だった。

目的地にたどり着くと、やけに地面がぶにぶにとしていることに気がつく。刺さっていたのはただの廃材で、なにか目ぼしいものは見つからなかった。


「…ここ、随分人が死んでるね」

「なにか街のシンボルでもあったんだろう、人が集まって、魔物が襲来して死んだ」


ナインルーツ家が滅んだという話はすぐに広まった。大規模な狂乱群(スタンピード)に襲撃され、一夜にして崩壊したのだと、街の新聞屋はそう高らかに宣言していた。しかも王国のお墨付きで、だ。


「それになんだろう…ここだけやけに炭化してる。火を使う魔物…それもここまで高温ならもしかしたらドラゴンかも」

「馬鹿言うな、ドラゴンが狂乱群(スタンピード)に参加しないのはお前も知ってるだろ。冒険者の常識だ」

「にしたってここだけなのおかしいよ、ドラゴンの炎息(ブレス)か、サラマンダーくらいさ」

「ならサラマンダーがいたんだろう、ドラゴンの劣等種のトカゲなら、稀に見る」

「ここら辺にサラマンダーが生息する火山はないよ、やっぱり変だね」


メィリンが地面の砂を手でつかみ、ぱらぱらと地面に落とす。油と血液を多く含んだときに見られる、やけに湿った大粒の砂が、より陰険な雰囲気を醸し出していた。周囲に見える廃材も芯まで炭化しており、完全に真っ黒で一部は砕けていた。

集中して思考したがすぐにそれは別の要因でかき消される。木々が揺れ、鳥が一斉に空へと羽ばたく音が聞こえる。地面は無数の地団駄で揺れ、視界が僅かに揺らぐ。


「…メィリン」

「分かってる、オレたちって昔から運がないね」

「あぁ…狂乱群(スタンピード)だ。逃げるぞ」

「待って、ここやっぱり気になるよ。本当にナインルーツは魔物で滅んだの?なんか変だ」

「知るか、生きてたらもう1回考えろタコ」

「漁村生まれのオレにそれ言う意味分かってんの?」


ファルコはスコップを投げ捨て、メィリンの尻を蹴っ飛ばして反対方向へと走った。今日の装備は戦闘ではなく宝探しなせいで、ふたりとも武具は最低限しか装備してきていない。そもそもふたりでは小規模の狂乱群(スタンピード)は倒し切ることなど不可能だった。吟遊詩人が歌う英雄であれば可能であろうが、ふたりは一般人よりも多少腕の立つ万事屋(なんでもや)、ただの冒険者だった。

そして、ただの冒険者は狂乱群(スタンピード)から逃げ切ることなど不可能だった。馬があれば話が別だったが、それこそただの冒険者が個人で持つのは分不相応だ。買っておけばよかった、いやそもそもこんなところに来なければよかったと後悔の念が過ぎったが、すぐにその考えを捨て去った。


「ここで迎え撃つ」

「はぁ…はぁ…本気ぃ??」

「どうせ逃げ切れん、やつら腹ぺこだ。それにこいつらを引き連れて街まで行って生き残ったとしてもあとで斬首刑だ。腹くくれ」


ぶぅぶぅと嫌そうに文句を言いながらメィリンは極めて手際よく罠を設置し始めた。持っていた雑嚢には街中に落ちていた装飾品と、縄くらいしか入っていなかった。


「これから毎日毒でも持っていようかな」

軽装戦士(アサシン)にでも鞍替えするか?」

「ガラじゃないっと!」


縄を何重にもふたつの大木に括り付け、手に持っていた装飾品を無造作に地面に投げ捨てる。これで今日の取り分はほぼゼロ、無賃で働いたことになると考えながらメィリンは短剣を抜いた。

ファルコは背中に背負っていた盾を左手に持ち、鞘から鈍色の剣を引き抜いた。初めて冒険者になったときから使っているよく手入れされた思い出の品だ。

遠くに見える魔物の群れに向かって、ファルコは剣と盾をぶつけて音を出した。


「ゴブリンとウルフの群れ、規模は小さい。どれも雑兵で、上位種は見られないよー」

「了解だ」

「というか、これ狂乱群(スタンピード)の中でもかなり規模小さいよ。多分なにかから逃げてきたんじゃないかな」

「あの数の魔物がか?ハッ、それこそドラゴンが出ないと辻褄が合わんな」

「…来るよ」


魔物の群れがファルコに向かって一心不乱に駆け寄ってくる。草木を踏みにじり、命を奪い尽くす略奪者の群れの先頭がメィリンの仕掛けた縄に引っかかり間抜けに転倒する。立ち上がるよりも先にその頭蓋を後続の魔物によって踏み潰され、脳と血液が地面に弾けた。骨と装飾品が魔物の足に食い込み、大きな山のように倒れ込んでくる。

手前から冷静に首を切り落とし、ファルコは剣を振るった。冒険者としての等級(ランク)は決して高くなく、よくて中堅止まりだがそれでも経験が積み重なっていた。

2人とも、狂乱群(スタンピード)と相対するのはこれが初めてではなかった。けれど気が付かなかった、彼らは逃げてるのではなく、明確な意志と命令を持って来ているのだと。


「よしっ!後続も少なくなってきた、まだ行ける?ファルコ」

「脂で剣が滑るが、なんとかな。確かにこれは規模が小さかった。俺たちは運がいい」


そうファルコが勝利を確信しかけ、笑みを浮かべた瞬間、メィリンの叫び声が聞こえた。慌てて見上げると、脇腹に矢が刺さっていた。


「ぁあああ!!!!いってぇええええ!!!!」

「…伏兵?いやまさかそんなはずは」


これは狂乱群(スタンピード)だ、意思もなくただ突撃するだけの魔物の群れだ。ファルコはそう思っていた、けれど違った。メィリンが木の上から転げ落ち、ファルコの元に降りた。見据える先には見上げるほどの巨体。


「キング…?」


乳白色の王冠を被り、クマの毛皮をマント代わりに、誰かから奪ったのであろう無骨な大剣を持ってそれは現れる。討伐等級(ランク)(ゴールド)

騎士の一個師団か、英雄か、はたまた金等級(ゴールドランク)の冒険者でないと歯が立たないゴブリンたちの王だった。

ファルコとメィリンの冒険者等級(ランク)(ゴールド)の2つ下、(ブロンズ)だ。手に追える相手じゃない。メィリンは痛さと恐怖で奥歯をガチガチと鳴らし、ファルコも剣を持つ腕が震えていた。

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