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#4 没落

僕が目を覚ますと、街は更地になっていて、ボロボロに崩れ落ちた屋敷の瓦礫で、最後に見た女が僕をじっと見ていた。片方は眼帯で分からなかったがさっきの男と同じ黒い瞳が僕の姿を反射させていた。立ち上がろうとすると頭に鈍い痛みが走って、上手く立てなかった。頭部を見ると雑だが布のようなものを巻かれ、止血がされていた。


「あ、やっと起きた」

「な、何者だ!さっきのやつは!!」

「落ち着きなよ、私は敵じゃない。どちらかというと味方まである」

「落ち着けるはずがないだろ!!街がこんなになって!!家族が…みんなが…!!!メアリーは!どこに行った!!」


僕のそばにいたメアリーは影も形もなく、この場所には僕と女しかいなく、ぼうぼうと吹き荒ぶ冷たい風だけが聞こえていた。


「連れてかれた、すまない。私の落ち度だ」

「だれに?誰にやられたんだよ!あの男はなんなんだ!!」

「あいつはシュンスケ・コバヤシ。"紅蓮の英雄"だ、メアリーとやらを連れ去ったのもそいつだ」


"紅蓮"が?いやまさか…僕の憧れの英雄はドラゴンとかの強い魔物を倒したり、人を助けたりする勇敢な人々のはずだ。よく屋敷に来る馴染みの吟遊詩人はいつもそう歌っていた。


「私が何者か、そう言っていたな。その問いに答えよう」


女はそう言って立ち上がり、僕に向かって頭を下げた。深く、深く、急所である首を僕の方へと差し出したのだ。


「私の名前はナツメ、英雄と呼ばれるものたちと同郷のものだ。今回は私の不手際と、同郷が迷惑をかけた。すまない」


脳に熱い液体が上るような感覚がした。世界から音が消えたような、そんな感覚だ。ほぼ無意識に右手を上げた。目の前にいる女の髪をつかみ、地面に投げ捨て、脇に置いてある大剣で喉元を突き破ってやりたかった。腹を裂き、伸びる臓物で首を絞め、吊るしてやりたかった。考え得る最悪の全てを彼女にぶつけたかった。

ただ、それを彼女にするのは八つ当たりだと理性が警鐘を鳴らしていた。僕を助けるように割って入り、目覚めるまでそばに居てくれた彼女は、英雄たちとは違うのだとわかっていた。わかってしまった。

どこに拳を振り下ろしていいのか、分からずに手のひらに食い込む爪から血が滴った。


「許せない…」

「君の気が済むなら、英雄たちを殺した後の私は好きにしてもらって構わない」

「そんなの興味無い、僕は…僕は…あいつを殺したい。メアリーを取り戻したい」

「…君には無理だ。彼らは卑怯者(チーター)だ、普通の人間が持っちゃいけない力を持っている」

「だったら、僕も強くなればいいだろ。ちーたー?ってのがなんなのか分からないけどさ。それにさっき好きにしていいって言ったよな、鍛えてくれ。お前は英雄たちと同郷で強いんだろ?」

「…私は教えるのが得意ではない。それでもいいか?」

「あぁ…いい。どうせ英雄殺しはしなくちゃならない、普通の人より何倍も何千倍も強くなればいい」


こうして僕は、ナツメと共に鍛えるようになった。廃墟と化した自身の故郷と愛する街並みに誓うように、近くにあった廃材を地面に突き刺した。ナツメとともに森の中へと入り、僕はそこから地獄の訓練を共にした。


「して、"紅蓮"よ。顛末を聞かせてくれ」

「はァい、私"紅蓮の英雄"ことシュンスケはナインルーツ家領地を灰燼に帰し、致命的な打撃を与えると同時に血を完全に絶やすことに成功しましたァ」

「そうかそうか、それで?資料は見つかったか?」

「全部燃やされてましたァ、九つ目の剣は街のどこにも見当たらず、起源も不明です。そもそも本当にあるんすかねぇ」

「ある、ナインルーツはそれに気づいていた。卑しくも薄汚いキツネどもがそれを隠したのだ。引き続き調査を続けろ、褒美はなにがいい?」

「街とォ、あと強い武器」

「分かった、用意しておこう。下がって良い」


国王は私室から"紅蓮"を下がらせ、背もたれに寄りかかった。大きなため息を吐き、頭部に付いている王冠を机の上に置いた。九つの宝石があしらわれた色とりどりの黄金の王冠は、国王の姿を反射させた。


「…()()、いるな」

「はい、こちらに」

「最後に確認しておく、()()()ナインルーツ家は滅んだんだな?」

「はい、王国歴634年、ナインルーツ家は当主、跡取りを含めて()()()滅びました」

「そうか、王国調査室長のお前に潜入させてよかった。下がれ、褒美は後で用意する」

「ハッ…」


テンは私室から去り、表情を崩さぬまま廊下を歩いた。脳裏に浮かぶのは、10余年共に過ごしたナインルーツ領の景色と、仕えていた主の顔だった。一瞬口角が下がり、苦悶に眉をひそめたが、それも城下町で流れる号令で元の無表情に戻った。


「号外号外!!ナインルーツ家、没落!!!」


こうして、はるか昔より王国に仕えていた騎士の名家"ナインルーツ"は没落した。第27代目当主、ベルトリット・ナインルーツの死を持って、その長きに渡る栄華と高名は地に落ち、大衆に忘れ去られていった。

たったふたりの、"ナインルーツ"の血を引くものを残して。

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