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#3 つわものどもが夢の跡

僕たちは父さんの書斎にみんなで籠った。部屋の外では一番隊のみんなが守ってくれている。窓から見える街の景色は赤く赤く染まっていき、夕焼けと相まって世界の終わりにも見えた。

お母様は暖炉にお父様の机の中から出したたくさんの紙束をひっきりなしに入れて、どんどんと燃え盛る暖炉の炎を僕とメアリーは抱き合いながら見ていた。


「お母様…燃やしてもいいんですか?お父様の大事な書類なのでは…?」

「いいの、あの人との約束だから」

「そうなんですね…」


お母様の顔はいつもと違ってとても緊迫感のあるものだった。大事なものを見つからないように隠すリスみたいに、机に溜め込まれた紙束を無造作に投げ捨てていった。メアリーは僕の腕の中で小刻みに震えていて、いつも抱き抱えているお気に入りのクマのぬいぐるみを小さくなるまで握りしめていた。

僕も、なんだかいつもと違うみんなの様子や窓から見える景色がとても怖くて訓練場から持ってきてしまった木剣を爪が食い込むまで握りしめた。

やがて、下の玄関が勢いよく開いた音が屋敷内に響いた。

あ…そういえばテンの姿が見えない。無事だろうか。

そう思った矢先に、部屋の外で一番隊のみんなの怒号が聞こえた。


「俺たちはなんだってしてきた!国の厄介事も!膿を吐き出させるのも!!それがなぜ!!!」

「それはね、君たちがいらなくなったからダヨ〜」


知らない男の裏声が聞こえたかと思った次の瞬間、鋼が断ち切れる音がした。組み合いで聞こえる鋼のぶつかる心地のいい金属音などはしなく、無造作に断ち切れる音が。直後になにか液体が滴るような音と、ずり落ちる声がした。

次第に音は消えていって、書斎の扉が勢いよく開かれた。全身に赤いものを纏いながら、浅黒い肌の男が前髪を手に着いた赤黒い液体で上げて、恍惚そうな笑みを浮かべていた。

右手には剣を、左手には…お父様とジャックスの首を持っていた。それを僕たちの前に投げ捨て、メアリーは泣き出した。僕も体の震えが止まらなかった。


「あー、モニカ・ナインルーツとデュラン、メアリーだな?」

「っ!なぜあなたが!!」

「世話になったしなぁ、せめて俺が引導を渡してやろうという親切心だ」

「ふざけないで!!」


お母様はこの男のことを知っているようで、暖炉に刺してあった火かけ棒を手に取って無造作にそれを男に振るった。ただ当たるよりも先に、部屋が真っ赤な液体で染まった。顔にかかった生暖かい液体を拭うと、べっとりと手のひらに血液と肉片がこびりついていた。

お母様の上半身は、消し飛んでいた。


「ぁあぁあああ!!!」

「やかましい」


僕は恐怖よりも怒りがそれを塗りつぶしていって、手に持っていた木剣を握りしめて走った。男は僕の方を見ながら人差し指を突き刺し、そこから螺旋を巻いた赤い光が僕の右肩を貫いた。

熱い、熱い熱い熱い。焼け焦がされた僕の右肩から煙が立ち上って、痛みと熱が脳を支配した。メアリーの泣き声が頭に響いた。

男は俺に目もくれず、お父様の机を漁っては暖炉を見て舌打ちした。そして苛立って髪をくしゃくしゃと掻きむしりながら地団駄を踏んだ。


「ナインルーツゥウウウウウ!!!!!下等な異世界人が!!!手間かけさせやがって!!!」


メアリーは男から離れるように、心配するように僕の元へ駆け寄ってきた。やや冷たくなっている右手を僕の肩に押し当て、小さく詠唱を始めた。


『祖は大地母神、起源を辿り、果てなき旅の途中で見つけた光り輝く聖なる泉よ』

『我は片翼の大鷲、木につがい、木の葉を手繰り、安息の地を作るもの』

『赦されるのなら、泉を飲み干し、略奪者の仮面を剥いでみせましょう』

大聖光陣(フォン・ダウル)


メアリーが唱えた詠唱は、回復魔術の中でも高位の魔術であり、どんな傷も癒す代物だった。実際に僕の脳を支配していた痛みや熱さは次第に引いていき、心做しか安息してしまうほどだった。


「あ、ありが…」


メアリーに礼をしようとした途端、彼女は突如として倒れた。息も絶え絶えで、額には大粒の脂汗が滲み出ていた。メアリーを起こそうと何度が揺すっても苦しそうに呻くだけだった。

心の底から心配だった、だから気付けなかった。


「高位回復魔術…手土産にはなるな。顔も悪くない」


男はそう言ってメアリーの黄金の髪を掴みながら、狩りで取った獲物を持ち上げるようにそう呟いた。


「ふざ…ふざけるな!!!」

「黙れ、異世界人(ブタ)の分際で」


そう言って、男は僕の方へと刀を振り下ろした。恐怖よりも、怒りが勝ったせいか僕は目を瞑らなかった。そのおかげで、よく見えた。僕と音この間に割って入るように颯爽と現れた謎の女を。

屋敷の屋根を突き破り、上から降ってくる瓦礫の山を体に滴らせて、大振りの剣?のようなものを持った黒髪の女性は男と知り合いのようだった。なにを話しているのか、なにをするのかを知るよりも先に、上から振ってきた瓦礫が頭にぶつかって僕は気を失ってしまった。


「こんなとこでなにしてんの?"紅蓮"…いや、シュンスケ」

異世界人(ブタ)に命令されて、好きなようにしていいからここを滅ぼせって言われたんだよ。そういうあんたこそなにしてんだ?えぇ?"英雄もどき"」

「罪滅ぼし」


街で飯を食っていたというのに、突如としてシュンスケが現れたもんだから心底驚いた。だがこれは幸運だ、普段は引きこもってろくに領地から出ない同郷のカスどもがようやく出てきた。


「なにができんだよ、魔術の才能もない。特別な力も持ってない、八色目のボンクラ」

「異世界で主人公気取るのがそんなに楽しいか?厨二病の高校生」

「…マジで殺すぞ」

「やってみなよ、根暗陰キャ。この世界はお前たちのおもちゃ箱じゃない。その子を離しなよ、またハーレム増やす気?」


ギリっと奥歯を噛み締める音が鳴ったあと、幼女を壁に投げ捨ててシュンスケは魔術を放った。高位炎属性の魔術『大炎螺旋火槍(フォル・スフルベルゾ)』だ、あいつのお気に入り魔術で大体はこれを使うクセがあった。

剣でそれを防ぎ、受け流して私は嘲笑したような笑みが溢れた。


「教育してやるよ、引きこもりの卑怯者(チーター)

「言ってろアバズレェエエ!!!」


剣に付いているスライドを引き、柄に取り付けられたトリガーを引いた。屋敷が崩れ、爆炎が迸った。

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