出会い
セントリーガンを積んだカーゴが、ゲートから出ていく。
まずは、指示されたおすすめルート通りに進むヒルベルト一向であるが、さっそく攻撃にさらされる。
来た際のルートよりも激しい弾幕の雨が襲い掛かる。 その弾幕を掻い潜り、猛スピードで道を進んでいく。
「くっそ! 攻撃が激し過ぎる! 」
≪社長! セントリーガンの損耗率が早すぎる! ≫
鄭は引き続き、カーゴ内で配置されている。
セントリーガンも自動射撃から、部品の都合上、遠隔手動に切り替えて実施している。
弾幕中をカーゴが走っていくが、どうにも教えられたルートに疑問が生じてくる。
「アリエフ。 どう思う? 」
ダイゴから貰った安全ルートの感想を聞かれる。
運転に集中しながらもアリエフ自身もこの状況を怪しんでいる。
「来た道より攻撃が激しいのは、おかしいですよ! あのメモは本当に正しいんですか! 」
「俺も同感だ」
バルティスも同意する。
「マリネリスの断崖の検問管は、多くの惑星間貿易商が通過したが、戻ってきたのはわずかと言っていました。 それに人数も減らして……確かに激戦区ではありますが、それ故、入る人間も装備を充実して臨むはずです! 今考えると少し妙だな」
「考えている暇はないですよ! どうします! 」
銃撃音が、周囲に響いている。 ロケット砲は、破損寸前のセントリーガンで何とか撃破できた。 巨大な黒煙とロケット弾の破片が周囲に広がる。
「俺もそれが気になっていた! 」
「考えられる線は? 」
「一つはラビリントス軍の待ち伏せと口封じによる料金の踏み倒し」
バルティスが応えていく。
「……」
「もしくは、ベルナール軍の弾薬減らしの為の生贄ですか! 」
今度はアリエフが会話に加わる。
「……2つ目の線がつよそうだな」
ダイゴが納得する。
「根拠は? 」
バルティスが、銃撃をしながら質問してくる。
「生き残って帰還している。 もし口封じなら徹底的に追い掛け回すはずだ。 おそらく使い捨て程度に考えているのだろう」
「で! どうします! ルートは! 」
アリエフが、回答が無いことに流石に苛立ち始めえている。 彼の運転技術でも躱せる弾幕には、限度がある。
「このまま、相手の策に乗るのは好かない――来た道を戻る。ベルナール中央ストリートだ! 」
死角がない開けた、文字通りの死のロード。 ベルナール中央ストリート。 ここに来るときに新品のカーゴが、スクラップ寸前になった。
今やスクラップ状態のカーゴがそこを通れば、どうなるか検討はつく。 しかし、この道は、その死のロードより攻撃が激しい。
「ダイゴ! 正気か!」
「応よ。 アリエフ引き返せ! 来られたのだから帰れる。それだけだ」
「了解! 」
来た道を戻る。 銃撃はヒルベルト商会一行。 知ったルートだけあって危険場所もそれなりに分かる。
正しい選択か否かは、やってみないとわからない。 しかし、ダイゴが決断した。 故に皆彼についていく。 この道では、明日はない。そのダイゴの直感に従う。
そして到着する目貫通りのベルナール中央ストリート。 基地からの移動距離はそれほど進んでいない。
見通しのいい直線道路が広がる。
「またここか。 敵は……かなりいるぞ? 」
「内戦地のど真ん中だ。 どこにでも敵はいる。進め! 」
アリエフがエンジンをふかし、カーゴが、猛スピード走り抜ける。 逃げるヒルベルト商会にそうはさせないと銃弾の嵐が襲ってくる。
「前より激しくねーか! 」
「装甲が脆くなっているんですよ! 」
セントリーガンの牽制音が、車両内に響く。
≪コンテナ内に銃弾が入ってきているぞ! ≫
鄭からの報告が上がって来る。
正面からロケット砲が真っすぐに飛んでくる
「RPG! 」
≪セントリーガン 故障! 稼働不能! ≫
アリエフが、その言葉で反射的に車両を寄越してロケット弾を躱すが、着弾の爆風は躱せてない。 車両の体勢が多く傾き転倒する。
≪全員脱出! 路地に逃げ込め! ≫
無線通信に切り替える。
カーゴの扉が衝撃で開いたため、一目散に路地裏に逃げ込む一行。
≪選択――間違ったか? ≫
ダイゴが自信の決定に不安を洩らす。
≪俺は自分を信じるね≫
バルティスが、決定を肯定する。
≪同意です≫
アリエフがバルティスに応じる。
≪どっちでもいい。 明日の朝日が拝めればな! ≫
鄭は少し興奮しているが、喚いても事実が変化しないことを知っているので、わずかに愚痴るだけである。
バイザーメットのナビシステムは正常であり、帰りのルートのマーカーが表示される。
≪まずこの街を抜ければ、多少は安全になる。 途中足を拾って脱出だ! ≫
ダイゴ自身、自らの言葉で不安を払拭し、前に進む。
≪了解≫
4名のコンバットスーツ小隊が、内戦の市街地を進む。
--- 破壊された ベルナール市街地
ヒルベルト一行は、なるべく表に姿を現さないように建物の中を通っている。 窓からの風景からであっても屋外の悲惨な状況が、見て取れる。
建物には、銃弾や榴弾がめり込んでおり、見える範囲の道にはガラスの破片が大量に散らばっている。
そして意外に通りに死体の数が少ない。しかし、室内を見るとその分、数多くの骸が転がっている。 年齢も性別も不明だが着用していただろう衣類から年齢に関係なくの鏖殺が行われた痕跡がある。
≪……クッソ! 一般人だろ≫
≪逃げる前に殲滅か。 確かにラビリントス軍は、最新のコンバットスーツ部隊だったな≫
しかし、それだけ悲惨な状況にあっても誰一人として吐き気も精神的な動揺もない。 ここにいる4名はこのような状況を経験してきた者ばかりになる。
バイザーメットのマーカーは、行先を示している。
≪一泊が必要か? ≫
≪恐らくな。それとも夜行動するか? ≫
≪死体と共に眠るとはな≫
≪コンバットスーツが、無ければ臭いでやられそうだな≫
各々の会話が飛び交う。 もちろん、短距離無線であり、外部に音は漏れていない。
≪夜は罠が見えない可能性がある。 コンバットスーツであれば体温は何とかなる。作戦を遂行するには休憩も必要。 一泊だ≫
ダイゴが方針を決定する。
≪了解≫
その矢先、ダイゴがトラップを解除する。リード線と手榴弾を組み合わせた、古来からのトラップになる。
≪流石! 目がいいね≫
≪トラップ解除。 先に進む≫
全員が銃を構えながら、クリアリングしながら進む。
周囲に注意を払いながらの為、移動速度は遅い。 遠方ではあるが、銃撃や榴弾が爆発する音が聞こえる。
前線であっても僅かに戦線がズレるとそこに戦闘員はいない。 しかし、前線には変わらないため、いつ敵と遭遇するかもしれない緊張感がある。
≪クリア≫
アパートの中と裏路地上手く活用して、建物群の端まで来た。 ここからは一軒家と公園のエリアにある。正直周囲に姿をさらす可能性がある。
≪難儀だねー。 昼間に突っ切るんかい? ≫
≪さっきも言ったろ? 夜になるとトラップが見えない。 身を低くしろ≫
公園の茂みに隠れながらダイゴを先頭にして、一行が進む。
在りし日の栄華も死体と瓦礫の山に書き換えられている。
バイザーメットにはセレンからの映像も見えている。 コンバットスーツは熱をそれほど出さない為、周囲の敵の状況も分かり難い。
茂みと家を上手く遮蔽しながら進んでいく。
突如、熱反応が検知される。
≪コンバットスーツを着ていない? 民間人か? ≫
反応がある方向に4名が移動する。 移動していくと人の声が、バイザーメット内に聞こえて来る。
“おうおう! こんなところに偉い美人がいるじゃねーか”
“いいねーいいねー”
4名の兵士が、仰向けになった女性を見ている。
「……」
ダイゴ達は、状況を確認する。 戦場でこんな状況になれば、どうなるか女性も分かっているはずだが、彼女から悲鳴や叫び声は聞こえない。
“ちっ。 殴っても反応がないなんてつまんねーな! ”
“かまわねーよ。 さっさとやっちまおうぜ! こんな上玉、高級娼婦じゃなきゃお目にかかれない代物だ”
どうやら、ラビリントス軍の精鋭ではなく、雑兵の類だろう。 装備もそれほど強力ではなさそうだ。 ダイゴの動きが止まる。
≪ダイゴ。 行くぞ! あんな雑兵にかまっている暇はないぞ≫
バルティスはあまり関わり合いを持ちたくないようだ。
≪助ける≫
≪冗談だろ! ≫
≪私も賛成です≫
アリエフから返信がある。
≪のった≫
鄭も賛同する。
≪お前達! この危険地帯でこちらの存在を知られる様な真似は……≫
≪ここは戦場。 人が死ぬのが当たり前の世界だ。 だれも気にしない。 相手は4名。 一瞬でケリを付ける。 各員配置に付け≫
バルティスの意見を遮り、冷徹声でダイゴの指示が飛ぶ。
≪了解≫
≪了解≫
≪……≫
≪バルティス≫
≪あいよ≫
全員が位置に着く。
ラビリントス軍の兵士が、女性に手を掛ける寸前、ほぼ同時に銃声が響き、4名が一度に倒れる。
≪クリア≫
4名が、周囲を警戒しながら破壊された建物に入っていく。 4体の死体と、女性がその中で一人感情なく天井を見つめている。
音声で聞こえたように確かに美人ではあるが、助かったのに反応が薄い。
「おい聞こえるか」
心ここにあらずの女性の頬をダイゴが軽く撫でるように叩く。
「もう――殺して――生きる意味なんて」
「だとよ。 ほっといて行こうぜ。 ここで民間人を助けても――」
バルティスからの厄介ごとは御免との感情が感じられる。
「名は? 」
「おい! 」
「名はなんと」
「……スキュリアル・フォー・ベルナール・トリュフィナ」
「まじかよ。 ここの貴族じゃねーか。 ダイゴ。こいつに関わるのは危険すぎる。 ラビリントス軍が、血眼で探している大将首の一角だ」
「助ける」
「さんせー」
「分かりました」
「お前ら! 正気か」
バルティスが、賛成する二人に視線を向ける。
「行くぞ」
ダイゴが、女性を直に背負う。
「くっそ」
≪バスティス前衛を 鄭・アリエフサイドと後方を頼む。こいつは俺が背負っていく≫
≪了解だ社長≫
≪了解≫
≪わかったよ。 付き合う≫
民間人を入れ5名での逃避行が始まる。
--- ベルナール市街 夜
廃屋の中、5名は暗闇の中息をひそめながら、束の間の休息をとっている。
ダイゴは、自身のレーションのかけらを彼女に渡すが、彼女自身、食せる状況ではなさそうであり、渡されたレーションを拒否する。
「食わないと、体力が持たないぞ? 」
両名の間に一旦の沈黙が下りる。 そして、その沈黙を破ったのは、バルティスであった。 話の主導権がバルティスに移る。
「で? あんたは何者だ」
「さっきも……言っていた……通り、ここの……貴族……フォーベルナールです」
「そうか……あそこにいたのは? 貴族であれば、護衛がとかいるんじゃないか? 」
「陣営内の裏切りで、私はただ逃げろと……恋人……婚約者と一緒に……」
声が詰まっているのが判る。
その婚約者がいないとなると状況は察せられる。
「バルティス。 もういいだろ。 俺はあんたをテンペ大陸まで連れて行く。 そこからは、好きにすればいい」
「おい! 彼女はまだここから逃げるとは言っていないぞ。 それにどうしてテンペまで連れて行くんだよ」
「俺達が向かうからだ」
「無茶苦茶だ! 」
「分かりました……私には、もう帰る家も家族もそして婚約者もいない。おそらく……。 どこへなりとも連れて行ってください」
女性が、自身の腹部をさすっている。
「バルティス。 良いじゃないですか。 我々はヒルベルト商会。 ならず者ですよ」
アリエフからの彼女への擁護が入る。
「惑星間貿易商が、ならず者の訳ないだろう」
「……」
女性がバルティスに視線を寄越す。おそらく影と輪郭しか見えず表情までは不明である。
「わかったよ。 社長命令だ。 従うよ」
その後は、沈黙が続く。 そして誰が指示する間もなく、眠りにつく。
*
朝が来た。 日の光が廃墟中に差し込み、彼女が目を覚ます。
彼女にしてみれば、酷く冷たい夜を越えたことになる。 もちろんまだ内戦エリアにいる。 しかし、まずは1日を超えた。
婚約者を失い。そして……命も失った。 両命の上にいま自分が生きている。 わずかながらの生かされているとの思いが過る。
「おはようさん」
バイザーメットを付けている人物から声を掛けられる。
「はい」
彼女は自分の置かれた立場がひどく厳しいことも、そして僅かなに生き残れる機会を掴んだことを理解している。
そして、これからの決定は、間違いなく、自身の運命を大きく左右することも予見している。 しかし、まずはここを出ない限り、明日の朝日を見ることは出来ない。
≪社長! 動く車両があった。早急に出よう。まだ敵の動きも鈍いはずだ≫
≪了解≫
ダイゴが彼女に手を出す。
「脱出するぞ」
彼女は頷く。 どんな絶望であっても、生きるための決定をした。 故に、彼女はまだ死を望んでいない。




