ダイゴ・ヒルベルト
--- 平穏な日の終わり
彼女がここに来てそろそろ12ヵ月が経過する。 日々平穏。 ここのコロニーは穏やかな空気が流れている。 多くの流れ者がいるにも関わらず、それでも治安が維持できている。
ここは100万都市。
街の一角の制圧でどうこうなる訳でもないが、タツマの人格は、その治安維持の一端を担っている。 そのこと自体に妙な自信をえている。
多くの歪を抱えながら時は進み、時代が動き出す。
場所は、例の公園のような墓地エリアになる。
「うぜーな。 なんなんだよ! 一体」
「お前! またカウンセリングをサボったろ! 」
恒例の親子喧嘩になる。
「俺は俺だ! あんなヘタレに主導権を譲る気なんてねーよ」
「ふざけるな! おい! タツマいい加減出てこい! 」
「俺がタツマだ! 俺のお陰でこの街の治安も保たれている! 」
「テメー 一人で100万の人口の治安が回復する訳ねーだろ! これは管理者のシステムのお陰だ! うぬぼれるな! タツマ聞こえるか! 」
「うるせー! 何が管理者だーあんなのに何ができる! 」
「力しか目がいっていない人間ならそう思うよなー。 しかし、世の中はシステムで動く。 一人の跳ねっ返りでは、動かないんだよ! 学はあるが、世間のシステムを知らないようだな。 奴はそのシステムが作れる。 別格の人間なんだよ! 」
「システムなんぞ破壊すれば終わりだ」
「そうであれば、どうしてここまで人類が復興出来た? 少しは考えろ! マールスのノーマンズライジングしかり、ウェヌスのビックフォール、そしてテラの四次世界大戦しかり。
システムを作ったからこそ、ここまで再発展ができた。 システムを用いることで統一した意思の流れを作りだす! それが人類だ 」
スキュレスさんは、その光景を見守ることしかできない。いつもこのように口喧嘩をしてどちらかが去るパターンになる。
最近はタツマの方が、去っていくことが多くなっている。
「気持ちいい事いってくれるじゃねーか」
しかし、今日のタツマは、どこかイラついてる感じがする。
ヒルベルトさんが、息子と向き合う時間が多くなるにつれ、カウンセリングから徐々にかつての人格が顔を覗かせている。
「テメーだけが、つれーとか思っているのか! ああ」
「そうだよ! 目の前で母親が爆殺されたんだぞ! その間、お前は呑気に宇宙遊覧だろうが! 」
「言うに事欠いて! テメーは一人で生きていけると思っているのか! 」
「生きていけるに決まって……」
タツマの行動が少し止まる。
―― そんな訳ないだろう? 全部自分一人で完結するのは不可能だ。
「何言っている」
―― 君が食べる食料もその衣類も誰かに作られたものだ。
「ふざけるな! 」
―― 朝、太陽の光を浴びられるのも、安全にコロニーに住めるのも、ここの管理者のお陰だ。モノを作る者、モノを運ぶ者、そして管理する者、世界の仕組みはそうなっているはずだ。
「でしゃばるな! 俺に全てを背をわせ、ここに来て説教か! 」
―― そうだな。 済まなかった。 私も子供だった。 引き籠って君から外を見た、多くの風景をみて学んだよ。
「うるせー黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 」
―― 確かに私の
経験は辛いものがあった。 でも、それに囚われ過ぎたのかもしれない。 悲しみの大小は主観的なものだ。 故に他人の物差しでは測ってはいけないことも学んだよ
「てめーは、ここの倉庫の奥で引っ込んでいろ! 」
―― そうもいかないようだ。 こっちもそろそろ外に出て見たくなった
「ふざけるな! この尼だな。 心ここにあらずの適当なカウンセリングが、影響したんだな! 」
―― 彼女は関係ない。 これは自身の意思だ。
「なら消すまでだ! 」
傍から見ると独り言を呟いているように聞こえるが、その内容から誰かと会話しているのは、明白。
スキュレスとヒルベルトは、その場で彼に警戒を向けたまま事態の推移を伺っている。
「彼は戦っているのでしょうか」
「おそらくな、文字通り自分との闘いってところだな」
そして、最後の言葉放たれ、タツマがスキュレスを睨みつける。
「くっそ。 交渉がもつれたか! 」
ダイゴが素早くトリフィナの前の立つと同時にタツマが、飛び掛かってくる。
それなりの距離を瞬時に詰めるその脚力と体の使い方は、アスリートの才能を感じさせる。しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。
飛び掛かかるタツマを止めるダイゴ。
「ついに発情時期か? ガキ! 」
「うるせーそいつがいなければ、こいつも鎮まる」
「じゃあ無理だな。お前は十分にタツマを守った。 そろそろ潮時だ」
「ふざけるな。 俺はあいつの身代わりでも捨て駒でもねー。一人の人格で一人の人間だ! 」
「ああ。知っている故にタツマの中で生きろ」
子供とは、思えない力でダイゴの抑え込んでいる手を外しにかかる。
「くっそ!なんて馬鹿力だ! 」
「年だよ爺! 」
「スキュレス逃げろ! こいつ本気だ! 」
その言葉でスキュレスが走り出す。
「逃がすかよー」
タツマが、ダイゴを蹴とばし捕縛をほどく。
「死ね! 」
彼には似つかわしくない、拳銃を取り出し構える。
「ガキがー」
発砲音が響く。
ダイゴが腕を出し、弾丸を受ける。被弾のダメージは大きく。その場でダイゴが膝をつく。
「テメーの美徳はどうした! 拳での解決がお前のモットーだろうが! モノを使って、逃げる女性を襲うとは外道に成り下がったな」
ダイゴは、被弾したが、闘争心は折れない。 食い下がるように言葉を発する。
「ふざけるなー」
タツマが、拳銃をダイゴの頭に向ける。
「死ねー」
指が動かない。
―― もういいだろ?
「くそ! 動け! 動け! 動け! 」
―― ありがとう。 もう十分だ。
「ふざけるなよ。 テメーを守ってきたのは誰だと思っている」
―― もう、色々正面から立ち向かわないとな
「やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! ……」
「……」
「……」
「……」
「……」
表情が変わる。
「……おかえり。 タツマ」
ダイゴからの言葉で、どさりと子供の体が倒れる。
少し離れたところからスキュレスが恐る恐る近づいてくる。
「大丈夫……なんですか? 」
「ああ……」
そしてスキュレスも直ぐにダイゴの腕の怪我に気づく。
「ダイゴさん!」 血! 血! 傷! 手当を! 」
「ああ。 しかし、この腕はもうだめだ……止血で精一杯……」
「ああ! レスキュー……レスキュー! 呼ばないと! 」
スキュレスが、墓守の管理棟に駆け込んでいく。




