包囲網。
フローレンス応援団にやられっぱなしのアーレイの巻。
<<後部格納庫・ベクスター>>
うふふ、嬉しいけど恥ずかしいよアーレイ様♡
薄ぼんやりとした視界が開けると、なぜか目の前には想い人のアーレイがいて、腰に回る腕の感覚、絶妙な生暖かい座り心地から、膝の上で横抱きされていると気がつく。しかし寝起きの判断力低下と嬉しさが相待って、何故このような格好になっているのかと、考えるには至らなかった。
えっ、アーレイ様、近いよ近いよ(驚
自分の両腕がアーレイの首に回り、至近距離で優しい眼差しを向けられている。当然凄く恥ずかしくなり顔を背けようとするも、体が全く反応しない。それはまるで金縛りにあったかのように自由が効かなかった。
<ああ、これは夢の中なのね・・>
周囲を見渡すと王宮の自室だし、自由が効かないとなれば夢の中だと気がつく。これは妄想なのか、願望なのかと考えているうちに、アーレイとの距離は互いの鼻が重なるほどになり、受け入れたい気持ちから自然と目を瞑る。
ンッ、ンン。
<キス、キスしてる、アーレイ様とちゃんとキスしてる>
柔らかな感触が唇を通して伝われば、嫌でもキスしているとわかり、夢にまで見た?まぁ夢の中なのだが妙に現実味がある。これは何なの願望よねと納得していると、急に目の前が真っ暗になってしまう。
<寒い、凄く寒いよ>
全身の体温が上がっていく感覚から一変して、急に寒さを感じ暗闇から解放されると、何故か自分の顔を俯瞰して見ていた。
<えっ?生きているよねわたし>
呼吸用のフェイスマスクを装着しているものの、青白く生気が全く無い、凍りついた死人の様な寝顔を見た瞬間、息が詰まりそうになる。落ち着こうと周りを見渡そうとしたが、直ぐに闇に引き込まれ、意識が落ちてしまう。
<ここはどこなの、なんで光しか見えないの>
寸分の光を通さない闇が生暖かい感覚と共に溶かされ、朝の目覚めのような気分になるものの、一向に視野が戻らず不安だけが増して行く。冷静に状況を把握しようと努力するフローレンスは、ゆらゆらと身体が水の中で揺れていることに気がつき、同時に不規則なことから、どこかに運ばれていると分かる。
<嗚呼暖かい、けど身体の芯がとても寒い・・>
体表は生暖かいものの、身体は凍てつくような寒さに見舞われ、視界は戻らず忙しなく人影だけが動いていた。程なくすると揺れが収まり、ぼんやりとした影が徐々に大きくなり始め、それは自分を覆い尽くそうとしている。
「怖い、怖いよ、だ、だれ、誰なの」
状況が全くわからないまま抱き上げられれば当然不安になり、離れようと声を上げるが、思うように発声できず手足をバタつかせ足掻く。察したのか「おはようレン、僕だよ」と声をかけられ、最愛の人とわかった途端、力が抜ける。
「私って何の夢を見ていたのかしら・・」
目を開けると先ほどとは違い、薄暗い中にベクスターの天井がはっきりと見える。ベッドから身体を起こし機内を見渡すと、リクライニングチェアーで寝ているアーレイが視界にはいった。
「ふふ、かわいい寝顔だね。一緒に寝ても良かったのよアーレイさま♡」
ゆっくりとそっとアーレイに近づくと、覗き込むように寝顔を眺め、同じ空間にいることが嬉しいのか微笑みを溢れさせていた。先ほどまでの激動の夢物語はすでに忘却の彼方らしい・・。
「ねえアーレイ様、わたし本当にいなくなっちゃいますよ。実はもう婚約承諾書が届いていますのよ」
「・・・」
「全然好みじゃないポンコツだし、サインしたくないし、私を攫ってよ」
安らかな寝顔を見て、あともう少しで受け入れそうなアーレイの事を想うと、途端に胸が苦しくなる。切ない表情へと変わったフローレンスは、焦りからつい思いの丈を吐露していた。
「ごめんねいっぱいわがまま言っちゃって。責務じゃないよ本当に好きなんだからね。この思いを貴方に届けるにはどうしたらいいの。私を貴方の1番にして、おやすみ愛しい人」
堰を切ったように、溢れ出す想いはとどまることを知らず、もし正面切って宣言されたら、頑なに断るアーレイとて、拒否するのは相当難しいだろう。寝ているけど想いが通じるのならばと、願うその表情は少し悲しげだけど、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
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「寝たふりは、趣味悪いですよ」
「仕方ないだろ、あんなこと言われたら起きるに起きれないよ」
「ですよねー」
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寝言で名を連呼され、眠りが浅かったアーレイは薄目を開け様子見をしていた。突然フローレンスが起き上がり、反射的に目を瞑ったことで機会を失い今に至る。しかし内心というか、心の叫びを聞いたことで胸の内は苦しくなる一方だ。
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「ここまで執着するということは、どうせ碌でもない相手だろ」
「強欲で女癖が悪く評判がよろしくない、ポンコツ貴族です」
「はぁ勿体無いな。そう考えると彼女の幸せを叶えてあげたくなるよ」
「アブラム家に嫁ぐより、娶るほうが最善だとAiは分析しますよ〜」
「・・・」
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妙に人間味のあるフェアリーの言葉は、躊躇している心に突き刺さる。結婚して子供を授かった後、別れて地球に戻る手立てもあるが、それは流石に良心が許さない。無視するわけにもいかず、苦悩するアーレイは目を細めた。
「不甲斐ない俺がいけないのはわかっている。1番にしたいのが本音なんだよ」
行き場の無い自分の思いを赤裸々に語られ、アーレイは迷いに迷っていた。そう、彼女の幸せを考えると受け入れた方がベスト、けど自分には地球に残した妻の事を考えると、どうしても躊躇してしまうのだ。スヤスヤと眠る彼女に向かって、返事というか本心を呟いた。
うわっ聞かれてたんだ、超恥ずいよ(汗
目を瞑って落ちかけの間際、ふと気配を感じ、フローレンスは意識が遠くなりつつ聞き耳を立てていた。突然、答え合わせのようなアーレイの呟きが聞こえ、思わずドクンと鼓動が高鳴り、反射的に反応しそうになるが、絶対動いてはダメだと思い、必死に表情筋をコントロールしてことなきを得る。
ああもう、どうしたらいいの・・。
飛び起きて「今すぐに決断して」と迫れば容認する可能性は高い。だが想いを聞かれ、恥ずかしい自分がいて動き出せないでいる。緊張と羞恥心が作用して、赤面しそうになり隠そうと寝返りを打つ。悶々としていると上がった体温が眠気を誘い、知らぬまに眠りにつくのだった。
<<アイシャの自室にて>>
就寝前の心鎮まる時間帯、深紅の雫を嗜むアイシャは剣呑な表情を浮かべ、広口の大きなグラスを眺めていた。
「アブラム家の内情を知れば、嫌でも心動かされることでしょう」
女狐女王は不釣り合いな相手を選び、アーレイ包囲網の援護射撃を自ら行っていたとは知る由もない。それは危険な賭けでもあるが、デルタ王族の本気の表れでもある。
ーー
<<数時間後・後部格納庫>>
支配地域を外れディスティアの索敵範囲を抜け出せば、満を持してベクスターを飛ばせる。後部座席には今いまかと、出発を待ちきれない子供達。やっと抜け出せると思ったのか、ホッと胸を撫で下ろすルワンダがいた。
「それでは出発します」
目覚めたベクスターのエンジンは戦闘機特有の高い金属音を奏で、ホバリングモードのスイッチを入れると、直ぐにフワッとした浮遊感が得られる。ジョイスティックを操作してゆっくりと艦外に機体を転がした。
「うぉースゲェ!」
「うわぁ綺麗」
格納庫から出た途端、無数に広がる星々が目に飛び込んでくると、子供たちは大喜びを始める。コパイ席に座りヘッドセットを付けたフローレンスは口数少なく、遠くを眺めていた。
「どうした元気が無いね」
「未だ敵地には変わらないので、少し緊張しております」
緊張という割には顔はこわばることなく物静かすぎる。想像するに想いが少しでも伝わってくれたのかなと、淡い期待を寄せているのか、吐露したことを聞かれ、恥ずかしさから冷静を保っているだけかもしれない。顔色ひとつ変えず飄々と受け答えをする姿を見て、アーレイは申し訳ない気持ちになっていた。
「それならサクッと退散しなきゃね」
「はい」
悟られないように冷静を装うのは、なにも姫様だけではない。アーレイもまた普段通りを心がけ、操作板を叩きジャンプシーケンスを終わらせる。ベクスターが超高速亜空間に飛び込むと、小さな声で答えた彼女の瞳には、流れゆく星々が映っていた。
ーー
<<惑星カルネ・大気圏突入直前のベクスター>>
ジャンプアウトしたベクスターは管制室とのやり取りを済ませ、大気圏突入に向け、保護シールドを展開しつつ地上へと降下中だ。ホテル上空まではフルオートなので、アーレイとフローレンスは後部座席に移動していた。
「もう大気圏突入なのですね、凄く早くないですか」
「元々王族専用機でしたので、逃げ足の速さは一級品なんですよ(笑」
「もしかしなくても、話していたプライベートジェットって、これなのですね(呆」
同じ様に高速客船で移動となれば半日とは言わないが、それなりに時間が必要だ。離艦して数十分で到着すれば、流石に驚くのは無理もないだろう。驚きの連続に呆れたルワンダはジッとアーレイを見つめていた。
「性能がいい反面、維持費の捻出が大変ですよ」
「アーレイさんってお金持ちなんですね〜うちの旦那もこれくらい稼いでくれないかしら(笑」
「どこの世界も一緒なんですねー(棒」
旦那の稼ぎがもう少し良ければと思うのは万国共通らしい。生温かな目で見られるし、隣で微笑むフローレンスは何か言いたそうなので、目線を合わせないようにする。
「ねぇアーレイ様、私と結婚したら王族権限でタダになりますわよ(笑」
「それはいい考えですわねアーレイさん(笑」
「こら、2人とも隙あれば推してくるな」
女性同士は結託しやすいと巷でいわれるが、この2人はそもそも相性が良いのだろう。微細なネタに即座に反応して、口撃されるアーレイの精神はガリガリと削られる一方だ。もし応援団にジャクリーヌが加わる事態になったら、もう目も当てられない。到着したばかりだけど、なる早でクーンに行きたくなっていた。
<<アイランドリゾートホテル>>
<カルネコントロールDMV230ベクスター、コードを確認、指定された座標へ向かえ>
「サンキューコントロール、これより指定された座標へ向かうDMV230ベクスター」
ホテル上空まで降下すると島の管制より、VIP格納庫の座標が送られてくる。極力ベクスターを人の目に晒したくないし、ディスティア諜報部に悟られないため、ジャクリーヌが事前に手を回していたようだ。可変翼を広げたベクスターは島の周囲を遊覧しながらゆっくりと高度を下げた。
<<アイランドホテル・ロビー>>
「遠路はるばるようこそ、私がオーナーのジャクリーヌです」
「この度はお世話になりますルワンダと申します。どうぞお見知り置きを(汗」
裏手の格納庫から正面玄関に回ると、紫色のシックなスーツに身を包んだジャクリーヌがお出迎えしてくれる。ルワンダは綺麗に整列している多数の獣人の従業員達を見て少し慄き、ジョアンとジェシカはメイド服がよく似合う猫種族を見て、キラキラとした目をしながら笑みを浮かべていた。
「心ゆくまでゆっくりなさってください。それにしても可愛い子供達ですね(笑」
「お、お世話になります。あの、ここの費用をお支払いしたいのですが、着の身着のままで来てしまったので(汗」
微笑ましい光景を見ていたジャクリーヌは同じような未来を欲しているらしく、優しい眼差しを向けている。一方のルワンダは従業員の所作や調度品を見て、このホテルが超高級だと気がつく。となれば支払いのことが頭をよぎり、借りたモジュールでは支払えず、現金など持ち合わせていないので不安になっていた。
「デルタ軍として動いているので、費用は気にしないでください」
「ルワンダ奥様、大きな声では言えないのですが・・」
「え゛っ」
軍費で賄うので旅費は気にしなくてもいいと言っても、不安な表情が消えない。なのでフローレンスがこのホテルの相場を教えると、ルワンダは目を丸くして驚く。今晩泊まるスーペリアスイートルームに3人で2泊もすれば、旦那の年収では到底払えない金額になるので、そうなるのも致し方ない。
「安全を買うと考えれば安いと思いませんか」
「そ、そうですね。そう考えれば安いかも(大汗」
「アーレイ少佐、ポコを褒めてあげてくださいね、頑張って食材確保してますわよ(笑」
なんとか納得してくれたルワンダは申し訳なさそうな顔をしている。最終的にルドルフをリクルート出来れば、この程度の金額は安いとアーレイは考えているので気にも留めてない。とりあえず先着したポコを労うため、ビーチへ向かう事に。
<<トロピカルビーチ>>
「アーレイ様が来たナノ〜、獲ったナノー食べるナノー」
スク水に丸い水中眼鏡を頭にひっかけ、右手にモリを握り、袋状の漁網を肩から下げている。どこをどう見ても海人さんにしか見えない。野生の血が騒いだ成果なのか、クーラーボックスには大量の魚介類が詰められていた。
「色々ご苦労様だったね。これは凄いな、客人が多いから助かるよポコ」
「うにゃ!」
「凄いねポコちゃん。私には真似できないわ」
忠犬ポコはアーレイに褒められると、千切れんばかりに尻尾を振り、頭を撫でられ破顔している。その微笑ましい光景を見たフローレンスに笑みが戻っていた。
<<昼食後・・>>
「ジョアン、ジェシカ、料理長さんにお礼を述べるのよ」
「美味しいお魚ありがとます」
「お口にあってよかったです」
ビーチで浜焼きを楽しむ予定だったが、丸ごとの焼き魚は子供達には難しく、気を利かした料理長が腕を振るい、コース料理に仕立ててくれた。初めてのお刺身におっかなびっくりしながらも、気に入ったのかジョアンとジェシカは美味しそうに完食していたよ。
<<昼下がり・・>>
「必殺ポコスパイクナノ」
「キャー、ポコちゃんやったなー」
食事が終わり一息つくと、子供達は海に入りたいと御所望したので、全員水着に着替え遊びに興じる事になる。ビーチバレーを始めたのはいいが、ポコの運動能力は想像よりも高く、フローレンスは防戦一方で、ヤキモチの原因には容赦はなかったりする。
「あのプロポーションを見ても拒否するって、男としておかしく無いですか」
「まあ確かに素晴らしい物をお持ちのようで(棒」
応援団に詰め寄られているアーレイもまた防戦一方だ。ルワンダは若い二人をくっ付けるのが面白くて推しているのだが、その軽い言葉でもグサグサと心に突き刺さる。
「本当に可愛らしいですよね。貴方といるときはさらに輝きますし、幸せ者ですね(笑」
「それは十分感じていますよ、私の決断次第ってことも」
絶世の美女と言われたコーネリアを、凌ぐと噂されるフローレンスは国民的人気が高く、ディスティア人から見ても羨む美貌を備えている。そんなことは重々承知のアーレイは拒否する理由を話せずに、内心では悶々としていた。
「もう答えはわかっているんでしょ、いなくなった時に気がついても遅いですわよ」
「重々承知しております。なので悩んでいるのです」
「今回はこれくらいにしておきますね」
「ええ、そうしていただけると大変助かります(汗」
女の直感で、間違いなく2人は相思相愛だと踏んだルワンダは、悩む姿を見て脈ありと思い口角を上げる。一方、言われ放題のアーレイは決められない自分に歯痒さを覚え始めた。
>
「幸せを願うなら、アブラム家よりウェブスター家しょ、詳細見ますか」
「そんなもんイラネ、廃棄しろ」
>
まんまと女狐アイシャが仕掛けた作戦の通りに、茶々入れ大好きAiは嬉々として答えを導きだす。姫様の呟きで碌でもない相手だと察したアーレイは、やるせない気持ちになってしまう。
ーー
<<夕食後・格納庫>>
「異常なしナノー、警備モードにするナノー」
夜も新鮮な魚介類を堪能した後、親子は寝室へ向かい、アーレイ一行はラウンジに場所を変え、ポコはベクスターの整備兼警備に向かっていた。
「警備はピンキーにお任せナノ」
「よろナノ、早く行かないとナノ」
整備が終わり最後にピンキーに警備を任せ、夜会で姫様とアーレイをふたりきりにしたく無いポコは、足早にホテルに戻ろうとしていた。何が何でも参加して邪魔したいし、もちろん隙あればアーレイ大好きをアピールするつもりだ。
「ポコちょっと良いかしら、今晩はあの2人だけにしてあげてね」
「それは無理ナノ、ライバルだけにしたくないナノ!」
当然、夜会を楽しみにしていたポコは、最近姫様とアーレイの距離が急接近しているのを目の当たりにして焦りが出ていたので、珍しくジャクリーヌの頼みですら拒否していた。
「彼女が強制的に婚約させられるとしたらどう思うかしら、貴女も家の都合で結婚相手を決めたら嫌でしょ」
「確かにそれは嫌なことだし酷いことナノ。けど王族だから仕方ないのでは」
王族には自由な婚姻がないことを知るジャクリーヌは、自身も同じ境遇なので痛いほど気持ちがわかるのだろう。説得しようとするも、そもそもポコにはその常識は通用しないので、険しい表情が変わることはない。
「最後の思い出作りなの。だから今日くらいは2人だけにしてあげてね」
「今晩だけナノ、嫌だけどわかったナノ(オコ」
2人っきりにする事を容認できないポコの眉間には皺がより、犬歯を剥き出しにして不機嫌を体現している。とはいえ、これ以上頑なに拒否するのはジャクリーヌの顔に泥を塗ることになると思い、なんとか矛先を納めてくれるのだった・・。
宜しければブクマ、評価、感想などお願いしますナノ。




